これからFIREの難易度が上がる理由

黒坂岳央です。

FIREを目指す人間が増え続けている。パーソル総合研究所の調査によると、20代男性で「50歳以下でリタイアしたい」割合が、2017年の13.7% → 2024年の29.1%(約2倍増)。30代男性も55歳以下希望が14.3% → 28.1%とほぼ倍増している。

だが、これから先の市況は、これまでFIREを実現してきた世代が前提としてきたものとは根本的に別物になる。低インフレ、右肩上がりの株価、為替。この三つが同時に成立していた期間に築かれた「FIRE成功パターン」は、これからは厳しくなるだろう。

筆者の意見としては、これからはさらなるインフレや株暴落を想定した上でFIREをするべきだと思うのだ。

生活コストが上がる

日銀が発表した2026年6月の国内企業物価指数は、前年比7.1%の上昇となった。上昇率は前月から0.5ポイント拡大し、2023年3月以来の高い伸びである。輸入物価は円ベースで前年比29.7%まで達しており、円安を背景に今後も上昇が続く可能性が高い。

7%という数字が意味するのは、企業間で取引される原材料や部品の価格が非常に高い水準に上がっているのに対して、消費者物価はまだそこまで転嫁されていないという状態だ。つまり企業は今、原価上昇分を自社の利益で吸収している段階にある。

だがこれは長くは続かない。タイムラグが解消される時、消費者物価はもう一段跳ね上がる。年間生活費300万円を想定していた人が、400万円、500万円が必要になれば生活は苦しくなる。「株式はインフレに強い」という意見も多いが、株式のリターンで吸収しきれないインフレは生活に打撃を与える。

ギリギリFIREは株暴落で落とされる

株式市場は長らく大きな暴落や長期低迷を経験していない。この状態が続いた後にいざ暴落し、長期低迷に入れば、株式100%で運用している人間は下落局面で資産を取り崩し続けることになる。いわゆるシーケンス・オブ・リターン・リスクだ。

仮に資産が50%下落し、生活費のために安値で売却してしまえば、その後相場が回復しても元本自体がすでに毀損している。インフレが続けば、働かなければ生活はできない。

逆にいえば株式市場は過去十数年、極めて恵まれた環境だった。これまではたまたま少額で簡単にFIREしやすい状況が続いたが、当然いつまでも続くわけがなく、いざ崩れたら大きなふるい落としが待っている。FIREを目指すなら、株式100%のポジションは「暴落しませんように」という運否天賦といえる。

労働者が減るとFIREはできない

「FIREは少数派だから成立する」という本質がある。人口減少による労働力不足というメガトレンドに、FIRE志望者の増加が重なれば、労働供給はさらに細る。

この労働力不足は賃金を押し上げる。人手を確保するために企業は賃上げで対抗せざるを得ず、その人件費上昇はやがて価格に転嫁される。これは需要インフレとは別の、賃金コストプッシュ型のインフレである。

そうなればギリギリの資産でFIREしている人間は、この賃金インフレによる生活コスト上昇に資産運用益だけで対抗しなければならず、やがて取り崩しだけでは支出に耐えられなくなる局面が来る。

だが、FIREは片道切符であり、一度正社員としての現場から離れれば、年齢やブランク、スキルの陳腐化により復帰は厳しい。いざ労働が必要になった時、選べる選択肢がギグワークしかなければ、厳しい状況に晒される。

逆に富裕層FIREの盤石化する

前半では「これからFIREの難易度が上がり、貧乏FIREはふるい落としがある」といった。だが、皮肉なことに富裕層FIREは今後のインフレはむしろ追い風になる。

すでに3億円、5億円と資産があり、株式以外にも分散されていれば株式の暴落や長期低迷があっても耐えられる。皮肉なことに彼らはますます、立場を盤石にするのだ。つまりこれから起きるのは、「FIREそのものがダメになる」のではなく「貧乏FIREの淘汰」という見方ができる。

生活費300万円、資産7500万円で4%ルールに従うようなギリギリのFIREは、インフレ、増税、暴落、医療費増加のどれか一つが想定を超えただけで簡単に破綻する。一方、資産3億から5億円あれば、年3%の取り崩しでも900万から1500万円を確保でき、インフレ局面では企業利益や資産価格の上昇の恩恵も受けやすい。

これからのFIREは「貧乏でも生活費を下げれば達成できる」という時代は終わる。資本主義社会は非常に厳しい。これまではあまりにもイージーすぎただけで、株式や労働市場は個人の事情など無視して動く。


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Z世代を甘やかすな」(著:黒坂岳央)

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

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