AIのプロンプトを磨く前に、自社の約束を定義せよ --- 佐藤 裕

Parradee Kietsirikul/iStock

生成AIの普及によって、企業の事務作業は大きく変わりつつある。

議事録の要約、メール作成、企画書のたたき台、採用ページやSNS投稿の作成。これまで人が時間をかけていた作業を、AIは短時間で形にできるようになった。プロンプト技術を磨き、AIから精度の高い出力を得ることは、生産性向上や人件費削減につながる。企業が取り組むべき重要なテーマであることに異論はない。

しかし、AI活用の前に定義しておかなければならないものがある。それは、自社が市場に対して何を約束する会社なのか、ということである。言い換えれば、顧客体験のどこまで責任を持ち、どこから先は責任を持たないのかを明確にすることだ。

AIが似た広告をつくる理由

私自身、AIでつくられた動画広告を目にする機会が増えた。映像の完成度は高い。しかし、登場人物の顔立ちやストーリー展開、ナレーションまで似た印象の広告も少なくない。「また同じような広告だ」と感じることがある。商品が違っても、同じ会社がつくったように見える広告さえある。

AIが広告を似せているわけではない。多くの企業がAIに渡している情報が、商品説明や会社概要にとどまり、「何を約束する会社なのか」という判断基準まで含まれていないからではないだろうか。

だから、自社が何者なのかが曖昧なままであれば、どれほどプロンプトを工夫しても、「よくできた一般論」しか生まれない。社名を別の会社に置き換えても成立する文章では、市場から選ばれる理由にはならない。

生成AIの普及によって、自社らしさはこれまで以上に競争力を左右する要素になった。生成AIによって企業が均質化するのではない。自社の約束が定義されていない企業ほど、AIによって均質化されやすくなるのである。

自社の約束は、責任範囲である

企業の違いは、ロゴやデザイン、言葉遣いだけでは生まれない。本当の違いは、「何に責任を持つか」という判断に表れる。

私自身、オリーブオイル事業では、オリーブオイルと相性の良い食品は積極的に取り扱ってきた。一方で、揚げ物など、賞味期限内であっても時間の経過による味の変化が気になった商品は、売上よりも品質への約束を優先し、取り扱いを終了した。すべての商品を売り続けることではなく、自分が責任を持てる品質だけを届けることを約束にしていたからである。

企業によって、その責任範囲は異なる。どこまで顧客を待たせないのか。どの品質を約束するのか。どこまでを自社の責任とし、どこから先は責任を負わないのか。企業はすべてに責任を持つことはできない。だからこそ、責任範囲を定義する必要がある。

この責任範囲こそ、市場に対して掲げる「約束」である。約束とは、理想を掲げることではない。実際に守り続けられる責任範囲を決めることである。だから、同じ業界でも約束が違えば、価格設定も、サービス設計も、人材育成も変わる。企業が市場で選ばれる理由は、商品だけではなく、その約束を守り続ける姿勢によって形づくられる。

そして、この約束は理念では終わらない。約束の範囲によって、必要な人員、価格、サービス設計、利益率まで変わる。つまり、企業の約束とは経営判断そのものなのである。

AIに渡すべきなのは、会社概要ではなく判断基準である

AIに自社らしい企画や文章をつくらせたいのであれば、会社概要や商品情報だけでは足りない。必要なのは、自社の判断基準だ。

何のために事業を行うのか。誰に何を約束するのか。何を優先し、何を優先しないのか。こうした判断基準が定義されて初めて、AIは自社らしい提案を生み出せる。

反対に、判断基準がなければ、AIが返すのは世の中で評価されやすい一般論でしかない。

AI活用の真のスタート

AIは、企業のブランドをつくることはできない。ブランドをつくるのは、市場に対して掲げた約束を守り続ける企業自身である。だから、AI活用の真のスタートは、プロンプトを磨くことではない。市場に対して掲げる自社の約束を定義することである。

ブランド設計とは、市場に対して掲げる約束を言葉にし、組織の判断基準として定義する営みなのである。

佐藤 裕(さとう ゆたか)
味語り®代表/ブランド設計士。20年超の企業経営経験を活かし、企業と個人の「価値観の接点」を言語化。理念を現場の判断軸へ落とし込むブランド設計に伴走している。

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