小林政調会長の「2600年以上守り抜いた皇室の伝統」がネットで話題

自民党の小林鷹之政調会長が、皇室典範改正案の審議で述べた言葉が、ネット上で波紋を広げている。小林氏は7月10日の衆院議院運営委員会で、皇位継承について「皇位の男系継承は2600年以上にわたって先人たちが守り抜いてきた皇室の伝統だ」と述べ、男系継承の意義を政府に質問した。

縄文時代に皇室があったのか

話題になったのは「2600年」という数字である。これは神武天皇が紀元前660年に即位したという『日本書紀』の記述にもとづく「皇紀」に由来する。西暦1940年が「皇紀2600年」とされ、政府主催の記念行事も行われた。

もちろんこれは神話である。ネット上では「神武天皇の実在を信じているのか」「縄文時代に皇室があったのか」といった疑問が相次いだ。社会学者の古市憲寿氏や宗教学者の島薗進氏、猪瀬直樹氏らも、明治期の皇国史観を思わせるなどと批判している。

「男系の皇統」は明治の男尊女卑のルール

縄文時代に皇室があるはずもなく、したがって男系継承にも根拠がない。『日本書紀』の継体天皇までの系図はほとんどフィクションであり、当時は双系の氏族社会で、皇室はまだなかったというのが通説である。

明治時代までは男系という明文のルールはなく(これは小林氏も認めている)、大宝律令は「女帝の子でも皇位を継承できる」と定めている。男系の皇統なるものは、明治22年に井上毅が男尊女卑の儒教にもとづいてつくったルールである。

こんなことを高学歴の小林氏が知らないはずはないが、彼はたびたび「神武以来126代の皇統」などの言葉を公式に使っている。それを信じるのは彼の自由だが、神話を根拠に立法するのはとんでもない話だ。天地創造の神話を信じる人はいるが、それを立法の根拠にする国はない。

自民の岩盤支持層へのリップサービス

小林氏は政調会長として、高市首相の意を受けて今回の改正を取り仕切ったといわれる。総裁選挙に立候補したこともあり「ポスト高市」の候補ともいわれる。こういう神話を信じる人が自民党の岩盤支持層にはまだいるのだろう。

しかしそんな戦中派老人へのリップサービスとして皇紀2600年を語り、それを根拠に皇室典範を改正する時代錯誤にはあきれる。

今回の改正には麻生副総裁が異様な熱意を示しているが、これも(親族に皇族をもつ彼の)皇室の私物化だ。それに奉仕して党内で出世する道具に皇室典範を使うのは、皇室の侮辱である。

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コメント

  1. 早川蒼真 より:

    男系継承の歴史的根拠を「神話にすぎない」と批判すること自体は、歴史学的に正当な指摘であり、私も一定の賛同を示したい。
    しかし本記事にはいくつか看過できない事実の誤認と、論理の飛躍が含まれている。

    **1. 大宝令「女帝子亦同」の解釈は断定できない**

    記事は「大宝律令は『女帝の子でも皇位を継承できる』と定めている」と言い切るが、これは正確ではない。当該条文は、天皇の兄弟・子を親王とする**身位**に関する規定であり、「女帝の子も男帝の子と同様に親王とする」と読めるにとどまる。これが女系による皇位継承資格を直接認めたものかどうかは、研究上も解釈が分かれている。

    **2. 「神話を国家が尊重すること自体がおかしい」という論調への反論**

    記事の根底には「神話を根拠にするのは時代錯誤」「科学的にあり得ないから価値がない」という発想がある。しかし、起源神話や伝説を国家的・文化的な象徴として尊重すること自体は、日本に固有の異常な現象ではない。

