本田由紀氏の「解説」でよみがえる「オープンレター」の黒歴史

本田由紀教授の「遺伝的要因のおそろしさ」投稿と、その後の「解説」文への反発は、単なる失言問題ではない。本田氏が2021年、歴史学者・呉座勇一氏を対象にしたオープンレター「女性差別的な文化を脱するために」の呼びかけ人の一人だったことが、今回の批判を一段深くしている。

「遺伝的要因のおそろしさ」についての本田氏の「解説」

9月1日、本田教授は三笠宮彬子女王の皇族費増額報道を受けた投稿を引用し、「この人たちを目にするたびに、遺伝的要因のおそろしさを感じる。露出の増加が逆効果になるかもしれない」とXに書いた。彬子女王は麻生太郎氏の姪である。

「言動ではなく遺伝・血統で人を評している」「優生学的だ」「生まれによる不平等を批判してきた教育社会学者として矛盾する」との批判が広がった。日本教育学会は倫理委員会で対応を検討し、東京大学も人権尊重の学内規定を示した。

5日夜、本田氏は長文の「解説」を公開した。「遺伝的要因」は血縁者を優遇しようとする麻生氏の行為を指したもので差別ではない」と主張し、曲解に基づく非難は非難した側の責任になりうると警告した。

オープンレターとの類似性

2021年4月、本田氏などの研究者が公開したオープンレター「女性差別的な文化を脱するために」は、呉座勇一氏のSNS発信をきっかけにしている。呉座氏は鍵付きアカウントで、フェミニスト批評の北村紗衣氏らを揶揄していた。

これを北村氏などが批判し、呉座氏は謝罪したが、その直後に出されたオープンレターは、個別の謝罪では足りず、中傷や差別を「仲間うちで楽しむ文化から研究・教育・言論・メディア全体が距離を取るべきだ」と呼びかけた。呼びかけ人は十数名、賛同は1300人を超えた。本田氏はその呼びかけ人の一人である。

レターは「女性差別的な文化」という大きな枠で書かれつつ、呉座氏を名指しして処分を求めるものだった。結果として呉座氏は懲戒処分を受け、准教授昇格の内定が取り消され、NHK大河ドラマの時代考証からも外れた。

呉座氏側は名誉毀損だと主張して通知し、レター差出人側は債務不存在確認訴訟を提起した。2023年に和解が成立した。当時から批判されていたのは、本人がすでに謝罪したあとに、所属機関や業界全体への「解雇せよ」という圧力として機能したことだ。

「リベラル」の遺伝的差別は許されるのか

今回の批判で繰り返し指摘されているのは、本田氏の規範の非対称である。呉座氏の問題投稿はもともと鍵アカウントだった。当時レター側は「SNSの一言は個人の問題では済まない」「文化の問題だ」と主張した。

同じ論理をそのまま自分に当てはめれば、本田氏が「遺伝的要因のおそろしさ」と特定の人々について書いた今回の投稿も遺伝的ルッキズムであり、「個人の感想」では済まない。

ところが批判されても撤回せず、取材を断り、後から長文で真意を「解説」し、異なる読みを「曲解」と呼ぶ。オープンレター当時、レター側が「文面のどの部分を誰が書いたか」を明確にせず、批判を「謂れのない中傷」と位置づけた構図と重なる。

問われる「キャンセルカルチャー」の罪

オープンレターは「差別的な文化から距離を取れ」と学界に求めたが、今回、その呼びかけ人が「遺伝差別から距離を取れ」と求められている。問われているのは、言論を根拠に解雇を求めるキャンセルカルチャーは許されるのかという問題である。

批判側は「呉座氏をキャンセルする中心人物だった本田氏は、みずから大学を辞めるべきだ」という。中国人差別を根拠に懲戒解雇された東大の大澤昇平特任准教授の例を引いて、反省も謝罪もしない本田氏を東大が解雇すべきだという意見もある。

オープンレターは差別を「個人の行き過ぎ」で終わらせるな、と主張したが、本田氏は今「曲解」として収めようとしている。そのダブルスタンダードが、問題を単なる炎上から、学界の規範への問いへと変えている。日本教育学会の倫理委員会が、会長である本田氏の投稿をどう扱うかは、その問いへの一つの答えになる。

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