「令和の米騒動」が、今度は「コメ余り」をめぐる政局に発展しつつある。
デイリー新潮は、自民党の農林族が政府備蓄米の早期買い戻しを求めたのに対し、高市早苗首相が「物価高対策に逆行する」と強く反発し、鈴木憲和農林水産相の進退問題にまで波及していると報じた。
昨年までのコメ不足とは、まったく逆の光景である。
「コメ不足」から一転、在庫が積み上がる
農林水産省によると、2026年6月末の民間在庫は243万トンに達した。さらに2027年6月末には263万〜281万トンまで増加するとの見通しが示されている。
2026年産の主食用米についても、作付意向から推計される生産量は732万トン。需要量は最大でも711万トンと見込まれており、需給は緩む方向にある。
昨年はコメ不足と価格高騰を受け、政府が大量の備蓄米を市場に放出した。しかし、その後は増産が進み、高値で仕入れられた前年産米も流通在庫として残っている。
昨年までの「コメが足りない」という状況から、今度は「コメが余るかもしれない」という状況に変わり始めたわけだ。
新米の流通が本格化すれば、米価への下押し圧力はさらに強まる可能性がある。農家にとっては、資材費や人件費が上昇する中で販売価格だけが大きく下がることへの警戒感が強い。
農林族が求める「政府による買い戻し」
そこで浮上しているのが、政府備蓄米の買い戻しである。
自民党の水田農業振興議員連盟は7月、政府備蓄の水準を早期に回復させるよう鈴木農水相に申し入れた。
政府は昨年、価格高騰への対応として大量の備蓄米を放出した。その結果、政府備蓄は適正水準とされる約100万トンに対し、現在は32万トン程度まで減少している。
食料安全保障の観点から見れば、備蓄を再び積み増すこと自体には合理性がある。
問題は、そのタイミングである。
市場でコメの在庫が増え、価格が下がろうとしている時に政府が大量購入すれば、市場からコメを吸収することになる。当然、価格には下支え効果が生じる。
つまり「備蓄の回復」と「米価の下支え」は、現実には切り離しにくい。
高市首相は「物価高対策に逆行」と警戒
ここで官邸と農林族の利害がぶつかる。
高市政権にとって最大の政治課題の一つは物価高である。とりわけコメ価格は家計が実感しやすく、消費者の不満に直結する。
政府が備蓄米を買い戻し、米価の下落を食い止めれば、農家にはメリットがある一方、消費者にとっては値下がりを妨げる政策にもなる。
デイリー新潮は、高市首相が備蓄米の早期買い戻しについて「物価高対策に逆行する」と強く反発したと報じている。
真偽を含め官邸内のやり取りそのものは外部から確認できないが、政策上の対立軸は明確である。
農林族は農家の所得と米価を守りたい。官邸は生活コストを下げ、物価高への不満を抑えたい。
両者を同時に満足させることは難しい。
米価を上げても下げても政府が介入する矛盾
今回の問題は、日本のコメ政策の根本的な矛盾も浮かび上がらせている。
昨年はコメが高すぎるとして、政府が備蓄米を市場に放出した。
今年は価格が下がる可能性が出てくると、今度は備蓄米を買い戻して市場からコメを吸収しようという話になる。
これでは、価格が上がれば売り、下がれば買うことで、政府が事実上コメ価格のレンジを管理することになる。
もちろん、農家が再生産できないほど価格が暴落すれば、中長期的な食料安全保障にも影響する。
しかし農家を支援する方法は、消費者に高いコメを買わせることだけではない。
農家所得を守る必要があるなら、価格を政策的に維持するよりも、直接支払いなどによって農家への支援と消費者価格を切り離した方が透明性は高い。
鈴木農水相の進退にも波及
備蓄米をめぐる対立は、鈴木農水相の進退問題にも発展していると報じられている。
鈴木農水相は7月28日の会見で、備蓄米の買い戻しについて、2026年産米の作柄や市場価格への影響を見ながら判断する考えを示した。
これは政策としては当然の慎重姿勢だろう。
だが農家側から見れば、米価が下がってから対応しても遅い。一方、官邸側からすれば、価格がまだ高い段階で政府が買い支えに動けば、物価高対策との整合性を問われる。
鈴木農水相は、その板挟みになっている。

鈴木憲和農水相Xより
昨年は「コメが高すぎる」と批判され、今年は「コメが安くなりすぎる」と農政関係者が警戒する。
しかし、価格が上がっても下がっても政府が介入するのであれば、市場に何を委ねるのかという問題が残る。
備蓄米をいつ、どれだけ買い戻すのか。
これは単なる備蓄政策ではない。高市政権が農家の所得維持と消費者の物価負担のどちらを優先するのかを問う政治問題になり始めている。








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