    – **中国**は公的言説で「中華文明五千年」を掲げ、伝説上の黄帝を「人文始祖」として扱う。河南省の「黄帝故里拝祖大典」や陝西省黄陵県の公祭軒轅黄帝典礼は、政府機関が関与し海外華僑も参列する国家級の行事であり、無形文化遺産にも指定されている。黄帝の実在が近代歴史学で実証されているから祀っているのではなく、文明の起源と民族的連続性の象徴として尊重しているのだ。
    – **米国**では歴代大統領の多くが聖書に手を置いて就任宣誓をしてきた。聖書には海が割れる、水がぶどう酒に変わるといった科学的に説明できない記述があるが、「科学的に怪しいページを破り捨ててから宣誓せよ」とは誰も言わない。それは科学的真実の証明ではなく、価値観と伝統への「誠実さの誓い」という象徴的文脈で理解されているからだ。

    つまり、神話や伝説を国家的儀礼・象徴として大切にすること自体は世界的にごく普通のことであり、日本だけが突出して異常だと決めつけるのは一面的である。小林氏の「2600年」という表現を歴史学的に批判するのは可能だが、それと「神話を尊重すること自体の否定」とは別次元の話だ。

    **3. 動機の断定は政策批判ではなくレッテル貼り**

    最も同意できないのは、記事が「戦中派老人へのリップサービス」「麻生氏による皇室の私物化」「出世の道具」と、証拠のない**内心の動機**を断定している点だ。これは政策の当否を論じる批判ではなく、支持者を年齢で侮蔑し、政治家の内面を勝手に決めつける詭弁にほかならない。

    **結論**

    実証性と伝統的価値の双方を、どう調和させて未来に引き継ぐか――記事が本当に問うべきだったのは、その一段深い論点だったのではないだろうか。

  2. 早川蒼真 より:

    いろんな建国神話

    ◆中国――黄帝と炎黄子孫
    中国では、約5000年前の人物とされる黄帝が、諸部族を統合し、文字、暦、舟車、衣服、医学など文明の基礎を築いたと語られます。中国人を「炎黄子孫」、すなわち炎帝と黄帝の子孫と表現することもあります。
    中国側の公的言説でも、黄帝は「中華民族の人文始祖」「文明始祖」「最初の中国の建設者」などと位置づけられています。

    ◆韓国――檀君神話
    天上神・桓因の子である桓雄が地上に降り、人間になることを願った熊に試練を与えます。熊は女性に変身し、桓雄との間に檀君王倹を生みます。檀君は紀元前2333年に古朝鮮を建国したとされます。
    韓国では10月3日が「開天節」という国民の祝日で、檀君による建国を記念しています。

    ◆モンゴル――蒼き狼と白き牝鹿
    『元朝秘史』は、チンギス・ハンの遠い祖先について、天命を受けて生まれた「蒼き狼」と、その妻である「白き牝鹿」から始めています。

    ◆イスラエル・ユダヤ民族――出エジプト
    モーセに率いられたイスラエルの民が、エジプトでの隷属から脱出し、海を渡り、シナイ山で神と契約を結び、約束の地を目指す物語です。古くから「ユダヤ民族の国民的叙事詩」と位置づけられてきました。

    ◆エチオピア――ソロモン王とシバの女王
    エチオピアの国民的叙事詩『ケブラ・ナガスト』では、シバの女王マケダがエルサレムのソロモン王を訪ね、二人の間にメネリク1世が生まれたとされます。メネリクは契約の箱をエチオピアへ運び、歴代エチオピア皇帝はその子孫であるとされました。これは1974年まで続いたソロモン朝の正統性を支えた宗教的・王朝的建国神話です。

    ◆メキシコ――鷲、サボテン、蛇
    メシカ人は、神から「湖の中の島で、サボテンに止まる鷲を見つけた場所に都市を築け」と告げられたとされます。
    テスココ湖でその光景を発見し、テノチティトランを建設しました。現代のメキシコ国章と国旗には、サボテンの上で蛇をくわえる鷲が描かれており、古代の建都神話が国家の公式シンボルとして生きています。