日本の財政の本質的な問題は「財政破綻」ではない

池田 信夫

政府の概算要求が143兆円という史上最大規模になり、長期金利が上がっていることから、将来の財政収支が気になる。財務省は2035年度には利払い費が35.9兆円になると想定しているが、これは一般会計だけの計算である。

東京新聞

名目成長率が3%台なら政府債務比率は減る

内閣府の2026年7月試算のうち、成長戦略実現ケース①では名目GDP成長率は2030年代に3%台となる。これは楽観的な数字にみえるが、実質成長率が1%でもインフレ率が2%台なら実現できる。この場合は、政府債務の名目GDP比は下がるというのが内閣府の予測である。

他方、実効金利(加重平均クーポン率)も借り換えで徐々に上昇する。これは新発国債とゼロ金利の既発債を平均した金利で、2026年度は1.2%だが、2039年度には3.4%となり、名目GDP成長率とほぼ一致する。これがいわゆるドーマー条件(r<g)を満たす限度である。

純支払い金利は2040年度でもr<g

さらに重要なのが、外国為替特別会計などの受取金利を引いた純支払い金利だ。ここでは、内閣府の純利払費と公債等残高を使い、

純支払い金利 ≒ 純利払費 ÷ 前年度末の公債等残高

として概算した。この計算では、2030年度の純支払い金利は約1.3%、2035年度は約2.3%、2040年度でも約2.8%にとどまる。つまり総支払いベースでは2040年度ごろにrとgがほぼ一致するが、受取利子を差し引いた純支払い金利はまだ余裕がある。

純利払い費が低くなる理由は、政府は金利を支払うだけでなく、金融資産から利子を受け取っているからだ。その代表が外貨準備として保有する米国債である。

世界的に金利が上がれば、日本国債の借り換え金利が上昇して政府の利払い負担が増える一方、海外資産から受け取る利子収入も増える(ここでは一定率と仮定している)。

インフレ率が高ければ政府債務は発散しない

成長戦略実現ケース①では、支払い実効金利は2039~2040年度に名目成長率にほぼ一致するが、純支払い金利で見ると、2040年度でも名目GDP成長率を下回る。

他方、現状投影ケース(名目成長率2%程度)では、2033年にr>gとなり、純実効金利も2039年に名目成長率を上回る。

どちらの想定が現実的かは経済環境にもよるが、最近の名目成長率はずっと3%台である。したがって「純実効金利rが名目成長率gをいつ上回るか」という問いに対する答は、

  • 名目成長率が3%以上なら2040年度もr<g
  • 名目成長率が2%程度なら2039年度にr>g

となる。これはマスコミの語るホラーストーリーとは違うが、大事なのは、名目成長率3%という条件である。これは実質成長率1%+インフレ率2%でもいいが、ゼロ成長でもインフレ率3%なら実現できる。

つまりインフレ率を3%に維持すればドーマー条件は満たされ、政府債務が発散する心配はないのだ。これがインフレ税である。高市首相の経済政策は(彼女が意識しているかどうかは別として)その方向を取っている。

これは日本の財政が健全だという意味ではない。デフォルトという意味で破綻する心配はないが、3%近いインフレを続けないと維持できないほど、財政は病んでいるのだ。このコストは国民が実質賃金や実質資産の目減りとして負担する。その負担をどう分配するかが本質的な問題である。

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