物価が上がる前に、すでに市場は歪んでいる:CPIと金融緩和の盲点

こんにちは、自由主義研究所の藤丸です。

今回は、消費者物価指数(CPI)とインフレについて考えます。

中央銀行の金融政策をめぐる議論では、CPIが決定的な指標であるかのように扱われます。

「CPI上昇率が2%に届いていない。だから、まだ金融緩和を続けるべきだ」
「物価が十分に上がっていない以上、インフレの心配はない」

こうした説明を耳にしたことがある人は多いでしょう。

しかし、本稿の結論を先に述べれば、CPIが低いことは、「まだ金融緩和を続けるべき」というサインではありませんし、通貨が健全であることも、金融緩和が無害であることも意味しません。

中央銀行が通貨や信用を膨張させれば、スーパーの商品価格が大きく上がる前に、金利、株価、不動産価格、為替、所得分配、企業の投資判断が変化します。

問題は、単に「消費者物価を何%上昇させたか」ではありません。新しい通貨や信用がどこから経済に入り、誰が先に受け取り、どの市場で使われたのか。それによって、利益を得る人と不利益を受ける人、拡大する産業と縮小する産業が変わります。

オーストリア学派が重視するのは、平均的な物価指数だけではなく、通貨・信用の膨張によって個々の価格の関係がどのように変えられ、生産構造がどのように歪められるかという問題です。
さらに、国家と中央銀行が、なぜ人々の貨幣の購買力や市場金利を操作する権限を持つのかという根本的な問題を重視します。

ここで用いるオーストリア学派の景気循環論は、現代の経済学派のなかでは少数派の立場です。しかし、少数派であっても、オーストリア学派の視点は非常に重要です。日本の一般的な政策論議では、オーストリア学派の視点が紹介される機会はきわめて限られており、そのため一般の人がその考え方を知らないまま経済政策の是非を判断しています。これは大きな問題だと思います。

1. 消費者物価指数(CPI)とは何か

消費者物価指数(CPI)とは、全国の世帯が購入する財やサービスの価格が、平均的にどの程度変化したかを測る統計です。

簡単にいえば、基準となる時点の家計の「買い物かご」を想定し、同じ内容のものを購入するために必要な費用が、時間の経過とともにどれだけ変化したかを指数化したものです。

食料、家賃、光熱費、衣料、医療、交通、通信、教育、娯楽などが対象となり、家計の支出に占める割合に応じて品目ごとに重みづけされます。総務省統計局は、「総合」「生鮮食品を除く総合」「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」などの系列を公表しています。

消費者物価指数のしくみと見方 ―2020年基準消費者物価指数―(総務省統計局)

一般によく使われる指数を整理すると、次のようになります。

CPIは、「平均的な家計」を想定した数字です。

食費の割合が高い家庭、賃貸住宅に住む家庭、自動車を頻繁に使う人、医療や介護への支出が多い人、子どもの教育費を負担している家庭では、同じCPI上昇率でも実際の負担は異なります。人はそれぞれ異なるものを、異なる割合で購入しているからです。

さらに、CPIには市場に存在するすべての価格が含まれているわけではありません。株式や債券の購入は消費ではなく、資産の取得とみなされます。土地や住宅の購入価格も、そのままCPIには入りません。持家については、同じ住宅を借りたと仮定する「持家の帰属家賃」が使われます。したがって、株価、土地価格、住宅購入価格が大きく上昇しても、その動きがそのままCPIに表れるわけではありません。

CPIは無意味な数字ではありません。家計が購入する財・サービスの平均的な価格変化を把握するためには有用です。しかし、通貨制度、金融市場、資産価格、投資構造まで含めた経済全体の状態を測る万能の指標ではないのです。

2. CPIの上昇と「インフレ」は同じなのか

現在、インフレは一般に「物価水準が継続的に上昇すること」と説明されます。この用法では、CPI上昇率はインフレを測る代表的な指標です。

これに対して、オーストリア学派の伝統的な議論では、インフレを考える際、結果として表れる平均物価の上昇だけではなく、その原因となる通貨・信用の膨張に注目します。

現代的な用法ではCPIの上昇をインフレと呼びますが、オーストリア学派、とくにミーゼスやロスバードに連なる伝統的な用法では、政府や銀行制度による通貨・信用供給の膨張こそが問題の出発点であり、その膨張そのものをインフレと考えます。物価上昇、資産価格の上昇、所得移転、誤投資は、その「結果」として生じ得る現象です。

ミーゼスは、通貨量の変化が、すべての財やサービスの価格を同じ時点に、同じ割合で変化させることはないと論じました。新しい通貨は特定の場所から経済に入り、価格構造を順番に変えていくからです。

2. Observations on Some Widespread Errors | Mises Institute
The fateful errors of popular monetary doctrines which have led astray the monetary policies of almost all governments w...

