キオクシアホールディングスの株価が、わずか1カ月足らずで半値以下になった。6月22日に11万2,700円の上場来高値をつけた株価は、7月17日にストップ安の5万2,110円まで下落した。下落率は約54%に達する。

一方、2026年3月期の売上収益は前期比37.0%増の2兆3,376億円、Non-GAAP営業利益は同93.4%増の8,762億円となり、東芝メモリ時代を含めても8年ぶりに過去最高を更新した。史上最高益なのに株価は半減するとは、どういうことだろうか。
「供給不足」という物語で10倍になった
キオクシアの好業績を支えたのは、AIデータセンター向けSSD需要の拡大と、NANDフラッシュメモリーの価格上昇だった。
生成AIブームでは当初、演算用GPUやHBMが注目された。しかしAIが学習段階から推論段階へ移るにつれ、膨大なデータを保存するNANDの重要性も高まった。競合各社がHBMやDRAMへの投資を優先したため、NANDは供給が不足し、価格が上昇した。
この「AI需要は拡大するが、供給能力は増えない」という物語を背景に、キオクシア株は年初来安値の1万945円から約10倍に上昇した。一時は時価総額でトヨタ自動車を上回るほどの熱狂になった。
つまり史上最高益が発表された時点で、その好材料は株価に織り込まれていた。それどころか市場は、現在の高利益率が何年も続くことまで先取りしていたのである。
SKハイニックスの巨額投資が前提を崩した
転機となったのは、韓国SKハイニックスによるNAND工場への巨額投資計画だった。同社が大規模な生産能力増強に動くと伝わると、投資家が前提としていた「NAND不足の長期化」に疑問符がついた。工場が実際に稼働するのは数年先でも、株価は稼働してからではなく、計画が発表された瞬間に将来の供給増を織り込む。
半導体メモリーは典型的な市況産業である。品不足で価格が上がると各社が設備投資を増やし、数年後には供給過剰となって価格が崩れる。この「シリコンサイクル」は、DRAMでもNANDでも何度も繰り返されてきた。今回も、好業績そのものが競合他社の増産を誘い、好業績を終わらせる原因になり始めたわけだ。
信用買いが下落を増幅した
もっとも、将来の競争激化だけで株価が半値になるわけではない。キオクシア株は短期間で約10倍になったため、信用取引を利用して上昇に賭ける投資家が増えていた。株価が下がり始めると、含み損を抱えた投資家には追加証拠金が発生する。それを避けるための投げ売りが新たな下落を呼び、さらに別の投資家の強制決済を誘発する。
業績とは無関係に「売らなければならない人」が増え、上昇時とは逆方向の連鎖が起きたのである。楽天証券の今中能夫氏も、SKハイニックスの投資計画に加え、利益確定売りと信用取引の解消が下落を増幅したと分析している。
7月17日には世界的な半導体株売りも重なった。米国の半導体指数が急落し、SKハイニックスなどメモリー株が売られるなか、キオクシアは16.1%安となった。
370億円の特許訴訟は本質ではない
同じ時期、米国の陪審がキオクシアに約2億2,900万ドル、約370億円の支払いを命じたことも報じられた。会社側は判断を容認できないとして、控訴を含む法的手段を取る方針を示している。
ただし、年間8,000億円を超える営業利益を上げる企業にとって、370億円は株価半減を説明する規模ではない。派手な見出しにはなっても、問題の本質は訴訟ではなく、NANDの供給不足がいつまで続くのかという点にある。
株主にとって大事なのは「今後の収益」
キオクシアの事業環境が突然崩壊したわけではない。AIデータセンター向け需要は依然として強く、競合の新工場が本格稼働するまでには時間もかかる。その意味では、信用取引の投げ売りによって株価が実力以上に下がった可能性もある。
ここで重要なのは「最高益だから割安」という単純な見方が通用しないことだ。市況のピークで利益が最大になる企業は、PERが最も低くなる。しかしいま買う株主にとっては今後の業績が重要だ。ここまで上がりきった収益は永続しないと市場は考えたのだ。
キオクシア株の半減は、会社の過去最高益を否定したのではない。過去最高益が今後も続くという、あまりに楽観的な期待を修正したのである。「今回はAIだから違う」という言葉は、半導体市況でも繰り返されてきた。しかし、需要が増えれば供給も増えるという資本主義の原則まで、AIが消滅させたわけではない。







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