日本病のカルテ(8) ゾンビ企業とゾンビ社員を生んだのは何か

  • 長期にわたる超低金利と政府・銀行による企業救済は、本来なら退出すべき「ゾンビ企業」を延命し、日本経済の新陳代謝を妨げてきた。
  • 同時に、正社員の雇用を守る硬直的な雇用慣行が人材の移動やIT投資を阻み、社内で成長機会を失った「ゾンビ社員」も生み出した。
  • 「金利のある世界」に戻る今こそ、企業そのものではなく人材や資産を守り、成長分野へ移動させる仕組みへの転換が必要である。

長期金利が3%に近づき、金利のある世界が戻ってきた。そのとき問題になるのが、長年のゼロ金利で生き延びてきたゾンビ企業である。帝国データバンクによるとゾンビ企業は推計約21万社。全企業の14.3%に達する。これは単なる赤字企業ではなく、営業利益だけでは金利の払えない状態が長期間続いている企業である。

ゾンビ企業の中には、仕事がなくても定年まで窓際族で過ごす中高年のゾンビ社員がいる。こうしたゾンビ企業やゾンビ社員を救うために雇用調整助成金など巨額の補助金が支給される。それは当事者にとってはありがたいが、それを30年以上続けた結果、日本経済は停滞してしまった。

「追い貸し」でゾンビ企業が生まれた

資本主義では本来、利益を生み出せない企業はいずれ市場から退出する。銀行は返済能力のない企業への融資を打ち切り、株主は収益の上がらない会社から資金を引き揚げる。そこで使われていた人材や土地、設備、資金は、より生産性の高い企業へ移っていく。これが企業の新陳代謝である。

ところが日本では、バブル崩壊後、この仕組みが十分に働かなかった。銀行は不良債権の顕在化を避けるため、実質的に経営破綻している企業に追い貸しをおこない、見かけ上のバランスシートをきれいにしようとした。その結果、追い貸しによって債務者の資金繰りはついたが、負債は大きくなった。

たとえば長銀がEIEに100億円投資して、リゾート開発を支援したとしよう。このプロジェクトを継続するのは、完成したリゾートの価値が100億円以上の場合だが、地価が暴落して30億円でしか売れないとわかったとする。このリゾートを清算すると清算価値は30億円なので、長銀は70億円が回収できない。

そこでEIEの払う金利を追い貸しして、健全な債権のように見せたが、EIEの債務はふくらみ、長銀の不良債権は増えた。これは今からみると不合理のようだが、債務者は破綻をまぬがれ、債権者は損失を計上しなくてもよいので、事後的には(パレートの意味で)効率的だった。

しかし事前にこの結果がわかっていたら、長銀は金を貸さなかっただろう。日本経済からみると、この100億円(+金利)は無駄(不稼働資産)であり、成長率を低下させる。しかし大蔵省も銀行の破綻処理を恐れ、この隠蔽工作を見逃した。

「甘い予算制約」で企業がゾンビ化した

それが露見したのが、1997年11月の三洋証券の倒産だった。これ自体は地場証券が会社更生法の適用を申請しただけだが、その過程でインターバンクの資金がデフォルトになるという予想外の事件が起こり、銀行間の決済が凍結されてしまった。

その影響で北海道拓殖銀行と山一証券の経営が破綻し、金融危機が起こった。その直後から銀行は追い貸しをやめ、債権を回収し始めた。これは過剰債務の解消だったが、企業から見ると銀行から借りていた金を返すので、預金を増やすのと同じだった。このため図のように1998年から日本の企業は貯蓄過剰になり、それは今まで続いているのだ。

小川製作所

1990年代に銀行の追い貸しで生き延びていた不動産業などは担保不動産の清算で消えたが、それ以外の業種では銀行の「貸しはがし」に対抗して正社員の雇用を守るため内部留保(利益剰余金)を増やした。

さらに不良債権の処理による倒産を減らすため、国や自治体がさまざまな方法で企業を救済した。モラトリアム法(中小企業金融円滑化法)による返済猶予だけで363万件、総額100兆円以上に達した。これで企業は生き延び、従業員の雇用は守られ、政府は企業を救済するので、事後的には効率的である。

しかしこれも経済全体としては膨大な無駄(不稼働資産)を生み出す。さらに雇用調整助成金で雇用を守ると完全失業率は下がるが、社内失業者が増える。このように銀行や政府が損失を先送りする現象を、コルナイ甘い予算制約(soft budget constraint)と呼んだ。

これはハンガリーで起こった現象で、銀行はすべて国営で決済機能がなく、決済はすべて「モノバンク」と呼ばれる中央銀行でおこなわれた。その結果、企業はいくら赤字を出しても決済が際限なく延期されるので「国営ネズミ講」が可能になり、損失が蓄積する。

結果的には、きわめて非効率的な社会主義経済ができた。いま日本が置かれている長期低迷の状況も、この社会主義末期に似ている。それを政府主導の「積極財政」で成長させようというのは、まるで1980年代の東欧で計画経済をもっと進めろと言っているようなものだ。

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