したがって、通貨・信用を膨張させれば必ずCPIが上がる、というわけではありません。

それにもかかわらず、「CPIが上がっていないのだから、通貨・信用の膨張は目立った影響を及ぼしていない」と考えれば、CPIに表れない形で進む変化を見落としかねません。

3. 新しい通貨は中立ではない――カンティロン効果

中央銀行が金融緩和を行ったとき、新しい通貨が国民全員の口座に、同じ時刻に同額ずつ振り込まれるわけではありません。

通常、中央銀行は国債や金融資産を買い入れ、金融機関の中央銀行預金を増やし、金利や資産価格に働きかけます。資金は、金融機関、国債や金融資産の売り手、低金利で資金を調達しやすい企業などに入り、その後、経済の別の部分へ広がります。政府も、国債利回りの低下によって資金調達条件が改善するという恩恵を受けます。

このとき、新しい通貨を早く受け取った人は、まだ価格が十分に上昇していない段階で財や資産を購入できます。

一方、新しい通貨が広がって価格が上昇した後になっても、賃金や年金、預金利息が増えない人は、購買力を失います。現金や預金を多く保有する人、固定収入で生活する人、賃金の上昇が遅れる人は、不利益を受けやすくなります。

反対に、政府、金融機関、資産保有者、低金利で資金を借りやすい大企業など、新しい通貨の入口に近い主体は有利になりやすいのです。

新しい通貨がどこから注入され、誰に先に渡ったかによって影響が異なることは、「カンティロン効果」と呼ばれます。

金融緩和は、単に平均物価を少し押し上げる政策ではありません。「誰が先に新しい通貨を得るのか」「どの市場の価格が先に上がるのか」「どの産業が有利になるのか」を変える政策です。

通貨供給の増加によって一部の人が有利になり、別の人の購買力が低下するのであれば、実質的には富と所得の分配が変えられています。

リバタリアンの立場から見れば、これは単なる金融技術上の問題ではありません。中央銀行と政府の政策が、誰を有利にし、誰の購買力を低下させるのかを左右することの正当性が問われるのです。

4. なぜ金融緩和の影響はCPIに出にくいのか

金融緩和の影響がCPIに表れにくい理由は、大きく二つあります。

資金の流入先と、生産性の向上です。

資金がまず向かうのは、スーパーの商品棚ではない

日本銀行は2013年に量的・質的金融緩和を導入し、長期国債やETFなどの保有額を大幅に拡大しました。日本銀行は、その波及経路の一つとして、長期国債を売った金融機関や投資家が、株式、投資信託、社債、貸出などへ資金を移す「ポートフォリオ・リバランス効果」を挙げていました。実際、日本銀行の調査でも、国債投資の減少と、株式・投資信託や社債などへの資金移動が確認されています。

(日銀レビュー)日本銀行の国債買入れに伴うポートフォリオ・リバランス:資金循環統計を用いた事実整理 : 日本銀行 Bank of Japan

つまり、金融緩和の効果が最初に現れる場所は、一般人が日常的に買うような「スーパーの商品棚」とは限りません。国債の買入れや金利の低下を通じて、国債価格、株価、不動産市場、為替相場、企業の資金調達条件などに先に影響が表れる可能性が高いのです。そして、こうした資産価格や金融市場の変化は、CPIには直接かつ直ちには反映されません。

中央銀行がマネタリーベースを増やしても、銀行が企業や個人への貸出を増やさず、企業や家計も借入れを望まなければ、消費者物価への波及は弱くなります。それでも、国債利回り、預金金利、株価、為替、住宅価格、金融機関の収益、政府の資金調達条件は変化します。

この時期には、「これだけマネタリーベースを増やしたのに物価がほとんど上がらない。貨幣数量説は成り立たないのか」という戸惑いもよく聞かれました。しかし、その驚きの一部は、マネタリーベースとマネーストックの違いが十分に意識されていなかったことから生じています。

マネタリーベースとは、日本銀行券、硬貨、金融機関が日本銀行に持つ日銀当座預金を合わせたものです。これに対して、マネーストックとは、家計や企業などが保有する現金や銀行預金を中心とする、民間経済で保有されているお金です。

貨幣数量説で物価との関係を考える際には、一般に、家計や企業が保有する現金や銀行預金を含むマネーストックの動きが重要になります。マネタリーベースも無関係ではありませんが、マネタリーベースとマネーストックは同じものではなく、両者が一定の比率で増減するとは限りません。

異次元緩和では、マネタリーベースは2013年4月の約150兆円から2015年春には300兆円を超え、その後さらに膨らみました。ところがマネーストックの伸びは年数%程度にとどまり、マネーストックをマネタリーベースで割った貨幣乗数は大きく低下しました。

日銀当座預金が大幅に増えても、それ自体は家計や一般企業が買い物や支払いに使える預金ではありません。銀行貸出や政府支出などを通じて民間の預金が増えなければ、マネーストックはマネタリーベースと同じ割合では増えません。

