ライドシェアはもう諦めたが知らなすぎのデマが多すぎるので全部潰す

先に結論

ライドシェアはもう日本では無理だ。前回そう書いた。今でもそう思っている。

だが、潰れた理由がデマだらけなのは、それとは別の話である。

この記事で潰すのはこの4つ。

  • 「安いだけだろ」→ 違う。料金が乗る前に確定し、道順を説明せずに済み、車種を選べ、評価の低い運転手を外せる。安さは4番目ですらない
  • 「タクシーのほうが安全」→ 国交省の統計で、タクシーの人身事故率は走行距離あたりでトラックの6.9倍、全自動車平均の3.7倍
  • 「二種免許がないと危ない」→ その二種免許を要らないと決めたのは政府自身。国交省の審議官が国会で「二種免許のみに限定をしておりません」と答弁している
  • 「事故ったら誰も責任を取らない」→ 各国が条文で責任主体を名指ししている。オーストラリアNSW州にいたっては「安全義務は他人に移転できない」と条文に書いてある

正直な但し書きも先に置いておく。「ライドシェアで交通事故が増えるか減るか」は、査読論文が真っ二つに割れていて誰にも分からない。増えたという論文も、変わらないという論文も、減ったという論文も全部ある。だからわたしは「ライドシェアは安全だ」とは書かない。書くのは「反対の理由が事実と違う」ということだけだ。

安いから使ってるんじゃないんだよ

日本ではもうライドシェアはダメだと昨日書いた。それにしても、日本はライドシェアに対するデマが多すぎる。

これはつまり乗ったことがない人が言っているということだ。話が噛み合わない。

まず、安いから使うんじゃないんだ。

  • 乗る前から料金が確定するから、運転手が道に迷おうが何しようが変わらない
  • 運転手に道順を説明しなくてよい
  • 車種を選べる。荷物が多ければミニバンも選択
  • 評価の高い運転手を選べる。評価の高いドライバーは車も服装もピカピカ
  • 事前の予約もアプリでできる
  • 外国人でも呼べる(英語で電話して対応できるタクシー会社ある?)

乗ってみたら耳の遠いお爺さんだったり、行き先がわからないと言われたり、タバコ臭くて死にそうだったりがないんだよ。

この最後の点はちょっと説明がいる。車内で吸っているという話じゃない。ヘビースモーカーの運転手は、車内で吸っていなくても臭う。あの狭い密室で20分、同じ空気を吸いたくない。ただそれだけの話だ。

で、ここが日本の議論の一番おかしいところなんだが——この不満は、規制では絶対に解決できない。

車内を禁煙にする規制なら作れる。実際もうある。改正健康増進法で、タクシーは「敷地内禁煙」に分類されていて、船舶や鉄道と違って喫煙室を設けることすら法律上できない。飛行機と同じ、いちばん厳しい区分だ。

だが運転手本人が休憩中に吸うことを禁じる規制は作れない。それは労務管理の話であって、旅客運送の安全規制の話じゃないからだ。作れるわけがない。

じゃあどうやって解決するのか。乗る前に運転手を選べるようにするしかない。評価に「タバコ臭い」と書いてあれば避ける。それだけで済む。

ライドシェアはそれができる。そして日本版ライドシェアはそれができない。配車を握っているのがタクシー事業者だからだ。乗客が運転手を指名して外すことはできない。

ここ、あとで効いてくるので覚えておいてほしい。「安全のために事業者が配車を握る」という設計が、そのまま「気に入らない運転手を外せない」という結果を生んでいる。わたしが挙げた4つの理由のうち、日本で実現していない「車種を選べる」「評価で選べる」の2つは、どちらも同じ1つの設計から来ている。
ちなみに「事前確定運賃はライドシェアだけ」も間違い

これは公平のために書いておく。日本のタクシーにも事前確定運賃はある。2019年10月28日から始まっている。

国交省の発表によると、開始時点で約200社・約20,000両、対応アプリはS.RIDE、JapanTaxi、スマたく、MOVだった。仕組みは、配車アプリの電子地図で乗車地点と降車地点の推計走行距離を出して、距離制運賃に運輸局長が定めた係数を掛ける。渋滞や信号待ちの時間は算定から外れているので、渋滞リスクは事業者持ちだ。これはよくできている。

だから「事前確定運賃がすごい」という話ではもうない。問題は残りの3つ——道順を説明しなくていい(アプリ配車ならこれも一部できる)、車種を選べる、評価で運転手を選べる。この最後の2つが、日本では制度上できない。

