アカウント削除されてもネット上をさまよう「中村りほ@立憲民主党」

生成AIでつくられた架空の女性政治家「中村りほ@立憲民主党」が、本人のXアカウントが消えた後もネット上で大活躍しています。

もちろん「本人」は最初から存在しません。立憲民主党栃木県連に所属する男性党員が生成AIでつくった架空の女性です。ところが騒動がニュースになったことで、中村りほはアカウントが存在していたころ以上に有名になってしまいました。

「男性では人気がないから女性にした」

「中村りほ@立憲民主党」のアカウントは2024年6月に開設されました。プロフィールには「性暴力から妊娠、出産。経験を生かし女性が安心して暮らせる社会を目指します」などと書かれ、政治活動をする若い女性の写真が掲載されていました。

しかし女性は実在せず、画像も生成AIによるものでした。運営していた男性党員はテレビ朝日の取材に「私がAIで作りました。浅はかでした。反省しています」と認め、女性になりすました理由について「男性では人気がないから、女性で人気を得ようとしました」と説明しています。

投稿内容もかなり凝っていました。「お産後初の政治活動」として鹿沼市を訪問した写真を掲載したり、3620gの女児を出産したという詳細な「出産報告」をしたり、赤ちゃんを背負ってマイクを握る姿までつくっていました。

アカウントは消えたが「中村りほ」は消えなかった

騒動が表面化すると、アカウントは8月19日にアクセスできない状態になりました。報道によって「閉鎖」「凍結」など表現に違いはありますが、8月22日時点ではX上で「中村りほ」のアカウントを見ることはできません。

普通なら、これで一件落着と思うところです。ところがネットでは正反対のことが起きました。テレビ朝日、朝日新聞、共同通信、ITmedia、J-CASTニュース、PRESIDENT Onlineなどが相次いで事件を報じ、Xでは過去の投稿のスクリーンショットが大量に転載されました。

ニュースサイトにも、現在は見ることのできない「中村りほ」のプロフィール画像や投稿内容が掲載されています。つまりX上の「中村りほ」は消えましたが、ネット上の「中村りほ」はむしろ増殖してしまったのです。

消すほど有名になる「ストライサンド効果」

これはネット社会では珍しい現象ではありません。問題の投稿を削除すれば、その情報もなくなると思いがちですが、話題になった後では遅いのです。誰かがスクリーンショットを保存し、誰かが引用し、まとめサイトやニュースサイトが記事にします。そして検索エンジンがそれらを拾います。

今回も「中村りほ」と検索すれば、本人のアカウントを見ることはできなくても、プロフィール画像や政治活動、出産報告など、かつての投稿についての記事が次々に出てきます。

情報を消そうとしたことによって、かえって情報が広く知られてしまう現象はストライサンド効果と呼ばれています。「中村りほ」は、その分かりやすい実例になってしまいました。

AI時代、「存在しなかった人」にデジタルタトゥーが残る

ただ今回の事件のおかしさは、デジタルタトゥーを残した本人が、そもそもこの世に存在しないことです。これまでは「一度ネットに書いたことは消せない」と言われてきました。これからは、それだけではありません。「一度ネット上に存在した人物は、実在しなくても消せない」という時代になるのかもしれません。

立憲民主党は、生成AIを用いて作成した架空のキャラクターが実在の政党名を使って投稿することについて、ニセの情報を拡散し、民主主義をゆがめる行為だと批判しています。これは当然の指摘でしょう。

しかし皮肉なのは、騒動が明るみに出てアカウントが消えた後のほうが、「中村りほ」の知名度は圧倒的に高くなったことです。生まれたこともありません。出産したこともありません。政治活動をしたこともありません。それどころか人間ですらありません。

それでも「中村りほ@立憲民主党」は、今日も検索結果の中で政治活動を続けています。生成AI時代には、人間よりも「架空の人間」のほうがネット上で長生きするのかもしれません。

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