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売上が思うように伸びないとき、経営者の前にはさまざまな選択肢が現れる。
広告を出すべきか。SNSを強化するべきか。新商品をつくるべきか。価格を見直すべきか。AIを導入するべきか。
どれも間違った施策ではない。難しいのは、その施策が「自社にとって」正しいのかを、何を基準に判断するかである。
経営に絶対の正解はない。だからこそ、自社なりの判断基準が必要になる。その基準がなければ、次の一手はギャンブルになる。
他社の成功事例は、自社の判断基準にはならない
たとえば、商品数を増やして売上を伸ばした会社があったとする。それを見て「自社も商品を増やそう」と考えるのは不自然ではない。
しかし、顧客がその会社に求めているものが「豊富な選択肢」である場合と、「この会社が選んだものなら間違いない」という信頼である場合では、同じ商品拡充でも意味が違う。
後者の会社が品数を増やすために選定基準を下げれば、販売機会は増えても、長年築いてきた信頼を弱めることになる。
問題は成功事例を参考にすることではない。他社の成功を、自社の判断基準の代わりにしてしまうことである。
その判断基準になるのが、自社がお客様から「選ばれている理由」だ。
「選ばれる理由」は経営判断の基準になる
「選ばれる理由」というと、競合との違いや強みを整理し、顧客に伝えるための言葉だと思われがちである。
しかし、それだけではない。
顧客が自社を選んでいる理由が分かれば、これから何を変え、何を守るべきなのかを判断できる。
「選択肢の豊富さ」で選ばれているなら、品揃えを増やすことには根拠がある。一方、「この会社が選んだものなら信頼できる」と選ばれているなら、品数よりも選定基準を守ることが重要になる。
同じ施策でも、何によって選ばれている会社なのかによって、経営上の意味は変わる。
22年間で選んだ製造者は2社だけだった
私は父が創業したオリーブオイル輸入業に22年間携わった。
私たちには「自分たちが世界一だと思える品質のオリーブオイルを日本に届ける」という明確な使命があった。
創業時から取引していたアメリカの製造者とは、日本では私たちだけに販売してもらう約束を交わしていた。その関係を維持するには、一定量を継続して輸入する必要もあった。
しかし、干ばつや山火事によって現地の生産量が大幅に減少した。
私たちにとっても、1つの製造者だけに依存するリスクが現実のものとなった。商品を増やすことには、売上機会だけでなく供給面でも合理性があった。そこで、別のオリーブオイルを探し続けた。
それでも、品数を増やすために選定基準を下げることはしなかった。
必要だったのは、自分たちが世界一だと思える品質であること。そして、その品質をつくる製造者を信頼できることだった。
最終的に、事業の最後の約5年間はスペインの製造者からも輸入した。しかし、22年間で継続的に扱った製造者は、アメリカとスペインの2社だけだった。
増やさなかったのではない。増やす合理性があっても、基準を満たさない商品は増やさなかったのである。
妥協せずに選んだ商品を届ける姿勢そのものが、お客様から選ばれている理由だと自覚していたからだ。
商品を増やすかどうかの基準は、「売れそうか」だけではなかった。
「私たちが選ばれている理由と矛盾しないか」。
これが判断軸だった。
判断軸があるから、変えられる
判断軸を持つことは、今までのやり方を守り続けることではない。何を守るべきかが分かっているからこそ、変えるべきものを変えられる。
私たちがスペインのオリーブオイルを新たに扱ったのも、自分たちの基準を満たす商品と製造者に出会えたからである。
広告を始める。価格を変える。AIを導入する。新しい市場へ進出する。経営者は常に選択を迫られる。
そのときに問うべきなのは、「この選択は、自社が選ばれている理由を強くするのか、それとも弱くするのか」である。
この問いを持っても、経営の不確実性はなくならない。失敗することもある。
しかし、不確実性があることと、判断の根拠がないことは違う。
経営とは、未来の正解を当て続けることではない。
自社が何によって選ばれているのかを知り、何を守り、何を変えるのかを決める。その判断を積み重ねていくことである。
「選ばれる理由」は、顧客に選んでもらうためだけの言葉ではない。経営者が次の一手を選ぶための判断軸でもある。
その軸がなければ、次の一手はギャンブルになる。
その軸があれば、結果を保証できなくても、自社なりの根拠を持って次の一手を選べるのだ。







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