さらに、マネーストックが増えた場合でも、それが消費、貯蓄、債務返済、設備投資、資産購入のいずれに使われるかによって、価格への影響は異なります。貨幣の流通速度や財・サービスの生産量も変化するため、マネーストックとCPIが機械的に同じ割合で動くわけではありません。

したがって、「マネタリーベースを2倍にすれば、CPIもそれに近い割合で上昇する」と考えることはできません。

第1章 第2節 金融政策と金融面の動向 - 内閣府
内閣府の政策(経済財政、科学技術、防災、沖縄・北方、共生社会(含む少子化)、男女共同参画、安全関連(食品・原子力・交通)等)、統計・調査(GDP統計、世論調査等)、白書・年次報告書、パブコメ・意見募集等を掲載。
マネタリーベース統計のFAQ : 日本銀行 Bank of Japan

量的・質的金融緩和は、国債利回りの低下、ポートフォリオ・リバランス、予想の変化などを通じて、株価、不動産市場、為替にも影響しました。日本銀行はETFやJ-REITも直接購入しています。

こうした変化は、金融緩和の影響が存在しなかったことではなく、影響がCPIとは異なる場所に表れた可能性を示しています。株価上昇や円安を金融緩和だけで説明することはできませんが、金融緩和がその一因となったと考えることはできます。

これは「貨幣数量説が壊れた」というよりも、貨幣の量とCPIを単純に一対一で結びつける理解が適切でなかったことを示しています。

さらにオーストリア学派が重視するのは、「貨幣が非中立である」という点です。新しい通貨や信用がどこから経済に入り、誰に先に渡り、何に使われるかによって、最初に上昇する価格も、利益を受ける産業や主体も異なります。

CPIが測るのは、消費者が購入する財やサービスの平均的な価格です。株式や土地の価格、住宅の購入価格、為替相場は、原則としてその対象には含まれません。そのため、これらが大きく変化しても、CPIには直接表れません。

しかし、CPIに表れないことと、経済に影響がないことは同じではありません。CPIが2%目標に届いていなくても、土地や株式の価格が上昇し、住宅取得の条件が変わり、投資家がより高い利回りを求めてリスクを取るようになっているかもしれません。

「物価安定」が本来の値下がりを打ち消す

CPIが上昇しにくいもう一つの理由は、「生産性の向上」です。そして、これは本来、消費者にとって望ましいことのはずです。

技術革新、設備の改善、国際分業、物流の効率化、競争の進展によって生産費用が下がれば、本来、商品の価格には下落する力が働きます。同じ労働や資源から、以前より多くの商品を生産できるようになれば、その恩恵は価格低下という形で消費者に還元されます。

ところが政府や中央銀行が「平均的な消費者物価を毎年2%程度上昇させるべきだ」と考えて通貨や信用を膨張させれば、技術革新による値下がりは打ち消されます。

たとえば、金融緩和がなければ3%下がっていたはずの価格が、緩和によって横ばいになったとします。このとき起きているのは、生産性の向上による3%分の値下がりと、金融緩和による3%分の押し上げが、ちょうど打ち消し合ったということです。統計上の物価上昇率は0%となり、表面上は何も変わっていないように見えます。

しかし、これは緩和が効かなかったということではありません。緩和は、本来生じるはずだった値下がりを帳消しにするだけの効果を、すでに発揮していたのです。ここで0%という数字だけを見て「まだ緩和が足りない」と考え、緩和を続けることは、この構図を取り違えています。

ハイエクは、この危うさを金利の面から指摘しました。生産性による値下がりを打ち消してまで物価を安定させるには、人々が実際に貯蓄した以上に信用を膨らませる必要があり、その結果、市場の金利は本来あるべき水準――貯蓄と投資を釣り合わせる金利(自然利子率)――より低く抑えられます。

金利が実際の貯蓄に見合う水準より低ければ、企業は使える資源が豊富にあると錯覚し、やがて完成できない投資にまで踏み込みます。物価が安定して見えても、その裏で経済は少しずつ均衡から離れ、ゆがみを蓄えていくのです。

Monetary Theory and the Trade Cycle | Mises Institute
Our reflections thus yield the conclusion that an alleviation of cyclical fluctuations should be expected preeminently f...

