史上最大規模のAI投資を正当化するリターンは上がるのか

AIへの投資が、いよいよ常識的な規模を超え始めている。The Economistによれば、Amazon、Google、Microsoftなど米国の大手テクノロジー企業は昨年、AI関連を中心とするインフラに約4500億ドルを投じたが、これは「前菜」にすぎないという。

今年は半導体、データセンター、電力設備などへの投資額が約9000億ドル、2027年には1.4兆ドルに達する可能性がある。もしAIが人間を大幅に上回る知能へと発展するなら、これは人類史上最も成功した設備投資になるかもしれない。

必要なのは年間2.5兆ドルのAI売り上げ

だが少なくとも近い将来には、この投資額を正当化するリターンを上げるのはむずかしい。現在進められているAIへの設備投資を収益で正当化するには、年間約2.5兆ドル(410兆円)のAI関連売り上げが必要になるという。これは現在のテクノロジー業界全体の売上高を上回る規模である。

現在のAI関連売り上げは推計方法によって違いはあるものの、おおむね年間1500億~2200億ドル程度とみられている。つまり、AI投資を経済的に正当化するには、売り上げが現在の10倍前後まで拡大しなければならない。

The Economist

AIは使われているが、お金は払われていない

問題はAIの普及率ではない。アメリカでは約2割の企業が何らかの業務にAIを利用している。わずか4年前には生成AIを使う企業など存在しなかったことを考えれば、驚異的な普及速度である。

しかし、「AIを使うこと」と「AIに巨額のお金を払うこと」はまったく違う。ドイツではAIを利用している企業の約半数が、労働時間の5%以下でしかAIを使っていないという調査がある。

米国企業の経営者についても、AIを利用する時間は平均週1.7時間程度という。英国では、AIを利用する企業のおよそ半数がAIに料金を払っていないとのデータもある。無料版ChatGPTやGemini、あるいはオープンソースモデルで十分だからだ。

フィンテック企業Rampのデータでは、企業が従業員1人当たりAIに支払う金額の中央値は月額わずか10.66ドルにすぎない。AIは確かに普及しているが、現在のところ企業にとっては「非常に便利な道具」ではあっても、「年間何十万ドルも支払わなければならない基幹システム」にはなっていないのである。

競争は激化し、中国企業も参入してきた

さらに厄介なのは、AI利用量の伸びほど売上高が伸びていないことである。利用されるAIのトークン数は急増しているが、ユーザーは無料サービスから別の無料サービスへ移動することも多い。

その結果、AI企業がデータセンターを増強しても、それが必ずしも市場そのものを拡大しているとは限らない。ライバル企業から顧客を奪うために計算資源を投入しているだけかもしれない。

国際決済銀行(BIS)の分析では、現在のAI設備投資の3分の1、あるいはそれ以上が十分な収益を生まない可能性がある。誰かがデータセンターを建設すれば、競争相手も建設せざるを得ないが、業界全体で見れば、供給能力だけが膨張し、投資収益率が低下していく可能性がある。

また国際競争も激化している。DeepSeekやKimiなどの中国のAIがアメリカよりはるかに低い料金(トークン単価)で企業に売り込んでいるため、Anthropicなどの先行AIは、その料金の引き下げを迫られている。

生産性革命はまだ起きていない

それでもAI投資を正当化する道はある。AIで企業の生産性が劇的に上昇すればよい。たとえばAIによって10人必要だった仕事が5人でできるようになるのであれば、企業はAIに年間数十万ドルを支払っても十分に元が取れる。

だが現時点では、その証拠はほとんどない。アメリカ企業の経営者の約9割が、過去3年間にAIが自社の生産性に影響を与えていないと回答している。

個々の社員がメールを書いたり、資料をまとめたり、プログラムを書いたりする時間は短縮されているかもしれないが、それが企業全体の利益率を大幅に高める「生産性革命」にはまだつながっていないのである。

AI革命には企業そのものを作り替える必要がある

過去のIT革命でも、コンピューターを買っただけで企業の生産性が向上したわけではない。業務プロセスを変更し、人材を配置し直し、データを整理し、組織そのものを再設計する必要があった。

過去にはコンピューターハードウェアへの1ドルの投資に対して、企業は5~10ドルの人材育成などの無形資産への投資を行った。AIでも同じことが起きるなら、企業はAIソフトを契約するだけでは足りない。人員配置、データベース、経営管理、取引先との関係まで作り替える必要がある。

ところが米国企業による「組織資本」への投資は、むしろGDP比で低下しているという。AI革命が本当に始まっているなら、企業組織そのものが大きく変化しているはずだ。今のところ、その兆候はまだ弱い。

AI革命とAIバブルは両立する

ここで重要なのは「AIは革命的な技術である」という話と、「現在のAI企業への投資が正当化できる」という話を混同しないことである。世界を変えたが、それによって大きな利益を上げたのは一部のプラットフォーマーだけだった。

鉄道も自動車も通信網も、人類の生産性を劇的に引き上げたが、ほとんどの企業は淘汰され、株主は損害をこうむった。AIでも同じことが起こる可能性がある。

20年後から振り返れば、現在がAI革命の始まりだったと評価されているかもしれないが、2026年に建設されたすべてのデータセンターが高い利益を生み出すとは限らない。

現在のAI投資を正当化するには、企業のAI利用が「チャットボットを時々使う」という段階から、業務プロセスそのものをAI中心に再構築する段階へ移行する必要がある。それはまだ起きていない。

AIの将来性を疑う必要はない。しかし、AIの将来性が無限だからといって、現在の設備投資も無限に正当化できるわけではない。

いま市場が直面している最大の問題は、AIが成長するかどうかではない。AIの収益が、史上最大の設備投資に追いつくまでに何年かかるのかである。投資家は永遠に待つことはできない。

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