クールジャパン機構の方針を決めた中村伊知哉氏は吉本興業の社外取締役だった

西川 祐二郎

クールジャパン機構をめぐる問題は、累積赤字がいくらになったかだけではない。もっと根本的に検証すべきなのは、誰が政策の方向性を決めたのかだ。そこで気になるのが、クールジャパン政策の中心人物として長年政府の会議に参加してきた中村伊知哉氏と吉本興業との関係である。

「ラフ&ピース マザー」公式サイト

政策をつくる側にいた中村氏

中村氏は単なるクールジャパンの評論家ではない。2013年には政府の「クールジャパン推進会議」の下に設けられたポップカルチャー分科会の議長に就任した。その後も知的財産戦略本部の「コンテンツ分野を取り扱う会合」の座長などを務め、2016~17年の「映画の振興施策に関する検討会議」でも座長だった。

つまり政府のコンテンツ政策の方向性を形成する有識者の中心にいた人物である。ところが彼は2016年1月に吉本興業の顧問となり、同年6月には同社の社外取締役に就任している。上場企業の開示資料でもこの経歴は確認できる。(irpocket)

吉本の社外取締役が「官民ファンド活用」を提言

2017年に中村氏が座長を務めた「映画の振興施策に関する検討会議」には、当時の吉本興業社長、大﨑洋氏も委員として参加していた。政府資料の委員名簿で、中村氏の肩書は「慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授」と記載されているが、吉本興業社外取締役という肩書は記載されていない。(内閣官房)

この検討会議の報告書は映画製作支援について「官民ファンドの活用などにより、特に資金需要の強い企画開発や製作段階においてリスクマネーを供給する方策」を検討すると提言した。

官民ファンドを使ったコンテンツ産業への資金供給を提言する政府会議の座長が、その資金を受ける可能性のある大手コンテンツ企業の社外取締役だったのである。これは利益相反の管理がどうなっていたのか、説明が必要だろう。

そして吉本関連事業に最大100億円

その約2年後の2019年4月、クールジャパン機構は吉本興業、NTTと共同でラフ&ピースマザーという事業を開始した。中村氏は、この企画の中心だった。支援決定額は最大100億円。実際にクールジャパン機構が投資した金額は31億円だった。

ところが当初掲げていた海外展開は十分に進まず、2023年には会社が国内事業に注力する方針となった。海外需要開拓を目的とするクールジャパン機構は、その結果、保有する全株式を手放している。

重要なのは31億円が消えたことではない。問題はなぜこの案件が国費を原資とする官民ファンドの投資対象として選ばれたのか、その審査過程で中村氏と吉本興業との関係がどう扱われたのかである。

「適法だった」だけでは済まない

問われるべきなのは、中村氏が政府の政策形成に関与する際、吉本興業社外取締役という利害関係を政府側に申告していたのか。吉本に関係する議題で審議を回避したのか。利益相反について誰が審査し、その記録は残っているのかである。

とりわけ政府の公開資料で「慶應義塾大学教授」とだけ紹介され、吉本興業社外取締役という重要な兼職が見えなくなっているのは気になる。

クールジャパン機構は2025年度末で累積損益がマイナス540億円となり、政府目標のマイナス426億円を大幅に下回った。経済産業省は現在、制度面、投資事業面、組織・経営面について外部有識者による検証を進めている。(経済産業省)

ならば検証すべきなのは、失敗した投資案件の数字だけではない。政策をつくる有識者と、その政策によって国費の投資を受ける企業との距離は適切だったのか。

クールジャパンという巨大な官民事業が540億円もの累積赤字を残した以上、「結果的に失敗しました」で終わらせるわけにはいかない。ラフ&ピースマザーへの投資審査資料、利益相反の申告、審議回避の有無まで公開し、政策決定のプロセスそのものを検証する必要がある。

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