あの青島俊作が帰ってきます。織田裕二さん主演の映画『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』が、9月18日に公開されます。青島を主人公とする『踊る大捜査線』としては、2012年の『THE FINAL 新たなる希望』以来、14年ぶりの新作です。
しかし、今回の『踊る』は、単なる懐かしの人気シリーズ復活ではありません。予告編を見て驚くのは、青島の前に立ちはだかるのが犯罪者だけではないことです。新たな相手はAIです。
捜査の優先順位までAIが決める警察
新作の舞台は2026年の東京です。青島はついに警視庁刑事部捜査第一課に着任しています。東京都内で誘拐事件が発生し、3Dプリンター拳銃を使った連続殺人、さらには毒性ウイルスをめぐる脅迫まで重なるという、いかにも『踊る』らしい大事件が展開されます。
しかし、それ以上に興味深い設定があります。警察組織そのものが大きく変わっているのです。捜査の優先順位をAIが決め、無人部署がデータをもとに犯人を追跡します。さらに、逮捕状の請求までAIに委ねる組織になっていることが明らかになっています。
そして青島は、佐藤二朗さん演じる警視庁クリニックの指方から、衝撃的な言葉を告げられます。「刑事はもういらない」。これは2026年という時代を、非常によく表した言葉ではないでしょうか。
1997年の敵は「官僚組織」だった
『踊る大捜査線』が始まったのは1997年です。当時の作品が描いた大きなテーマの一つは、「現場」と「組織」の対立でした。事件を目の前にして走り回る所轄の刑事たち。それに対して、本庁では幹部たちが会議を開き、縄張りやメンツ、責任問題を気にします。
青島俊作という刑事が魅力的だったのは、そんな巨大官僚組織の中でも「現場」を信じ続けたからです。それから29年が経ちました。今では、会議室に座っている人間すら必要なくなろうとしています。
データを集め、優先順位をつけ、最適な人員配置を考える。犯罪者の行動パターンを解析し、捜査対象を絞り込む。こうした仕事は、まさに生成AIや機械学習が得意とする分野です。1997年の青島は「官僚」と戦いました。2026年の青島は「アルゴリズム」と戦うことになります。
AIが奪うのは「刑事」だけではない
もちろん、これは映画の中だけの話ではありません。現在、企業では資料作成、データ分析、翻訳、プログラミング、契約書のチェックなど、これまでホワイトカラーが行ってきた仕事が次々とAIによって代替され始めています。
警察も例外ではないでしょう。大量の防犯カメラ映像から特定の人物を探す。膨大な捜査資料を整理する。過去の事件との類似性を見つける。
人間が何時間もかけていた仕事をAIが短時間で処理できるようになれば、「経験豊富な刑事が勘で犯人を追う」という刑事ドラマそのものが成立しにくくなる可能性さえあります。
しかし、『踊る大捜査線』が面白いのは、ここで単純な「AI対人間」という構図だけを描こうとしているわけではなさそうなところです。問題は、AIが優秀かどうかではありません。AIに何を決めさせるのかです。犯罪発生の確率を計算することと、誰を疑うかを決めることは同じではありません。
データから最適な捜査方法を提案することと、その結果に責任を持つことも違います。効率性だけを考えれば、いずれAIの方が人間より優秀になる分野は増えていくでしょう。それでも最後に現場へ行き、被害者と話し、容疑者と向き合い、判断する人間は必要なのでしょうか。そこが今回の『踊る』の核心なのだと思います。
「刑事はもういらない」に青島はどう答えるのか
1997年の青島俊作は、脱サラして警察官になった少し変わった刑事でした。彼がずっとこだわってきたのは、出世でも権力でもありません。現場です。
そんな男に29年後、「刑事はもういらない」とAI時代が突きつけます。これはなかなか残酷な設定です。しかし同時に、これほど『踊る大捜査線』らしい設定もないのではないでしょうか。
かつて人間が作った巨大組織に翻弄された青島は、今度は人間が作った巨大なアルゴリズムに翻弄されます。それでも青島は、おそらく走るのでしょう。AIが犯人を予測しても走ります。AIが捜査の優先順位を決めても走ります。
なぜなら、『踊る大捜査線』という作品がこれまで描いてきたのは、効率よく事件を解決する方法ではなく、組織の論理では割り切れない人間をどう扱うのかという問題だったからです。
AI時代になればなるほど、この問いはむしろ重くなります。「刑事はもういらない」。その問いに青島俊作がどのような答えを出すのか。それを見届けるだけでも、14年ぶりの新作を見る価値はありそうです。







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