高市政権は「悪夢の民主党政権」よりも弱腰?:2010年には駐ロ大使を召還していた

「悪夢の民主党政権」よりも、ロシアに弱腰なのではないか――。

そんな皮肉さえ感じさせる対応である。

8月13日、ロシアのプーチン大統領が北方領土の択捉島を訪問した。ロシアの現職大統領による北方領土訪問は、日本にとって極めて重大な外交問題だ。

高市早苗首相は「強く抗議する」と表明。「北方領土は、歴史的にも国際法上も我が国固有の領土だ」と強調し、今回の訪問を「断じて許容できない」と批判した。

プーチン・ロシア大統領の択捉島訪問について会見をする高市首相 首相官邸HPより

しかし、問題はその「次」である。政府は13日、駐日ロシア大使を外務省に召致して抗議した。これは当然の対応だろう。だが、2010年の民主党政権と比較すると、今回の対応がむしろ慎重に見えてしまう。

「悪夢の民主党政権」は大使を一時帰国させた

2010年11月、当時のメドベージェフ大統領がロシアの現職大統領として初めて北方領土の国後島を訪問した。

当時の政権は菅直人政権、外相は前原誠司氏だった。

菅直人首相(当時)Wikipediaより

このとき日本政府はロシア駐日大使を外務省に呼んで抗議しただけではない。河野雅治駐ロシア大使を一時帰国させた。事実上の「召還」である。前原外相は、菅首相や仙谷由人官房長官らと協議したうえで、この措置を決定した。

当時の日本政府の対応について、現在の自民党支持者の多くが「強硬外交」として評価することは、おそらくないだろう。

むしろ民主党政権は、外交・安全保障に弱い「素人政権」として批判されてきた。

ところが、今回の高市政権を見ると、奇妙な逆転現象が起きている。

「強い日本」を掲げ、安倍晋三元首相の政治的後継者を自認する高市政権が、北方領土という日本外交の核心的問題について、民主党政権よりも強い対抗措置を取っているとは必ずしも言えないのである。

もちろん、外交上の対応は10年以上前と単純比較できない。2010年と2026年では、ウクライナ戦争をめぐる国際環境も、日露関係もまったく異なる。したがって、大使の一時帰国を行わないことだけをもって「弱腰」と断定するのは適切ではない。

しかし、だからといって今回の対応に疑問が残らないわけではない。

「安倍超え」を狙う高市政権の対ロ外交

高市首相は安倍政権の継承を強く意識してきた政治家である。

実際、高市政権には安倍政権時代の官邸官僚らの影響が色濃く残っているとの指摘もある。森功氏は、高市政権について「安倍晋三政権に憧れる」一方、安倍政権を支えた官邸官僚との関係には違いがあり、政策面での「知恵袋」の不足が政権の弱点になっていると論じている。

だからこそ、今回の北方領土問題への対応は興味深い。

安倍政権はプーチン大統領との個人的な関係を構築しながら、北方領土問題の交渉を粘り強く進めた。その結果については厳しい評価もあるが、少なくとも首脳外交を通じてロシアとの交渉チャンネルを維持することに力を注いだ。

高市政権もまた、今年2月の北方領土返還要求全国大会で「北方四島の帰属の問題を解決し、平和条約を締結する政府の方針に変わりはない」と表明し、ロシア側との意思疎通を続ける姿勢を示している。

しかし、ここには大きなジレンマがある。

ロシアとの関係改善を目指すのであれば、強硬な対抗措置を取れば交渉環境は悪化する。一方、ロシアへの配慮を優先すれば、「結局、日本は何をされても抗議するだけなのか」というシグナルを相手に与えることになる。

外交とは、この難しい綱引きの中で相手にコストを認識させながら、交渉の余地を残す作業である。

「強く抗議する」だけでは、そのコストが十分に伝わらない可能性がある。

「何度だまされるのか」という問題

さらに考えなければならないのは、ロシアとの交渉そのものだ。

日本は長年、北方領土問題をめぐってロシアとの対話を続けてきた。しかし、ウクライナ侵攻後の日露関係は極めて厳しい。ロシア側は北方領土問題について日本に譲歩するどころか、対日姿勢をさらに硬化させている。

それにもかかわらず、日本側が「粘り強く対話すれば何とかなる」という発想から抜け出せないのであれば、問題は高市政権だけにあるのではない。

「何度だまされるのか」。

この問いは、むしろ日本外交そのものに向けられるべきだろう。

ロシアとの対話を維持すること自体は悪くない。しかし、対話を維持することと、ロシア側に過剰な期待を寄せることは別問題である。

「強い政権」だからこそ問われる

高市政権に求められているのは、必ずしも2010年より強い措置を取ることではない。

重要なのは、「強く抗議する」と言うのであれば、その言葉にどの程度の外交的コストを伴わせるのかということである。

大使の一時帰国、経済措置、国際社会への働きかけ、同盟国との連携など、外交にはさまざまな選択肢がある。

もちろん、そのすべてを今回実施すべきだという話ではない。

だが、「強い日本」を掲げ、安倍政権を超えることさえ意識しているのであれば、少なくとも外交上のレッドラインを明確にし、それを越えた場合にロシア側が具体的なコストを負うことを示す必要がある。

そうでなければ、「強い保守政権」という看板と、実際の外交行動との間に大きなギャップが生じる。

皮肉なのは、かつて「外交に弱い」と批判された民主党政権が、2010年には駐ロ大使を一時帰国させていたことだ。

高市政権は「悪夢の民主党政権」より強い外交を実践できるのか。今回の北方領土問題への対応は、その試金石になる。

高市政権が本当に「安倍超え」を目指すのであれば、問われているのは威勢のよい言葉ではなく、言葉を裏付ける外交的な実力と戦略である。

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