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一時期、すごい勢いで店舗急拡大させた『鰻の成瀬』。
お店に入った方も多いのではないでしょうか?
創業わずか3年で累計出店数は400店舗超。しかし経営悪化で、その後の店舗数は急減。2026年4月、AIフュージョンキャピタルグループの傘下に入りました。
何が起こっていたのかを見ていきましょう。
『鰻の成瀬』の成長
『鰻の成瀬』が絶好調だった2年前の2024年9月、テレビ東京『カンブリア宮殿』で、同チェーンを運営する山本昌弘社長が登場しています※1)。
通常の鰻屋は『串打ち3年、裂き8年、焼き一生』と言われ、職人が手間をかけて作ります。価格は3,000〜5,000円。
これを『鰻の成瀬』は変革しました。
鰻は安い中国産を使用。蒲焼きした鰻を仕入れ、店で特別な調理器具で蒸します。誰でもできる作業なので、職人は不要。
コンセプトは、「どの店もブレずに安定した美味しさ」。
通常は注文すると30分かかりますが、10分で出てきて、並(梅)は1600円。竹は2200円、松は2600円。普通の鰻店の半額です。
通常の料理は2000円だと「高い」と思われますが、鰻だと「安い」となります。
このために、低コストで運営しています。
牛丼屋やそば屋は、フラッと立ち寄って食べるので、家賃の高い駅近に店舗があったほうが有利です。しかし鰻は「明日は、鰻を食べよう」といった感じで、目的買いをします。ですので駅から15分離れた商店街にある家賃が安い店舗でもOKなのです。
また通常の店舗改装には数百万円かかったりしますが、『鰻の成瀬』では、たとえば寿司屋の急店舗をそのまま居抜きで50万円で改装するなど、低コストで開店します。
さらに店舗作業がシンプルなので、横浜の直営店舗では、キッチン経験ない店員が働いています。
『鰻の成瀬』は、こうした低コストで手間がかからない仕組みを作り、フランチャイズ(FC)チェーン展開しました。
当時、「FCビジネスの革命」と言われていました。
山本社長はFCコンサルタントでした。さすがFCを熟知しているだけあって、よく考えていますね。
山本社長は鰻のことはほとんど知りませんでしたが、
「加盟店を成功させるFCビジネスを作る」
と考えたのです。
FCオーナー同士で助け合い、FC初心者にも丁寧に指導する仕組みも作りました。
番組では、「急成長して大丈夫なんですか?」という質問に対して、
「オペレーションが軽い業態だから、さっさと広げた方が勝てる。そのためには、広告戦略をキッチリやることがカギ」
と答えています。
こうして『鰻の成瀬』は、わずか3年後の2025年末には累計出店数が400店舗超にまで拡大しました。
ビジネスは盤石に見えましたが、2026年になって状況が大きく変わり始めます。
『鰻の成瀬』の低迷
2026年4月、AIフュージョンキャピタルグループが同社の発行済み株式の58%を約5,800万円で取得しました※2)。
わかりやすく言うと「身売り」です。
累計出店数が400店舗で、2025年8月期時点で売上20.8億円(最終損益は赤字3,900万円)もあった『鰻の成瀬』を、わずか5,800万円で手放さざるを得なかったのです。
負債がかなりあり、経営が苦しかったのではないかと思われます。
『鰻の成瀬』低迷の理由
『鰻の成瀬』を運営する山本社長は、日経ビジネス2026年8月24日号「敗軍の将、兵を語る」で、低迷した理由を語っています※3)。
『鰻の成瀬』は急成長の一方で、深刻な組織マネージメントの壁に直面していました。
2024年にカンブリア宮殿に紹介されていた初期のFCオーナーは、高いモチベーションを保っていたのですが、山本社長によると「メディアに注目されると変わってくる」。
「成瀬の看板を掲げれば儲かる」
「本部が手取り足取りやってくれて、当然」
というオーナーが増えて、次第に足並みが揃わなくなりました。
FCオーナーは数百人にもなりました。山本社長はこう語っています。
「一人ひとりの感情に寄り添い、泥臭いコミュニケーションをもっと積み重ねる必要があったのです。財務、人材採用、教育など、組織として大切なことをいかに浸透させるのか。経営者として成功している人は、こういう組織マネージメントがうまいのだと思います」
急速な拡大に人材や管理体制が追いつかず、あらゆる仕事が外注任せになり、膨張していきました。
「私は大切な教訓を得ました。経営者には器のようなものがあること。それに見合った規模で事業を運営しなければならないことです」
こうして山本社長は、再挑戦を図ろうとしています。
なぜこうなったのか?
