高市政権の財政金融政策を全否定した米財務長官を無視すれば全面衝突へ

中村 仁

ベッセント米財務長官が日本側に突き付けた「断固たる金融政策の実施」、「リフレ政策の停止」、「短期金利の引き上げへの期待」、「日銀の独立性の維持・回復」、「円安阻止」などを並べてみると、高市首相が進めている経済政策の方向性・政治姿勢の全面的な否定と言っていい。

その表現は「講じることを強く支持する」、「期待する」などの外交用語をちりばめているだけで、米財務省の声明文、ベッセント長官の記者会見などを総合すると、高市政権の政策に対する全否定と判断します。高市政権が無視を続ければ、日米の全面衝突になる。それほどの危機的状況です。

円相場の動向、株価への影響などを心配するよりも、日米が容易ならざる事態を迎えているということを認識すべきです。高市政権が市場の動向、評価を無視し続けてきたため、米政権・財務省は高市政権に直球を投じてきたのだと思います。高市首相はいわゆる「サナエノミックス」の大幅修正を求められていると考えるしかない。

報道によると、ベッセント長官は5月に片山財務相と会談した時、2時間以上にわたって高市首相の経済政策への不満をぶつけたそうです。その後、高市首相は全く修正に応じないどころか、米国が懸念を深めることばかりを続けてきたので、米側の堪忍袋の緒が切れたのでしょう。

ベッセント長官の批判を黙殺してきた報い

①飲食料品の消費税の実質0%への引き下げ、②これまでも拡張財政だったのに「超緊縮財政」と虚偽の命名をし、「行き過ぎた超緊縮財政を転換する」と言い放つ、③「骨太の財政政策」(拡張財政)の発表、④日銀の利上げには待ったをかけ、中央銀行の独立性を無視、⑤8月末に締め切った27年度の史上最大の概算要求(140兆円)――など、ベッセント長官の懸念に対し黙殺を続けてきました。

片山財務相は8月末のG20会議での日米会談では「利上げなど金融政策への注文は出なかった」と言っています。嘘でしょう。ベッセント長官は「金利引き上げ要求」という直接的な表現は避けただけで、明らかに利上げを日本に迫ったとみるべきです。

こうした展開の裏には、このままだと日本発の「米国も巻き込んだ世界金融危機に発展しかねない」という米側の危惧があった。日本の混乱が財政状況の悪い米国に波及し、長期金利の上昇を招くことを恐れた。

GHQ当時のシャウプ勧告を想起する

戦後の昭和24年、米GHQの占領下にあった日本に対し、歴史に残る「シャウプ使節団日本税制報告書」が発表され、戦後税制の基礎となりました。それを思い起こさざるを得ない。今回は「ベッセント勧告」と言ってもいいような重大な意味があると考えます。甘く見てはいけない。

高市首相はどう対応するか。「日銀は今月、利上げする。高市政権はインフレ抑制を重く考える」といった程度では収まらないでしょう。高市首相の政治姿勢・信条、選挙公約の根幹が、最も頼りにする同盟国である米国から全否定されたからです。

「ベッセント勧告」を受け入れようとすれば、高市首相が無言で進めている「インフレを歓迎し、インフレ税収を財政拡大の財源にする」、「『日銀は政府の子会社』と言ってのけた安倍元首相の路線を踏襲していく」という姿勢を大幅に修正しなければなりません。

今月予想される内閣改造人事で、片山財務相は留任との報道です。ここで交代させれば、ベッセント長官は黙ってはいまい。来年度予算編成は年末です。財政金融政策を大幅修正する時間はまだ残されている。何も変えなければ、トランプ大統領が何か言い出してくることも想像されます。

米国の支持を失えば高市内閣は崩壊する

高市内閣支持率は低下してきたとはいえ、なお高水準なのは、野党のだらしなさ、インフレ・物価高で財政問題を考えるより目先の減税を期待しているからです。高市首相は勘違いしてはならない。さらに、米政権の支持がなければ、内閣は窮地に陥ることを知るべきです。


編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2026年9月4日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。

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