内閣支持率が報道各社で異なるのはなぜ? 聞き方の違いが映し出す世論の曖昧さ

菅原 琢

内閣支持率は、報道各社の世論調査でも中心的に取り扱われる指標である。前回述べたように電話世論調査の回答者は「有権者全体の縮図」となっていないため、その数字は実際の世論よりも歪んでいると考えられる。

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しかし、毎回同じ手法により行われているため、同じ質問の回答分布のトレンド(長期的な増減の傾向)は実態を反映していると期待される。各報道機関が内閣支持率の変動をしきりに報じるのは、数字自体の正しさには自信がなくとも、変動には信を置けると考えているからかもしれない。

もっとも、世間からすればこうした技術論は知る由もない。各社がまるで競い合うように発表する毎月の内閣支持率は、ネットによる拡散の作用も相まって、かえってその数字への疑義を促している。すなわち、「報道各社によって内閣支持率の数字はなぜこれほど違うのか」と怪しまれることになる。

この報道機関ごとの内閣支持率の相違は、「世論調査への疑いの入門編」とも言うべき地位を占め、世論調査陰謀論の入り口ともなっている。このため、内閣支持率の数字が大きく異なったり、世論調査陰謀論がSNSで流行したりするたびに、報道各社はこれへの「回答」を発表して対応するようになっている。下記はその例である。

これらの記事で示されるように、内閣支持率の各社間の相違は、特に後述の「重ね聞き」によって生み出されていると説明される。

このような説明は少なくとも15年以上にわたって繰り返されている。それだけ「なぜ報道各社で内閣支持率が違うのか」という疑問が何度も流行してきたわけだが、そのたびにこの重ね聞き説が繰り返されて定形化したため、最近ではまるでそれだけで各社の違いが説明できるかのように語られることさえある。

しかし、世論と世論調査の実態を考えれば、「重ね聞き」など質問の仕方や調査手法の違いにより数字に差が生じたという説明は、現象の表層しか見ていない議論である。そこで今回は、内閣支持率の各社ごとの違いを概観しながら、その背景にある世論の実態について考えてみたい。

報道各社の「名前」は内閣支持率の違いに影響するか?

まず簡単に、報道各社の内閣支持率の相違について確認しておく。図表1は、日経新聞、読売新聞、朝日新聞、時事通信、毎日新聞が内閣発足時の内閣支持率として報じた数字をまとめたものである。

この表を見ると、読売新聞と日経新聞が発表する内閣支持率は常に高く、これに比べると朝日新聞は低く、時事通信はさらに低いという明確な傾向を確認できる。時事世論調査を除く各紙の調査は、表中の期間に携帯電話への調査の開始という重要な調査手法の変更が行われているが、支持率の水準の序列に大きな変動はない。

これらに対して毎日新聞はやや特殊な位置に来ている。毎日新聞はこの期間に2回調査手法を変更しているが、菅義偉内閣以降は朝日新聞並みと言えるのに対して、他社と同様の調査手法を採用していた第2次安倍内閣以前の内閣支持率は、日経、読売以上の値になったり、時事通信以下の値になったりと不安定に見える。この点については、後に説明する。

ところで、報道各社の内閣支持率の数字の相違については、「調査したメディアの社名に応じて迎合して答える」といった内容の俗説が存在する。つまり、朝日新聞の調査だから内閣を支持しないと答えてあげる回答者がいるのだ、という説である。「読売新聞だと内閣支持者が世論調査に協力し、朝日新聞だと不支持者が協力する傾向がある」といったような亜種もまとめて、ここでは「社名影響説」と名付けておく。

この社名影響説は、自民党政権に批判的かどうか、「保守的」、「リベラル」な意見を表明しているかといった各社の「政治的スタンス」なるものが支持率に反映しているという点が肝となっている。読売新聞は保守的だから内閣支持率は高い、というように考えているのである。

もっとも、社名影響説が誤りであることは図表1を一瞥すればすぐにわかる。もし社名影響説が正しいなら、自民党政権から民主党政権に変わった際に、「右寄り」とされる各紙の内閣支持率は下がり、「左寄り」とされる各紙の内閣支持率は上がるはずである。

しかし、読売新聞や日経新聞の内閣支持率が、自民党政権の内閣だけでなく民主党政権の内閣でも他社に比べて高い。民主党政権を最も歓迎したであろう朝日新聞の鳩山由紀夫内閣支持率はこれらより低く、時事世論調査は民主党政権でも変わらず低空飛行となっている。

このように、政権が代わろうが各社の内閣支持率の高低に違いが生じていないことから、内閣支持率の高低に各社の「政治スタンス」なるものが影響しているとする社名影響説は正しくないと言える。

そもそも、各社の「政治スタンス」なるものを理解している人々は少ないだろう。そして、理解しているような政治への関心が強い人々の反応が、その社への迎合一択になることもないだろう。むしろ、朝日新聞に反発するからこそ、同社の世論調査に積極的に回答しようとする姿が浮かぶのは筆者だけだろうか?

重ね聞きの実際と効果

各社の内閣支持率の水準の違いを説明する際、決まって指摘され、もしくは弁明されるのが「重ね聞き」の有無である。

読売新聞や日経新聞では、内閣の支持・不支持を聞いた際、「わからない」、「答えない」等の反応を示した回答者に、さらに支持と不支持のどちらかを追加で尋ねている。これが重ね聞きであり、両社は後者の回答を含めた数字を内閣支持率として発表している。

日経新聞は、重ね聞きを行う前の回答分布を報告している。下の図は、2026年6月世論調査における最初の質問での内閣支持・不支持の回答分布、「いえない・わからない」回答者への重ね聞きでの回答分布を示す。

最初の質問で「いえない・わからない」に該当していた17%の回答者に「お気持ちに近いのはどちらですか」として改めて支持・不支持を表明するように促している。その結果、17%のうちの51%が「支持」とし、20%が「不支持」としている。「いえない・わからない」を維持したのは、この月の調査では3割に満たなかった。

以降、菅原琢の政治分析にて(無料登録で続きを読めます)。


編集部より:この記事は政治学者の菅原琢氏のニュースレター『菅原琢の政治分析』2026年8月10日の記事を転載させていただきました。

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