地価上昇・建築費高騰時代に「企業価値を高める不動産」とは何か

地価の上昇が続いている。

国土交通省の令和8年地価公示によれば、全国平均の地価変動率は全用途平均で前年比2.8%上昇し、5年連続の上昇となった。三大都市圏だけでなく地方圏でも上昇が続き、商業地、住宅地、工業地のいずれにおいても、不動産を取り巻く環境は変化している※1)

一方で、建築費の高騰にも歯止めがかかっていない。公共工事設計労務単価は14年連続で上昇し、建設工事費デフレーターも高水準で推移している※2)※3)。建替え、開発、改修、土地活用の採算は、この数年で大きく変わりつつある。

地価が上がることは、不動産を保有する企業にとって一見朗報に見える。

長年保有してきた土地の含み益が増える。担保価値が高まる。売却すれば資金化できる可能性も広がる。しかし同時に建築費が上がれば、建替えや再開発、賃貸化、建て貸し、リニューアルの前提は大きく変わってしまう。

つまり、現在の不動産市場では、「持っているだけで価値が上がる」という単純な話では済まなくなっている。地価上昇と建築費高騰が同時に進む時代に、企業価値を高める不動産とは何か。改めて考える必要がある。

不動産価値と企業価値は同じではない

従来、不動産の価値は「いくらで売れるか」「どれだけ含み益があるか」「担保としてどれだけ評価されるか」で語られることが多かった。市場価値が高ければ売却や資金調達の選択肢は広がるし、担保力があれば金融機関との関係でも意味を持つ。

しかし、不動産価値が高いことと、企業価値を高めていることは同じではない。

本業に使われていない土地の価格が上がっても、事業成長に結びついていなければ経営への貢献は限定的である。賃料収入の低い不動産を持ち続けている場合、市場価格が上がるほど、むしろ資本効率の低さが目立つこともある。含み益の大きい不動産は、事業承継やM&Aの場面で、株式評価や資産整理を複雑にする要因にもなり得る。

不動産価値は高い。しかし、企業価値には十分貢献していない。そうした状態は、十分に起こり得る。

建築費高騰は「活用すればよい」という発想を難しくする

地価上昇局面では、保有不動産の活用提案が増えやすい。建替えましょう、賃貸マンションを建てましょう、商業施設を誘致しましょう、建て貸しにしましょう、といった提案である。

しかし建築費が高騰している局面では、以前なら成立した事業計画が、現在も成立するとは限らない。建設費が上がれば必要な賃料水準も上がり、借入額が増えれば返済負担も重くなる。修繕や更新投資のコストが上がれば、既存建物を保有し続ける前提そのものも変わってくる。

地価が上がっているから活用すればよい、という単純な判断は危うい。むしろ今は、売却、保有、賃貸化、建替え、用途転換、建て貸し、既存建物の再利用を、これまで以上に慎重に比較すべき局面である。

何もしないことは、現状維持ではない

外部環境が安定していた時代なら、何もしないという判断にも一定の合理性があった。しかし地価、建築費、金利、人口構造、働き方、物流、介護需要が同時に変化する中では、何もしないことは現状維持を意味しない。相対的に競争力を失う可能性がある。

老朽化した本社ビルを使い続ければ採用力や業務効率に影響するかもしれない。古い工場や倉庫を放置すれば、生産性や物流効率で他社に劣後するかもしれない。低利用地を抱え続ければ、本業投資に回すべき資本を眠らせることになる。農地や郊外の土地も、介護・福祉施設、物流施設、ロードサイド店舗など地域需要と結び付ければ、別の価値を持つ可能性がある。

市場環境が変わる時代には、不動産も見直さなければならない。手をこまねいていることは、必ずしも安全ではない。

CREの視点では、価格ではなく役割を見る

ここで重要になるのが、CRE、すなわち企業不動産の視点である。

CREの観点では、不動産を単体の価格や含み益だけで評価しない。経営の中でどのような役割を果たしているかを見る。

本社は、意思決定、採用、ブランド形成に貢献しているか。工場や物流施設は、生産性、物流効率、災害対応力を高めているか。賃貸不動産は、安定収益や財務余力を生んでいるか。遊休地や低利用地は、将来の事業展開や資産再編の選択肢を広げているか。保有し続けることで、後継者の経営自由度を狭めていないか。

企業価値を高める不動産とは、単に価格が上がった不動産ではない。外部環境の変化に対応し、事業、財務、人材、承継、将来の選択肢に貢献する不動産である。

企業価値を高める不動産に、共通する一つの条件

企業価値を高める不動産には、共通点がある。それは、経営の中でその役割を説明できることである。

本業に不可欠だから保有する。安定収益を生むから保有する。将来の事業展開に必要だから残す。売却して本業投資に振り向ける。賃貸化や建て貸しによって低利用地に新たな役割を与える。承継後の経営自由度を高めるために資産構造を整理する。

こうした判断ができて初めて、不動産は企業価値を高める経営資源になる。

地価上昇と建築費高騰は、企業にとって単なる市況変化ではない。保有不動産の役割を、あらためて見直す契機である。

不動産価値が高いことは重要である。しかし、より重要なのは、その不動産が企業の未来にどう貢献しているかである。

問われているのは、不動産をいくらで持っているかではない。その不動産を、企業価値を高める方向にどう機能させるか——この問いに、自社は今どう答えられるだろうか。

【出典】
※1)国土交通省「令和8年地価公示」
※2)国土交通省 公共工事設計労務単価資料(令和8年3月適用分)
※3)国土交通省 建設工事費デフレーター(令和8年5月分)

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