山本社長は記事で「自分の器の問題」とおっしゃっていますが、私は真の原因は、2024年に放映されたカンブリア宮殿での山本社長の発言に隠されていると思いました。
「オペレーションが軽い業態だから、さっさと広げた方が勝てる。そのためには、広告戦略をキッチリやることがカギ」
参考になるのが、「チェーンストア理論」です。
チェーンストアとは、11店舗以上の店を集中管理して販売する小売業者のこと。
チェーン鎖(鎖)の各々の輪は弱いですが、多数の輪がつながれば強くなり大きな力を発揮します。
チェーンストア理論では、こうして「多数の店を繋げて1つの店でできない力を出そう」と考えます。
そのために、単に店舗数を増やすのではなく、標準化します。
- その店舗の運営にベストの方法を発見し、
- 関係者を教育し、
- その通り実行できる状態にします。その上で、
- 一定期間が過ぎたらルールを改善・修正し、
- 1から4の手順を繰り返して例外発生を減らします
『鰻の成瀬』も、こうしたサイクルは行っていたと思います。
問題は「マスの概念」です。
「ある一定量を超えるとまったく新しい性質を得て、新しいことができるようになる」という考え方です。
20〜30店の壁は、まったく新しいマネジメントの仕組みをつくれば乗り越えられます。
しかし50〜100店で、全く異なる壁に直面し、次の限界がきます。
ここで時間をかけて経験を積み重ね、綿密で周到な新しいシステム設計を行う必要があります。
この段階を乗り越えれば、従業員の考え方や行動が変わり始め、企業文化のレベルが一気に上がります。
200店を超えるとチェーンストアが威力を発揮し始め、500店を超えると、ものすごい効果を発揮します。
しかしそれぞれの店舗数の規模ごとに、全く新しい問題が発生します。そこで各段階で1〜5を愚直に回し続け、新たなシステムに再設計する必要があるのです。
1000店舗超のニトリも、500店舗超のくら寿司も、何十年という時間をかけて自社独自の仕組みを構築し、強いビジネスを作り上げました。
『鰻の成瀬』の場合、50店舗の段階で、もしかしたら20〜30店舗の時と全く異なる壁に直面していた可能性があります。
たとえば店舗は居抜きをそのまま使用していました。これだと多くの店舗デザインはバラバラで、運営は全て店任せで、本部で詳細が把握できなかった可能性があります。
しかし『鰻の成瀬』は400店舗までアクセルを踏み続け、壁を修正しないまま急拡大したことに問題があったのではないかと思います。
ところで2024年9月のカンブリア宮殿では、山本社長が新たに「本格よもぎ蒸しサロンaUN」に挑戦している様子を紹介していました。
HPを見たところ、現時点で5店舗展開(うち1店舗は閉店)しているようです。もしかしたら、マスの概念を実践しているのかもしれません。
常識に囚われることなく、リスクを恐れずに次々と挑戦する山本社長の姿勢は本当に素晴らしいなので、頑張っていただきたいと思います。
【参考情報】
※1)『わずか2年で店舗数250越え 鰻の成瀬 急成長の舞台裏』カンブリア宮殿、2024.9.19、テレビ東京
※2)『「鰻の成瀬」運営会社、AIフュージョンキャピタルが子会社化』日本経済新聞2026.4.10
※3)『鰻の成瀬、店舗激減の真相』日経ビジネス 2026.8.24号
編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年9月1日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。







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