この金利と投資の問題は、第6節でさらに詳しく扱います。

「物価安定」という言葉は中立的に聞こえます。しかし、生産性が向上する社会では、価格が下がることこそ自然かもしれません(信用収縮による急激な物価下落は別で、これは第8節で扱います)。

平均物価を上昇させ続ける政策は、生産性向上によって本来得られたはずの値下がりの恩恵を、消費者から奪う政策にもなり得ます。

5. なぜアメリカの物価上昇は日本より急激だったのか

コロナ禍の後、アメリカの物価は日本より急激に上昇しました。アメリカの総合CPIは2022年6月に前年同月比9.1%に達し、エネルギー価格は41.6%上昇しました。

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日米の違いを考えるうえで重要なのは、通貨や信用の総量だけではなく、政策による資金が誰に、どの経路から届いたかです。

前節で述べたように、日本の金融緩和で直接増えたのは、主として金融機関の日銀当座預金でした。それが家計の消費へ波及するには、銀行貸出、企業の投資や賃上げなど、いくつもの段階を経る必要があります。

これに対して、コロナ禍のアメリカでは、FRBによる大規模な金融緩和と、連邦政府による大規模な財政支出が同時に行われました。アメリカ政府は、所得などの条件を満たす成人に3回の現金給付を実施し、3回の給付額の合計は最大3,200ドルとなりました。

2020 Recovery Rebate Credit — Topic F: Finding the First and Second Economic Impact Payment Amounts to Calculate the 2020 Recovery Rebate Credit | Internal Revenue Service
Frequently asked questions about the Recovery Rebate Credit.
2021 Recovery Rebate Credit — Topic A: General Information | Internal Revenue Service
General Information about claiming the Recovery Rebate Credit.

現金給付はFRBの金融政策ではなく、政府と議会による財政政策です。しかし同じ時期に、FRBもゼロ金利と大規模な資産購入を実施しており、財政拡張と金融緩和が同時に進みました。

日本の一律10万円給付が基本的に一度限りだったのに対し、アメリカでは複数回の現金給付に加え、失業給付の上乗せなども行われました。

しかも当時は、外出や営業の制限によって旅行、外食、娯楽などにお金を使いにくい状況でした。使われなかったお金の一部は家計の預金として蓄積され、経済活動の再開後に消費へ向かいました。一方、供給側では、工場の停止、物流の混乱、半導体不足、労働者不足などが続いていました。購入に使えるお金が急増したのに、商品やサービスの供給はすぐには増えなかったため、消費者物価が強く上昇しました。

サンフランシスコ連邦準備銀行の研究は、アメリカの大規模な所得移転が、2021年末までにインフレ率を約3ポイント押し上げた可能性があると推計しています。ただし、推計には幅があり、供給網の混乱やエネルギー価格など、ほかの要因も重要でした。

Why Is U.S. Inflation Higher than in Other Countries? - San Francisco Fed
Inflation rates in the United States and other developed economies have closely tracked each other historically. Problem...

日米の違いは、「通貨量が増えれば、あらゆる価格が一律に上昇する」という考えが誤りであることを示しています。

日本では、新しい資金が主として金融機関、国債市場、資産市場を経由しました。アメリカでは、それに加えて、政府給付を通じて家計の預金が早い段階で増え、その資金が消費財・サービス市場へ向かいました。どの価格が上昇するかは、通貨の総量だけでなく、どこから注入されたのかによって変わります。これもカンティロン効果の具体例です。

6. 金利を中央銀行が決められるのか

金利は、お金を借りるための単なる手数料ではありません。市場で形成される金利には、人々が現在の消費と将来の消費をどう評価しているのか、どの程度貯蓄しているのか、どれほどのリスクを負おうとしているのかという情報が含まれています。この「情報」こそが、起業家が判断をくだすうえで非常に重要なものなのです。

人々が現在の消費を控えて貯蓄を増やせば、将来の生産に使える資源が増え、金利には低下する力が働きます。低い金利は、より長期的な投資を行う余地が広がったことを起業家に伝えます。

しかし、実際の自発的貯蓄が増えていないのに、中央銀行と銀行制度による信用創造によって市場金利が押し下げられたらどうなるでしょうか。

起業家には、長期投資に使える資源が豊富になったように見えます。通常の金利では採算が合わない不動産開発、設備投資、新興企業、長期プロジェクトも、低金利を前提にすれば利益が出るように見えます。

しかし、金利が低くなっても、労働者、原材料、機械、土地、エネルギーが突然増えるわけではありません。やがて、計画された投資を完成させるだけの資源が存在しないことが明らかになります。建設費や賃金、原材料価格が上がる、金利が上昇する、需要予測が外れるなどして、それまで採算が取れるように見えた事業が行き詰まります。

これが、オーストリア景気循環論でいう「誤投資」です。誤投資とは、起業家が愚かだったという意味ではありません。起業家は市場に現れた金利や価格を見て行動します。問題は、その価格シグナル自体が信用膨張によって歪められていたことです。

ここで公平に述べておきます。このオーストリア景気循環論は、現代の主流派マクロ経済学のなかでは支持者の少ない立場であり、実証面でも異論があります。信用膨張が具体的にどの産業のどの投資を歪めたのかを、事後的に明確に特定するのは容易ではありません。それでもこの理論が示す洞察――「人為的に押し下げられた金利は、実際には存在しない資源が存在するかのような誤ったシグナルを起業家に送る」という点――は、CPIだけを見ていては捉えられない現象を照らし出します。

