電力自由化で膨らむ『見えないコスト』:電気料金は第二の財布なのか

2026年7月、東京電力パワーグリッドをはじめ一般送配電事業者8社は、託送料金(系統利用料)の基礎となる収入見通しの変更承認を経済産業大臣へ申請した。各社とも物価高や人件費の上昇、金利上昇などを理由に収入上限の引き上げを求めており、認められれば11月から託送料金の改定が行われる見込みだ。

電力自由化で増えた「見えないコスト」

図1は中部電力PG(株)の説明資料である。よく見ると「制御不能費用」という見慣れない言葉が登場する。

図1 中部電力「事業計画(変更の概要)2023-2027」P.7事業収入全体見通し

制御不能費用とは、法律やその他のルールで支出が義務付けられており、電力会社の意思ではどうすることもできない費用という意味だ。今回の料金改定はその制御不能費用の増加が主な要因で、電力会社の工夫や努力ではカバーが難しいことを暗ににじませている。

その内訳を見てみると、設備の減価償却費の上昇および金利の上昇であるとしている。まだ比率的には小さいが、容量市場や需給調整市場などの費用増加などの項目もある。

これらは、電力システム改革(電力市場の自由化)によって新たに創設された市場制度の費用が、少しずつ託送料金の中に組み込まれ始めていることを示している。

自由化前も地域独占の各電力会社が将来の需要に応じるための設備計画を行い、その費用は電気料金に組み込まれていた。しかし、1社の中で発電設備計画から送電設備、変電設備計画まで一貫して計画していたことで、効率のよい設備構成が実現できていた。

ところが自由化後は、市場制度の中で各発電会社が自社の利益が最大になるように各々で設備構成を行い、送変電設備は発電設備の計画に対応するように、後追いで構成している。

これで効率のよい設備形成ができるだろうか。自由化前よりも、これら各市場の運営に必要な費用は増えている可能性がある。

再エネ賦課金は電気料金明細に表示されるため、多くの人が「電気代が高くなった理由」として認識している。

しかし、容量市場、需給調整市場、ブラックスタート電源、予備電源制度など、電力システム改革によって創設された各種市場の費用は、託送料金に内包されるため、利用者にはほとんど見えない。

この「見えないコスト」が年々増えつつある。

蓄電池が儲かるほど電気代は上がるのか

現在は、これらの費用の割合は大きくない。例えば東北電力NWでは、年間約779億円の増収申請のうち、調整力関係の費用は数億円規模にとどまる。

しかし、ここで見落としてはならないのは、「現在の金額」ではなく「制度の方向性」である。

例えば、近年蓄電池事業への期待が急速に高まっている。蓄電池は再生可能エネルギーの導入拡大や需給調整に重要な役割を果たすとされ、多くの事業者が需給調整市場や容量市場への参入を進めている。

事業者にとっては新たな収益機会であり、ビジネスとして成立すること自体は悪いことではない。しかし、その利益の原資はどこから来るのだろうか。

答えは、多くの場合、送配電会社が負担する市場支払いである。そして送配電会社の費用は、最終的には託送料金を通じて全国の電気利用者が負担する。

つまり、「蓄電池ビジネスが成長するほど、その市場への支払いも増える」可能性がある。

表1 関西電力「事業計画(変更の概要)2023-2027」制御不能費用の内訳

表1は関西電力送配電の調整力関係の費用内訳である。赤枠で囲った金額が、制御不能費用のうち、電力系統を安定させるために必要な市場を運営するために毎年拠出する金額である。

その費用の多くは、最終的に電気料金を通じて利用者が負担している。

もちろん、市場競争によって効率化が進み、結果としてコストが抑えられる可能性もある。一方で、市場規模が拡大し続ければ、その費用も増加し、将来的には電気料金を押し上げる要因となる可能性は否定できない。

電気料金という「第二の財布」

私が最も問題だと考えているのは、政策実施のためのインセンティブ、つまり財源である。

容量市場、需給調整市場、予備電源制度などは、国の一般会計から予算を計上して支出する仕組みではない。制度上必要と判断されれば、その費用は市場を経由して送配電会社に請求され、最終的には電気料金として回収される。

つまり、市場運営に必要な費用が増えても、直ちに国の財政支出が増えるわけではない。

通常、何か政策に伴う大きな支出をする場合は、常に財源の問題が生じる。しかし、これら電力自由化に伴う支出には、そのようなことはない。

一般会計とは異なる「第二の財布」のような、国民から電気代としてお金が集められる仕組みになっている。

これは政策を実施しやすい一方で、「利用者負担」が見えにくくなるという問題を抱えている。

再エネ賦課金は毎月の請求書に明記されるため、国民的な議論の対象になってきた。その結果、FIT価格の引き下げに伴い、新規導入は以前より落ち着いてきた。

しかし、容量市場や需給調整市場の費用は、電気料金に内包されるため、国民がその増加を実感しにくい。

現段階では、電気料金に大きな影響を及ぼすほどではないが、今回の送配電会社の託送料改定に関するプレス資料でも、容量市場や需給調整市場などの用語解説が掲載され始めている。

費用自体はまだ限定的だが、今後重要なコスト項目になることを電力会社は意識しているようにも読める。

自由化のコストを誰が負担するのか

自由化された市場の下でも電力の安定供給を維持することは重要である。

しかし、新たな制度を創設するたびに、その費用が電気料金へ積み上がっていくのであれば、そのコストと効果は国民に分かりやすく示されなければならない。

さらに、これらの市場制度は自由化や再エネ導入拡大に対応するため整備されたものであり、それに伴う追加的な費用であることも併せて説明されるべきである。

今後、蓄電池市場はさらに拡大するだろう。そのこと自体を否定する必要はない。

しかし、その利益の源泉が誰の負担によって支えられているのか、その費用が将来どの程度まで増える可能性があるのかについては、十分な説明と透明性が求められる。

「見えないコスト」は、見えないから問題にならないのではない。見えないまま積み上がるからこそ、将来の電気料金を考える上で最も警戒すべきコストなのである。

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