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今年6月に行われた中野区長選挙において、現職の酒井区長は自らが掲げる「子育て先進区」の実績を大々的にアピールしました。しかし、その華やかなスローガンの裏で、子育て政策の根幹をなす基本計画の「政策成果指標」は完全に機能不全に陥っています。
実際に、中野区の最上位計画である「中野区基本計画」の令和6年度評価(表1)を見ると、設定された20の成果指標はすべて悪化しており、その達成率は「0%」でした。
さらに、先日の議会における一般質問の答弁では、5か年計画の最終年度にあたる令和7年度においても達成率が「0%」のままであったことが示されました。政策を推進する基盤そのものが、最後まで破綻したままであったことは、極めて重大な問題です。

表1 政策の成果指標の進捗状況
(令和7年4月24日 総務委員会「中野区基本計画の進捗状況について」)
施策と指標の因果関係の破綻がもたらす「歪み」
そもそも、実施している施策と成果指標との関連性が極めて希薄であることも大きな課題です。
例えば、今年度から始まった基本計画の「政策6:子どもの命と権利を守る」に位置づけられている給付型奨学金事業ですが、その成果指標は「体制が整っていると思う区民の割合」という、主観的な意識調査にとどまっています(図1)。

図1 給付型奨学金事業に関わる「政策の成果指標」
(中野区基本計画2026年度▶2030年度, 95ページ)
さらに、その下の施策指標には、『授業が「よくわからない」と感じる困窮世帯の子どもの割合』や、『がんばれば、むくわれると思う子どもの割合』が掲げられています(図2)。これらは、奨学金事業によって直接的に改善する性質の指標ではありません。

図2 給付型奨学金事業に関わる「施策の成果指標」
(中野区基本計画2026年度▶2030年度, 97ページ)
計画を無理に細分化し、見かけの整合性だけを図ろうとした結果、かえって事業現場や行政評価そのものに大きな「歪み」が生じています。
施策と指標の因果関係が破綻していては、正しい評価など不可能です。すなわち、これまでの5年間の基本計画における失敗が全く総括・反映されないまま、新たな基本計画が策定されてしまったと言わざるを得ません。
今後、区は成果指標の「妥当性」や「論理的整合性」をどのように担保していくのか、抜本的な見直しが求められます。
区は「行政評価制度の見直し」を予定していますが、まさにその議論の場において、成果指標の妥当性などを厳格に問い直すべきです。現行の基本計画を今から書き換えることが困難であるならば、客観的な実態を測定できる新たな補助的指標を創出し、データとして柔軟に活用していく姿勢が不可欠です
統計データが示す「出生数減少」の厳然たる事実
区の政策は、曖昧な主観ではなく、具体的なデータに基づいて議論されるべきです。区長はこれまで、実施してきた諸施策が出生率の向上に「寄与するものと考えている」と言った曖昧な答弁を議会で繰り返してきましたが、それは政策の成果が数字として表れていないことの裏返しに他なりません。
特に、若者の単身流入が多い中野区においては、分母(女性人口)の変動に左右されやすい「合計特殊出生率」ではなく、実態を正確に反映する「出生数」そのものを重要な評価軸に据えるべきです。

中野区の出生数の推移(図3)を見れば、区が直面している危機的な状況は一目瞭然です。
東京都全体では、本年6月の都知事会見において「都内の日本人出生数が10年ぶりに増加へ転じた」と報告されました。しかし、中野区の出生数は2016年の2,764人をピークに減少へ転じ、2020年(2,530人)の一時的な微増を除いて、一貫して右肩下がりを続けています。
特に酒井区政下で「子育て先進区」を掲げた2021年から2025年にかけての基本計画実施期間では、2021年の2,481人から、2,334人、2,238人、2,188人と減少し続け、東京都全体が増加に転じた2025年においても、中野区はさらに減少して2,166人にまで落ち込みました。「子育て先進区」を掲げた基本計画がスタートしてなお、出生数が減少し続けている原因を厳密に検証し、効果の薄い施策の棚卸しを今すぐ行うべきです。

図3 中野区の出生数の推移
住宅政策・都市計画と連動した構造的課題へのアプローチ
区民の目から見ても、「出生数を反転させるために予算を傾斜配分する」ということであれば、一定の理解は得られるでしょう。しかし、現実に子どもの数が増えていないのであれば、その政策に対して区民が大きな疑問を抱くのは当然です。
さらに、子どもの数が増えない背景には、単なる子育て施策の枠を超えた「構造的な課題」が存在します。中野区の年齢別転出超過数(表2)を見ると、区は基本計画の中で「0〜9歳の転出超過数の抑制」を掲げていますが、その内訳の8〜9割は「0〜4歳」の未就学児が占めています。

表2 中野区の転出超過数(転出者数―転入者数)
住民基本台帳人口移動報告 年報(総務省統計局)
つまり、子どもが小学校に入学する前の段階で、ファミリー層が中野区から大量に流出しているのが現実なのです。その最大の要因は、区内の地価および家賃の高騰にあると考えられます。
私の地元である弥生町を例に挙げれば、新築の家賃相場は1平米あたり5,000円に達しており、50平米の住居を確保しようとすれば月額25万円を要します。これは、現在の現役世代において、ダブルインカム(共働き)でなければ到底維持できない水準です。この地価高騰は、中野区の堅調な税収増を支えてきた側面もあるものの、一方で子育て世代の定住を著しく阻む要因となっています。
どれだけ手厚い子育て施策を講じたとしても、安心して暮らせる住まいが区内になければ、中野区が選ばれることはありません。
区はこの「0〜4歳児の圧倒的な転出超過」という現実を重く受け止め、増大した税収を原資として、住宅政策や都市計画と連動した抜本的な流出抑制策を講じるべきです。これまでの延長線上にはない、区長の「先進的」かつ前向きな決断を強く求めます。







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