さらに根本的な問題は、中央銀行が、経済全体にとって適切な金利を知り得るのかという点です。市場には、無数の人々の時間選好、貯蓄計画、投資計画、リスク評価が分散しています。それらの知識を中央銀行の会議室に集約することはできません。これは、必要な知識が無数の人々のもとに分散しているために生じる、ハイエクが繰り返し指摘した「知識の問題」です。

しかも、これは政府がより多くの統計を集めれば解決する、という種類の問題ではありません。必要な知識の多くは、地域、職場、顧客、設備などに関する「時と場所に固有の知識」です。こうした知識は分散しており、絶えず変化するため、統計や調査票の形で中央に完全に集約することはできません。

人々の選好や見通しは、市場における実際の選択を通じて価格形成に反映されます。だからこそ、どれほど大量のデータを集めても、中央銀行が全体を見通して「適正な金利」を計算で導くことはできないのです 。

リバタリアンの立場から見れば、政策金利の操作は、信用市場における最も重要な価格への政府介入です。政府が商品の「適正価格」を知り得ないのと同様に、金利もまた、人々の時間選好を反映して市場で決まる価格であり、中央銀行がその「適正な水準」を知り、定めることはできないのではないでしょうか。

7. 増税と「無償化」でCPIは動く

CPIは、市場の需給だけで決まるわけではありません。税制や政府の給付政策によっても変動します。

消費税率が引き上げられ、その分が小売価格に転嫁されれば、CPIは上昇します。しかし、増税による価格上昇は、需要が強くなったことを意味しません。むしろ、家計から政府へ移される金額が増え、民間が自由に使える所得は減ります。

反対に、教育や医療などで、利用者が窓口で支払う価格を政府が引き下げれば、CPIは下がることがあります。しかし、「無償化」によって、教育や医療の生産費用が消えるわけではありません。負担が利用者から、納税者や社会保険料の負担者、国債で賄われる場合には将来世代へ移されるだけです。

「無償化」とは、費用をゼロにすることではありません。本来その利用者が負担すべき費用を、それを利用しない人も含めた国民全体に押し付けることです。政府補助によって表示価格が下がれば、CPIは低下します。一方、その財源を賄うために税や社会保険料が増えれば、家計の可処分所得は減ります。

CPIはこのようにさまざまな要因で上下します。CPIが上がっても下がっても、それだけで「望ましい」「暮らしが良くなった」とは一概には言えません。そもそもCPIの上下は、景気の良し悪しをそのまま映す指標でもないのです。

政策によって税込価格や家計の窓口負担を動かし、その結果として変化したCPIを基に、さらに金融政策を決める。そこには、政府の介入によって動かされた数字を、次の政府介入の根拠として使うという循環があります。

8. リフレ政策の何が問題か

リフレ派を批判する前に、その主張を正確に確認しておく必要があります。なお、現在「リフレ派」と呼ばれる論者の間でも、利上げ、据え置き、利下げをめぐる具体的な立場は分かれています。以下では、個々の政策判断ではなく、デフレ脱却のために物価目標と金融政策の有効性を重視する理論的な枠組みを取り上げます。

リフレ派は一般に、デフレや低インフレが続くと、予想実質金利が高止まりし、消費や投資が抑制され、債務の実質負担が重くなり、景気回復が妨げられると考えます。また、名目賃金は下がりにくいため、物価が下落すると実質賃金が上昇し、企業が雇用を減らす可能性があると考えます。したがって、リフレ派にとって物価目標は、単に物価を上げるための政策ではなく、雇用を回復させるための手段です。

この議論には、正しい指摘もあります。銀行破綻や取り付け騒ぎによって決済機能が崩壊し、通貨供給が急減すれば、経済活動は深刻な打撃を受けます。

しかし、ここで区別しなければならないのは、信用収縮による混乱、いわゆる負債デフレと、生産性向上による健全な価格低下です。両者を同じ「デフレ」と呼んで済ませるべきではありません。

信用収縮による破壊的なデフレは、それ自体が問題の出発点なのではありません。オーストリア学派の見方では、決済機能の崩壊を伴うようなデフレは、その前に起きた信用の膨張――過剰な債務と脆弱な銀行構造を積み上げたブーム――の清算局面として現れます。過剰債務を抱えた家計・企業・銀行という脆弱な構造そのものが、緩和的な信用の産物だからです。

崩壊局面のデフレを取り上げて「だから物価を下支えせよ」と主張することは、原因(信用拡大)ではなく結果(デフレ)を叩くことにほかなりません。再膨張でデフレを止めれば、清算されるべき誤投資が温存され、次のより大きな不均衡が積み上がります。

オーストリア学派の処方は「デフレを緩和で防ぐ」ことではなく、「そもそも信用を人為的に膨張させない」ことです。なお、決済機能の崩壊を伴う二次的なデフレをどこまで放置すべきかについては学派内でも見解が分かれ、ロスバードは徹底した清算を説き、ハイエクは後年、二次的デフレの行き過ぎへの懸念を示しました。

