540億円の失敗を「トータルでは成功」で済ませるのか
クールジャパン機構が累積赤字約540億円を抱え、廃止の方向となった。2013年に鳴り物入りで始まった官民ファンドだが、巨額の損失を残したまま幕を閉じようとしている。
ところが、失敗の責任や制度設計を十分に検証しないまま、経産省は今度は「ものがたり大国5カ年計画」を掲げ、2033年に日本発コンテンツの海外売上20兆円を目指すという。
その中心に再びいるのが中村伊知哉氏だ。中村氏は現在、経産省「エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会」のステアリングコミッティー座長を務める一方、過去のクールジャパン政策について「トータルでは成功」と評価する趣旨の発言をしている。
日本のアニメやゲームの海外展開が伸びたことは事実だ。しかし、それとクールジャパン機構の投資成績は別問題である。NetflixやYouTubeなど世界的な市場拡大による成長まで政府の成果に数えるなら、540億円の損失はいったい何だったのか。
公金94.3%なのに運営は民間主導
さらに気になるのが、公金と民間企業の距離の近さである。
中村氏が座長を務めた内閣府の映画振興に関する検討会議の後、クールジャパン機構などが設立したコンテンツファンドでは、53億円のうち50億円、約94.3%を公的資金が占めた。一方、運営会社の議決権は約7割を民間企業が握り、その中には吉本興業と電通系企業の合弁会社も入っていた。
その運営会社は案件審査やファンド管理を担った。つまり、公金の大部分を政府側が出しながら、審査する側にはコンテンツ業界のプレーヤーが入る構造だった。違法という話ではないが、競合する制作会社から見れば利益相反への疑念が生じても不思議ではない。
政策を考える側が経産省事業も受注
現在でも似た問題が見える。中村氏が学長を務めるiUを設置する学校法人電子学園は、経産省の補正予算事業を2205万円で受注している。一般競争入札であり、不正を示すものではない。しかし政策を議論する有識者と、その政策分野で政府事業を受注する法人のトップが重なるなら、利害関係や審議回避のルールは公開されるべきだ。
中村氏は大阪・関西万博でも「事業化支援プロジェクトリーダー」を務め、その後、自ら代表理事となった一般社団法人が経産省の万博関連調査を約2400万円で受注している。これも入札案件だが、公金を扱う以上、「違法でなければ問題ない」で済ませるべきではない。
新しい「ものがたり」の前に古い失敗の総括を
問われているのはガバナンスである。
テレビはクールジャパン機構の廃止を「540億円赤字」と表面的に報じるだけで終わるかもしれない。しかし本当に検証すべきなのは、誰が政策を設計し、誰が審議会に入り、誰が公金事業を受注してきたのかという構造だ。
新しい「ものがたり」を始める前に、まず540億円を失った古い「ものがたり」の総括をする。それが順番ではないか。











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