「残業する自由」は必要か? 働き方改革の方向転換に賛否両論

「残業するな。早く帰れ」。ここ数年、会社員なら一度くらいは上司からこんなことを言われたことがあるのではないでしょうか。

かつての日本企業では、残業する社員が「頑張っている」と評価される傾向がありましたが、働き方改革で一変し、今は残業すること自体が悪いことのようになています。そんな流れが、少し変わろうとしています。

「45時間を超えてはいけない」わけではない

厚生労働省は8月19日、労働基準監督署による残業時間の指導を9月1日から見直すと発表しました。これまでは時間外・休日労働の時間数に着目し、月45時間以内への削減を一律に求める指導が行われてきましたが、今後は36協定で定めた健康確保措置の実施状況などを重点的に確認する方針です。

残業規制そのものがなくなるわけではありません。労働基準法では原則として1日8時間、週40時間が法定労働時間であり、36協定を結んだ場合でも残業の上限は原則として月45時間、年360時間です。

繁忙期など特別な事情があり、労使が合意して36協定を締結すれば、月100時間まで働くことが認められていますが、そういう企業に対しても労基署が「できるだけ45時間以内にしてください」と指導していました。今回見直されるのは、この部分です。つまり「残業し放題」になるわけではありません。

若いうちは働きたい人もいる

この方向転換には一定の合理性があります。会社員にはいろいろな人がいます。仕事より家族との時間を大切にしたい人もいます。趣味の時間が欲しい人もいます。毎日定時で帰りたい人もいます。それは当然尊重されるべきでしょう。

一方で、20代や30代で仕事を覚えたい、同期より早く成長したい、もっと経験を積みたいと思っている人もいます。ところが働き方改革が極端になると、こういう人まで一律に「残業禁止」になります。

午後6時になるとパソコンを強制的にシャットダウンする会社もあります。まだ仕事をしたくても帰らなければなりません。仕事には短期間に大量の経験を積むことで一気に成長する時期があります。その機会まで行政が奪う必要はないと思います。

「働かされる」のと「働きたい」は違う

これに対して、連合の芳野会長は「時間外労働を助長しかねない」と批判しています。もちろん長時間労働を美化するつもりはありません。「若いうちは寝ないで働け」と会社が命令し、断れば人事評価を下げるような時代に戻してはいけません。

しかしここで区別すべきなのは、「働かされること」と「働きたいこと」はまったく違うという点です。労働者を守るための制度が、いつの間にか労働者が働く自由まで制限してしまうのは本末転倒です。

今回の見直しでも、厚労省は過重労働による健康障害の恐れが高い場合には、引き続き必要な指導を行うとしています。つまり健康を守るという原則そのものを変えるわけではありません。

「全員同じ」が働き方改革ではない

そもそも働き方改革とは、本来「全員を早く帰宅させる運動」ではないはずです。週40時間働きたい人もいれば、週30時間で十分という人もいます。猛烈に働いて管理職を目指したい人もいれば、出世せず私生活を充実させたい人もいます。

これだけ価値観が多様化した時代に、働く時間だけは全員同じというのも不思議な話です。7月21日に閣議決定された「日本成長戦略」と「骨太方針2026」でも、労使の合意にのっとった指導への見直しが掲げられ、今回の厚労省の対応はその具体化です。

会社員の働き方を行政が一律に決める時代から、本人と会社が選ぶ時代へ。今回の小さな方針転換は、日本の働き方が次の段階へ進む一歩なのかもしれません。

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