そのうえで、リフレ政策には根本的な問題があると考えます。

第一に、物価下落を過度に問題視することです。 技術革新、生産性向上、競争によって商品が安くなることは、消費者にとって利益です。生産量が増えた結果として価格が下がるなら、それは社会が豊かになった証拠でもあります。「将来値下がりすると予想すれば、人々は消費を先送りする」という説明も単純すぎます。PCや家電が将来安くなると予想されていても、人々は必要なら現在購入します。人は価格予想だけではなく、必要性、時間、品質、所得を考えて行動するからです。

第二に、金融緩和を平均需要だけの問題として捉えることです。 新しい通貨や信用は、すべての価格、所得、産業を同じ割合で動かしません。資産価格、為替、住宅、政府支出、特定企業の資金調達などに偏った影響を与えます。平均需要という一つの数字にまとめれば、誰が新しい通貨を受け取り、どの市場が変化したのかが見えなくなります。

第三に、中央銀行に不可能な知識を要求することです。 中央銀行は、個々人がどれだけ現在の消費を望み、どれだけ将来のために貯蓄したいのか、どの投資が本当に消費者の需要に合っているのかを知ることはできません。金利は、官僚が景気を調整するための単なる数字ではなく、人々の時間選好、貯蓄、投資、リスク評価を調整する市場価格です。

第四に、過去の誤投資を温存することです。 損失は、市場が「その事業に使われた資源は、別の用途に使われるべきだった」と知らせる信号です。倒産や事業縮小には痛みが伴います。しかし、損失を金融緩和や公的支援によって隠し続ければ、労働力と資本が生産性の低い用途に固定されます。不況の回避を名目に誤投資を延命すれば、問題を解決するのではなく、将来へ先送りするだけです。

第五に、貨幣保有者の購買力を政策的に低下させることです。 物価を意図的に上昇させるとは、裏返せば、同じ1万円で購入できる商品やサービスを減らすことです。これは債務者を有利にし、債権者、預金者、固定収入で生活する人を不利にします。誰の購買力をどれだけ減らし、誰の債務負担を軽くするかを中央銀行が決めることは、単なる技術的な景気対策ではなく、財産権と所得分配に関わる政治的判断です。

リフレ政策の最大の問題は、中央銀行が物価を上げられるかどうかではありません。物価を上げる過程で、誰の所得と資産を増やし、どの価格を歪め、どの投資を誘発し、将来どのような調整を必要とするのか――その全体を、中央銀行が知ることはできないという点です。

そして、リバタリアンの立場からは、もう一つの問いが加わります。仮にそれを知り得たとしても、政府の政策によって市場をこれほど大きく歪めることが、そもそも許されるのかという問いです。

9. 「CPIが低いから緩和を続ける」という危険

日本銀行は2013年以降、「2%の物価安定の目標」を掲げ、その実現を理由に大規模な金融緩和を続けました。

2024年3月、日本銀行はマイナス金利政策とイールドカーブ・コントロールを終了し、短期金利を主な政策手段とする枠組みに移行しました。

(参考)2013年以降の「量的・質的金融緩和」のもとでの金融政策 : 日本銀行 Bank of Japan

その後は利上げが進み、2026年6月には、無担保コールレートを1.0%程度で推移させる方針が示されています。

金融市場調節方針に関する公表文 2026年 : 日本銀行 Bank of Japan

つまり、「CPIが2%に届かないから緩和を続ける」という以前の構図は、いったん反転しました。

しかし、本稿の問題提起が過去の話になったわけではありません。

第一に、2013年から2024年までの10年以上にわたり、2%目標が持続的・安定的に達成されていないとの日本銀行の判断が、緩和継続の根拠として使われました。

第二に、長期間の低金利を前提として形成された企業、金融機関、住宅ローン、政府債務の構造は、政策を変更したからといってすぐに消えるものではありません。

第三に、最も重要なことですが、CPIを基準に金融政策を決める枠組みそのものは残っています。物価上昇率が再び低迷すれば、「物価が低いから緩和が必要だ」という主張が前面に出てくる可能性があります。

この枠組みの弱さは、目標の運用方法にも表れています。日本銀行の「2%目標」は消費者物価の前年比上昇率で設定され、総合CPIが基本的な指標とされていますが、2022年以降、総合CPIが2%を超えても緩和は続きました。エネルギーや輸入物価による一時的な上昇にすぎず、「基調的な物価上昇率」はまだ2%に達していない、という理由です。

日本銀行の「物価安定の目標」をめぐる経緯と論点(皆川 純子 / 財政金融委員会調査室)

消費者物価のコア指標 : 日本銀行 Bank of Japan
(日銀レビュー)基調的な物価上昇率の概念と捉え方 : 日本銀行 Bank of Japan

一時的な要因を除き、物価上昇の持続性を見ること自体には合理性があります。しかし、問題は、どの指標を重視し、どのような状態になれば「持続的・安定的に2%を達成した」と判定するのかについて、中央銀行に大きな裁量が残ることです。

