「別居した妻が最強」でいいのか?夫を絶望させる「婚姻費用」の残酷な実態

あるX投稿が、別居後から離婚成立までの婚姻費用(婚姻費用分担義務)について、強い問題意識を投げかけた。

年収500万円程度の会社員が月15万円近い婚姻費用を負担するケースを、住宅ローンの審査目安(手取りの3割以内)と比較し、「他の債務を無視した3〜4割取り」「経済的DV」「親子断絶という精神的DV」「自殺者が出るレベル」と指摘する内容である。

この声は決して大げさなものではない。日本の離婚・別居家庭では、婚姻費用が家計を圧迫し、支払う側の生活を破壊しかねない状況が広がっている。

婚姻費用とは、離婚成立までの間、別居した配偶者(主に妻側)と未成年の子に対する生活費相当額を、収入の多い側が負担する制度である。民法第760条に基づき、夫婦は婚姻中、協力・扶助義務を負う。

算定基準には、東京・大阪家庭裁判所の「婚姻費用算定表」が広く用いられ、義務者の年収、権利者の年収、子どもの人数・年齢によって機械的に算出される。例えば、義務者の年収が500万〜600万円、権利者が無職、子どもが2人(0〜14歳)という典型的な事例では、月額10万〜15万円超が目安となるケースも少なくない。

手取り月30万〜35万円程度のサラリーマンにとって、これは家賃や住宅ローン並み、あるいはそれ以上の負担だ。住宅ローンでは、金融機関が手取りの3割をリスクラインとする一方、婚姻費用は「他の債務を無視」して算定されるため、二重苦・三重苦を生む。

実態の深刻さ

支払い側の窮状は深刻だ。義務者が新たな生活を始めても、配偶者側が無職・低所得のままである場合、長期にわたり高額な負担が続く。住宅ローンを抱え、新たな家族を養う中での「月15万円」は、生活を大きく圧迫する。

転職・降格・病気によって収入が減っても、容易には減額されず、強制執行による給与差し押さえのリスクもある。

一方で、権利者側のインセンティブがゆがめられるという問題もある。無職で実家暮らしの場合には、「最強の立場」との指摘もある。働く意欲がそがれ、就労努力が不足するケースが見られる。算定表が「標準的な生活費」を基にしているため、特段の浪費がなくても高額な婚姻費用が認定されやすい。

また、これによって親子断絶の悪循環が生まれる。支払い拒否や滞納によって面会交流が制限され、子どもとの関係が断絶する。義務者が精神的に追い詰められ、うつ状態や自殺念慮に至る事例も社会問題化している。

厚生労働省によると、離婚件数は年間約18万〜20万組に上る。子どものいる夫婦の別居では、婚姻費用をめぐる調停・審判が行われ、履行確保が課題となっている。離婚成立までの別居期間が数年に及べば、負担は累積する。

裁判所は「権利者の生活維持」や「子どもの福祉」を優先するが、義務者の「最低限の生活」を十分に考慮していないとの批判が強い。算定表の改定後も、物価上昇や賃金の実態との乖離が指摘されている。

機械的・一方的な算定

問題の本質は、機械的・一方的な算定にある。義務者が抱える住宅ローンや新たな家族の生活費、権利者の就労可能性・資産状況といった個別事情が十分に反映されていない。金融機関の与信基準や生活保護基準よりも厳しい「取り立て」水準となっている。

また、現実には夫が義務者、妻が権利者となるケースが大半を占める。共働きの増加や女性の社会進出が進む中、古い家族観に基づく制度運用がミスマッチを生んでいる。

さらに、支払い側に対する強制執行は容易である一方、権利者側の就労努力や生活状況の検証は不十分であり、「経済的DV」の逆転現象も発生する。

こうした状況は少子化にも悪影響を及ぼしている。結婚や出産をためらう要因の一つに、「離婚リスクが顕在化した際の高負担」がある。男性側が「結婚=潜在的リスク」と感じ、婚期を遅らせる一因となっている。

前出の投稿が述べるように、住宅ローンですら守られる「手取り3割」のセーフティネットが、婚姻費用では機能しないのは不均衡である。離婚は「失敗」ではなく、人生の転換点かもしれない。しかし、片方の人生を破壊する制度設計は健全とは言えない。

改善に向けた提言

算定基準の見直しが急務である。義務者の最低生活費や家賃、住宅ローン、新たな家族の生活費を明確に控除し、権利者の就労能力・資産を積極的に考慮する「個別事情を加味するルール」を導入すべきだ。

また、時限性とインセンティブの設計として、婚姻費用に期間の上限(例:別居から3年以内)を設け、権利者側の就労努力を義務化・評価し、早期の自立を促す必要がある。履行確保とのバランスを取るため、双方の収入・資産の開示を徹底し、第三者機関による定期的なレビューを実施することも有効だろう。

離婚前の予防策として、調停段階で「婚姻費用の試算+生活設計相談」を必須化し、カウンセリングによって和解や離婚回避を支援する仕組みも重要だ。

法改正の方向性としては、共同親権の導入と連動させ、費用分担を「共同養育責任」の枠組みで再設計し、欧米諸国のような柔軟なガイドライン運用を参考にすべきである。

婚姻費用制度は、弱者保護という本来の趣旨を忘れてはならない。しかし、現行の運用が「強い者とみなされた支払い義務者を弱者化する」という側面を放置すれば、家族全体の不幸を増幅するだけだ。

民法が改正され、共同親権制度の導入が決まった今、持続可能な「家族のセーフティネット」へと再構築する必要がある。この危機感は、多くの当事者が共有する現実である。感情論ではなく、データと個別事情に基づく制度改革を急がなければならない。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント