高市早苗首相が目玉政策として掲げてきた飲食料品の消費減税が、事実上の棚上げに追い込まれた。
制度設計を協議してきた「社会保障国民会議」の実務者協議では、与野党の主張の隔たりを埋められず、消費減税についての合意形成を断念する公算が大きくなった。自民党の小野寺五典税調会長は、飲食料品の消費減税を今回の取りまとめ案から外し、先送りした。

高市首相 首相官邸HPより
消えた「食料品1%」案
自民党は、飲食料品の消費税率を一定期間、現在の8%から1%へ引き下げる案を検討してきた。所得に応じた給付制度と組み合わせ、負担を実質的にゼロに近づける構想も示されていた。
しかし、実務者協議では消費減税を議題から切り離し、給付付き税額控除などの制度設計を中心に議論することになった。飲食料品減税は取りまとめ案から姿を消し、実施時期も財源も決まらないまま先送りされた。
要するに、高市首相の看板政策だったはずの消費減税は、与野党協議の本丸ではなくなったのである。
財源を考えない減税は政策ではない
そもそも、この消費減税は最初から財源についての具体的な裏付けを欠いていた。
飲食料品の税率を大幅に引き下げれば、毎年数兆円規模の税収が失われる。その穴を何で埋めるのか。国債を増発するのか、別の税金を引き上げるのか、社会保障費を削るのか。高市首相も自民党も、明確な答えを示してこなかった。
「まず減税を決め、財源は国民会議で考える」という順序自体が逆である。家庭でも企業でも、収入を減らすなら、それに見合う支出削減や代替収入を先に考える。国家財政だけが例外であるはずはない。
財源を示さずに減税だけをアピールするのは、政策というより選挙向けの人気取りである。その負担は、国債の増発による金利上昇や将来の増税という形で、結局は国民に戻ってくる。
消費減税そのものよりも深刻なのは、政府がその基本的な財政責任を放棄していたことである。
与野党も自民党もまとまらない
合意できないのは当然だ。各党の政策は根本から異なっている。
恒久的な消費減税を求める政党もあれば、所得税や社会保険料の負担軽減を優先する政党もある。低所得者への給付を重視し、一律の消費減税には反対する意見も強い。
自民党内にも慎重論がある。一度引き下げた消費税率を数年後に8%へ戻せば、国民には事実上の増税と受け取られる。期間限定の減税のために、企業はレジや会計システムを改修し、その後もう一度元に戻さなければならない。
財源も決まらず、終了後の出口もなく、事業者の負担も大きい。これでは制度設計が進まないのは当たり前である。
国民会議は「公約撤回装置」だったのか
高市首相は、飲食料品の消費税負担を軽減する方針を掲げる一方、財源や実施時期については国民会議で検討するとしてきた。
首相としては、与野党の合意という形をつくり、消費減税を実現したかったのだろう。しかし、会議で明らかになったのは、各党の意見がまとまらないという当然の事実と、政府案に財源の裏付けがないという致命的な欠陥だった。
国民会議は合意形成の場というより、高市首相が掲げた無理な公約を先送りするための装置になったように見える。
「検討を加速する」と言いながら会議を重ね、最後は「与野党の合意が得られなかった」と説明する。これでは、首相が自らの公約に対する責任を超党派協議へ転嫁しただけである。
本当に減らすべきは社会保険料
飲食料品の消費減税は、高所得者にも大きな恩恵が及ぶ一方、本当に支援が必要な世帯へ重点的に届く政策ではない。
巨額の財源を使うのであれば、低所得者への直接給付や、現役世代の社会保険料負担の軽減に充てた方が効果的である。現役世代にとって本当に重い負担は、買い物のたびに見える消費税よりも、給与から強制的に差し引かれる社会保険料だからだ。
財源なき減税を国債で賄えば、金利上昇や円安を通じて輸入物価を押し上げる可能性もある。物価高対策として始めた減税が、かえって物価高を悪化させるなら本末転倒である。
国民会議は結論を出せなかった。だが、それは会議の失敗ではない。もともと財源も出口も考えずに掲げられた政策だったことが明らかになっただけだ。
消費減税を強行するのか、現実を認めて撤回するのか。決断の責任は高市首相自身が負うしかない。華々しく掲げられた飲食料品の消費減税は、実施される前から「死に体」になりつつある。







コメント