2%という数字は一見すると客観的な基準に見えます。しかし、実際の政策判断では、総合CPIが2%を超えただけでは達成とはされず、生鮮食品やエネルギーの影響を除いた指数、刈込平均値、加重中央値など、複数の「基調的な物価指標」が参照されます。

どの数字を重視するかを政策当局が選べる限り、同じ物価情勢を見ても、緩和を続けたいときには「まだ足りない」、政策を転換したいときには「十分に基調が強まった」と説明する余地が生まれます。

つまり、目標となる数字は2%で固定されていても、ゴールに到達したかどうかを判定する基準は固定されていません。国民から見れば、これは客観的なルールというより、政策当局の裁量によって運用される目標です。状況に応じて達成条件が付け加えられるなら、「ゴールポストが動かされている」と受け取られても不思議ではありません。

達成したかどうかを、目標を設定した当事者自身が複数の指標を組み合わせて判定するのであれば、それは厳格な数値ルールではなく、数値目標という外観をまとった裁量政策ではないでしょうか。

低金利が長期化すれば、企業、投資家、金融機関、住宅購入者、政府が、その金利を前提に行動するようになります。金利を上げれば、資産価格が下落し、借入れの多い企業の経営が悪化し、住宅ローンや国債利払いの負担が増えます。しかし、痛みを避けるために低金利を続ければ、依存はさらに深まります。

国際決済銀行も、長期間の低金利が信用や資産価格を通じ、金融的不均衡を蓄積させる危険を指摘しています。

Another year of monetary policy accommodation
Part 4 of the 85th Annual Report, June 2015. Monetary policy continued to be exceptionally accommodative, with many auth...

金融緩和は問題を消すのではなく、損失の発見と必要な調整を先送りしているだけだといえます。

10. 大恐慌前にも物価は比較的安定していた

物価の安定を、経済が健全であることの証しとみなす――その危うさを考えるうえで、1920年代のアメリカは重要な事例です。

第一次世界大戦後の物価変動と1920〜21年の不況を経た後、1920年代半ばから後半にかけて、アメリカの消費者物価は比較的安定していました。

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しかし、その裏側では、証券市場へ流れる信用が膨張していました。連邦準備制度理事会の1929年年次報告も、投機的な証券信用の急速な増加を危険な要素として挙げています。一般消費者物価が大きく上昇していなかったからといって、金融面に問題がなかったわけではありません。

Full text of Annual Report of the Board of Governors of the Federal Reserve System : 1929 | FRASER | St. Louis Fed

オーストリア学派の説明では、生産性向上によって本来は価格が下がる局面で、信用膨張によって物価上昇圧力が加わると、平均的な物価指数の裏側で投資構造が歪みます。生産性向上による価格下落圧力と、信用膨張による価格上昇圧力が相殺されれば、CPIは安定して見えます。その間に、株価が上昇し、投機的信用が拡大し、低金利を前提とする投資が増えているかもしれません。

1929年には株式市場が暴落し、その後、銀行恐慌、通貨収縮、企業倒産、失業の増加を伴う大恐慌へ進みました。

大恐慌の原因については諸説がありますが、オーストリア学派は、主としてなぜ1920年代の好況が持続不可能になったのかを、信用膨張と誤投資によって説明します。

一方、マネタリストは、主としてなぜ不況が大恐慌へ深刻化したのかを、銀行破綻と通貨供給の急減によって説明します。実際、1930年秋から1933年冬にかけて、アメリカの通貨供給(マネーストック)は3割前後減少したとされます。

The Great Depression
The longest and deepest downturn in the history of the United States and the modern industrial economy lasted more than ...

オーストリア学派は、さらに踏み込んで根本問題を真正面から問います。これほどの通貨収縮を許した過剰債務と脆弱な銀行構造そのものが、1920年代の信用拡大の帰結だと見るのです。つまり、ブームと崩壊――信用膨張と通貨収縮――は、一つの因果の連なりとして理解できます。

これがオーストリア学派の景気循環理論です。

ここで、「では、オーストリア学派は不況に何の解決策も示せないではないか」という批判があります。しかし、これは的外れです。オーストリア学派、とくにロスバードが問題にしているのは、政府や中央銀行が講じる「解決策」――物価や賃金の下支え、破綻すべき企業や銀行の救済、通貨の再膨張――そのものが、必要な調整を妨げ、かえって回復を遅らせるという点だからです。

少なくともロスバードの立場では、「解決策」は、痛みを伴う調整を人為的に止めることではなく、それを速やかに終わらせ、資源が新しい用途へ移るのを妨げないことです。短期の痛みを避けようとする介入こそが、大恐慌を長引かせたと考えるのです。

America's Great Depression | Mises Institute
This book applies Austrian business cycle theory to understanding the onset of the 1929 Great Depression. Rothbard first...

