「Die with Zero」が不可能な2つの理由

内藤 忍

ビル・パーキンス氏のベストセラー『Die with Zero(ゼロで死ね)』は生前にすべてのお金を使い切り、人生の価値を最大化するというコンセプトを提示した世界的ベストセラーですが、日本でもシニア層を中心に強い共感を呼んでいるようです。

一見すると合理的で理想的なライフスタイルのように見え、私もそのような方法を模索したことがあります。

しかし、結論から申し上げると現実の資産運用や人生設計を考えるとこの方法を実行することは不可能だと思うようになりました。

その第一の理由は、当たり前ですが自分があと何年生きるかは誰にも予想できないからです。

もし90歳で資産がゼロになるよう緻密に計算して使い切ったとして、仮に100歳まで健康に生きてしまえば、残りの10年間は長生きリスクという恐怖に直面することになります。

逆に、資産を消費して減らしてしまうことを恐れて控えめに使っていれば、結局は死亡時に多額の資産が残ってしまいます。

今後、医療技術がさらに進歩する可能性もあり、そうなれば想定より長生きしてしまうリスクが高まります。その結果、より余裕を持ったマネープランが必要となります。

このように資産を計画通りゼロへ着地させることは理論上の机上の空論に過ぎないことがわかります。

そしてもう一つの理由は、自分が働かないで安定したインカム収入を得るためには、ある程度の資産を保有しておく必要があると言うことです。

例えば、毎月50万円、年間600万円の定期収入が資産運用から得られるようにするためには、年利5%のリターンが得られる資産を1億2000万円保有している必要があります。

運用の原資が少なくなっていけば、得られるインカム収入もそれに連動して減っていきます。足りない分は、元本を取り崩せば良いと考えるかもしれませんが、そうなると一番目の問題に戻ってしまうことになります。

現実的に考えるとDie with Zeroを目指して人生の最後を経済的な不安に怯えながら過ごすよりは、自分がいなくなった後の資産の活用方法を生きてるうちにしっかり決めておく。そして、過剰な節約や資産を増やす事は考えず、時間とお金のバランスを考えて生活していくことが大切な気がしてきました。

「死ぬ時が一番金持ち」と言うのは言うまでもなく愚の骨頂ですが、Die with Zeroに拘りすぎて自分のクオリティー・オブ・ライフを低下させてしまうこともそれと同じ位愚かなことだと思います。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2026年8月日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。

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