「タクシーは安全」という必死の抗弁を、国交省のデータで見てみよう

ライドシェア反対派の抗弁でいちばん多いのが「タクシーはプロが運転しているから安全」というやつだ。

国土交通省のデータを見てみよう。

結論:タクシーは「走行距離で補正しても人身事故率がかなり高い」。

2024年、タクシーが第1当事者になった人身事故は8,056件。国交省が走行距離で補正した数字では、走行1億kmあたり146.0件。つまり約68.5万km走るごとに1件、人身事故が発生している計算になる。

※タクシーの146.0件は、国交省の統計と関東運輸局の統計という別々の資料で10年分の系列が小数第1位まで一致することを確認しています。

トラックの6.9倍。乗合バスの4.5倍。貸切バスの8.5倍。そして全自動車平均の3.7倍だ。

全員が二種免許を持ったプロで、運行管理者がいて、毎回点呼を受けて、アルコールチェックまでやって、この数字である。

運転していて、かなり飛ばしたり強引な割り込みをしてくるタクシー、多いよね。気のせいじゃなかったわけだ。

しかも事故の多くは「客を乗せていないとき」に起きている

令和5年で、空車時6,351件に対して実車時2,096件。約3倍だ。国交省の資料も「全国では、空車時が実車時と比べて約3倍多く発生している」と書いている。

これは何を意味するか。客がいない状態で街を流し続けている時間そのものが、事故を生んでいるということだ。流していてるときに客を見つけて急停止してぶつかるみたいなのが多いのではないかと思う。

そして街を流させているのは、需要と供給を事前にマッチングさせる仕組みがないからである。アプリで呼ばれてから動くなら、空車で流す距離は激減する。事故率の話をするなら、本当はここを議論すべきなんだよ。

正直な但し書き。分子(事故件数)は暦年の警察庁データ、分母(走行距離)は年度ベースの「自動車輸送統計調査」で、期間の取り方が揃っていない。またタクシーは都市部を空車で流し続けるという走り方をしているので、その分だけ事故率が高く出やすい面はある。だから「二種免許は無意味だ」とまでは言えない。言えるのは「二種免許があるから安全、という前提は成立していない」までだ。
二種免許の話は、もう政府が決着をつけている

「二種免許を持たない素人が客を乗せるなんて危険だ」

これがいちばんよく聞くやつだ。だがこれ、もう議論する必要がない

なぜなら、日本版ライドシェアは二種免許が要らないから。

第一種運転免許(初心運転者期間にあるものを除く。)又は第二種運転免許を保有し、自家用車活用事業に従事する日前2年間において無事故であり、かつ、運転免許の停止処分を受けていないこと」
──国土交通省 通達(令和6年3月29日、国自安第181号ほか)

一種免許でいい、と書いてある。しかもこれだけじゃない。

過疎地でやっている公共ライドシェア(自家用有償旅客運送)も、道路運送法施行規則第51条の16が「第二種運転免許を受けており……又は……第一種運転免許を受けており」+大臣認定講習、と定めている。

つまり一種免許で有償で客を運べる制度が、日本にはすでに2つある。タクシー会社が自分で日本版ライドシェアを運営していて、そこで一種免許のドライバーを走らせている。

政府自身が国会で「二種免許に限定していない」と答弁している

2026年6月2日、参議院国土交通委員会。国土交通省大臣官房の池光崇 公共交通政策審議官の答弁である。

「営利性の有無や運転水準などの違いから、運転者の要件を二種免許のみに限定をしておりません
「一種運転免許保有者が運転者となる場合においても、輸送の安全を確保する上で必要な措置を講じている」

これで終わりである。二種免許を持ち出して反対するのは、政府がとっくに捨てた論点を拾ってきて振り回しているということだ。

そもそも反対している当事者が、二種免許を理由にしていない

ここが面白いところで、ちゃんと反対している人たちは二種免許の話をしていない。

2023年10月31日の政府答弁書(森屋隆参議院議員の質問主意書に対する答弁、内閣総理大臣 岸田文雄)は、こう書いている。

運行管理や車両整備等について責任を負う主体を置かないままに自家用車のドライバーのみが運送責任を負う形態を前提としており、安全の確保、利用者の保護等の観点から問題があ」る