少なくとも、一つのことは明らかです。一般物価の安定は、金融市場と経済構造の健全性を保証しませんでした。これは、「CPIが低いうちは金融緩和を続けたほうがよい」と考えることの危うさを示す、重大な歴史的警告です。

11. CPIの背後で何が起きているのか――結論

CPIは、家計が購入する商品やサービスの平均的な価格変化を知るためには有用です。しかし、金融政策の影響をCPIだけで判断することはできません。

通貨や信用がどこから経済に入り、誰に先に渡ったのか。それによって、株価、不動産価格、為替、金利、所得分配、企業の投資判断は変化します。こうした変化の多くは、CPIには直接表れません。

したがって、CPIが低いことは、金融緩和が無害であることの証明ではありません。消費者物価が大きく上昇する前から、相対価格や資産価格が歪み、実際の貯蓄と一致しない投資が積み上がっている可能性があります。

CPIは、複雑な経済の一部分を測る一つの温度計にすぎません。体温が平熱でも、血管や臓器に異常がないとは限りません。そもそも、その「平熱」がどこにあるのかも、確かではありません。よく掲げられる「2%」も、理論的に導かれた「最適値」ではありません。

日本銀行は、CPIの測定上の上方バイアス、景気悪化時の利下げ余地、主要先進国との国際的な整合性などを、その根拠として挙げています。しかし、これらの事情は、2%が社会全体にとって最適な物価上昇率であることを証明するものではありません。なぜ1%や3%ではなく2%でなければならないのかについて、経済理論から導かれる唯一の答えがあるわけではありません。2%とは、一定の政策判断と国際的な慣行を踏まえて選ばれた、制度的な目標なのです。

そもそも、社会に分散する人々の時間選好、貯蓄計画、投資計画、リスク評価を中央銀行が把握し、経済全体にとって適切な物価上昇率や金利を決めることができるのでしょうか。これは、ハイエクが指摘した「知識の問題」です。

金融緩和はさまざまな影響を経済に与えます。通貨と信用が特定の経路から供給されることで、所得と富の分配が変わります。金利が人為的に押し下げられることで、実際の貯蓄と一致しない投資が誘発されます。資産価格が上昇し、政府と企業は低金利に依存します。そして、金融緩和を終わらせることが難しくなります。その歪みは、CPIが大きく上昇する前から始まっています。むしろ、人々がスーパーの商品価格、電気料金、家賃の上昇を通じて物価上昇を強く意識する頃には、金融市場や生産構造に、何年にもわたる歪みが蓄積しているのです。

ここには、政策の逆説があります。政府や中央銀行は、経済を良くしようとして「2%の物価上昇が必要だ」と考え、それを政策の中心に据えます。しかし、たった一つの数字を目標に掲げ、通貨と信用を使ってそこへ寄せていくと、その裏側で金利がゆがみ、投資が誘導され、資産価格がふくらみます。良かれと思って続けた政策が、経済を良くするどころか、見えないところに大きな歪みを積み上げ、やがて深刻な混乱を招きかねないのです。

市場経済を動かしているのは、中央銀行のモデルに登場する「平均的な家計」や「代表的な企業」ではありません。それぞれ異なる目的、知識、財産、時間選好を持つ無数の個人です。本来、価格も金利も、そうした個人の自発的な交換によって形成されるべきものです。

真の問題は、CPIの計算方法を少し改良すれば解決するものではありません。中央銀行に貨幣供給と金利を管理する権限を集中させ、統計上の目標に合わせて市場価格を操作する制度そのものが問題です。

私たちは、平均的な消費者物価を毎年2%程度上昇させることを、「物価安定」と呼んで当然視すべきではありません。それは、同じ貨幣額で購入できる商品やサービスを、平均的に減少させる方向の政策でもあります。とりわけ、所得や預金金利の上昇が物価に追いつかない人ほど不利益を受けます。

通貨発行によって政府部門が実質的な資源を得る一方、インフレによって人々が保有する貨幣の実質価値が目減りする効果は、通常の税とは異なる、見えにくい「インフレ税」と呼ばれます。

「CPIが目標に届いていないから、さらに通貨と信用を膨張させる」――日本銀行は、この判断を10年以上にわたって続けました。物価上昇率が再び低迷すると、同じ論法は再び現れます。実際、2026年7月には、6月の総合CPI上昇率が1.7%だったことなどを理由に、利下げを検討すべきだとの主張も出ています。

いま、私たちは問わなければなりません。平均的な物価指数の背後で、どの価格が動き、誰が利益を得て、誰が負担し、どのような投資が行われているのか。そして、そもそも国家と中央銀行に、人々の貨幣の価値と金利を操作させてよいのか。

見えている物価よりも重要な問題が、見えないところで進んでいるかもしれないのです。


編集部より:この記事は自由主義研究所のnote 2026年7月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は自由主義研究所のnoteをご覧ください。

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