二種免許のニの字も出てこない。問題にしているのは「責任を負う主体がいないこと」だ。

全国ハイヤー・タクシー連合会が規制改革推進会議に出した資料(2023年11月13日)も同じである。

「TNC型ライドシェアは、現行の日本の運行管理とは程遠い管理体系であり、安全性を毀損してまで導入すべきではないと考えます」
有事(クレームや事故等)の際の法的な最終責任を負うこと

やはり運行管理と最終責任の話だ。業界団体ですら二種免許を柱にしていない。

つまり「二種免許がないと危険だ」と言っているのは、反対の当事者ですらなく、ネットで反対している人だけということになる。

「二種免許があると事故が減る」という証拠は、探したが見つからなかった

国会会議録を「二種免許 事故率」「二種免許 安全 検証」「二種免許 事故 データ 比較」などで検索して、ヒットした発言を全部読んだ。

一種免許保有者と二種免許保有者の事故率を比較した政府の検証データは、出てこなかった。警察庁が受験資格の見直しをやったときの調査研究報告書にも、二種免許の安全効果を検証した記述はない。

政府の説明はこれだけだ。2003年2月27日、衆議院予算委員会第一分科会での属憲夫 警察庁交通局長の答弁。

「有償でお客といいますか、旅客を乗せて運転をするということで、言ってみれば十分な技能を必要とするという観点から二種免許を義務づけているわけであります」

「技能が必要だから必要」。データではなく理屈である。

しかも二種免許の要件自体、すでに緩められている

2022年5月13日から、19歳・免許1年で二種免許が取れるようになった。従来は21歳・3年である。特例教習36時限を受ければいい(道路交通法の一部を改正する法律=令和2年法律第42号、施行令の改正=令和4年政令第16号)。

「プロの証」だったはずの資格が、教習36時限で19歳に開放されている。ちなみに二種免許の保有者は令和6年末で1,521,032人。免許保有者全体81,742,303人の1.86%だ。

そして海外は、そもそも「上位の運転免許」を作っていない
国・地域 運転免許の要件 別に必要なもの
ロンドン(TfL) 通常のフル免許を3年以上保有 TfLの運転者免許(Enhanced DBS、医学適性DVLA Group 2、英語B1、SERU試験、地理試験)
豪州NSW州 無条件免許を過去4年のうち12か月以上 免許に付すPT Code(医学的適格性)、事業者による犯罪歴チェック
米カリフォルニア(TNC) 通常の州免許+21歳以上+運転歴1年以上。商用免許(CDL)は不要 プラットフォームによる研修プログラム
フランス(VTC) permis B を3年以上 carte professionnelle VTC(5年更新)
日本 二種免許(ただし日本版・公共ライドシェアは一種免許で可) ——

見てのとおり、担保しているのは免許の等級ではなく、別建ての運転者審査のほうだ。ロンドンは最上位のEnhanced DBS+児童・成人の就業禁止リスト照会を、6か月ごとにやり直す。NSWは終身または10年の欠格事由を定めていて、これはタクシーとライドシェアで同じ枠組みである。

「海外は審査が緩いから危ない」というのも、だからデマだ。緩いのは審査ではなく、免許の等級を上げるという発想を採っていないだけである。

ただし、フェアに書いておくべきこと

一種免許ドライバーに義務づけられている研修は、二種免許の教習とは桁が違う

しかもこれ、日本版ライドシェアの通達には時間数が書いていない。「運輸規則第36条第2項の規定に基づき行うものと同様の研修」としか書いていなくて、告示第1676号まで遡ってようやく「座学等 合計6時間以上」と分かる。実技は「可能な限り実施することが望ましい」——つまり義務ではない。公共ライドシェアの大臣認定講習は、交通空白地の一般で座学110分だ。

だからわたしは「二種免許を廃止しろ」とは言わない。言いたいのはこうだ。

二種免許を外したのは政府だ。外した以上、二種免許を反対理由に使うな。
「事故があったらどうする」——各国はとっくに条文で答えている


次に多いのが「ライドシェアは単なる紹介業だから、事故が起きても誰も責任を取らない」というやつだ。

どの国もライドシェアは単なる紹介業ではなく、明確に責任を決めている。

オーストラリア・NSW州

Point to Point Transport (Taxis and Hire Vehicles) Act 2016 という法律がある。この法律は、予約サービス提供者(=プラットフォーム)と運転者を、それぞれ独立に安全義務を負う主体として条文に置いている(s.9(1))。

プラットフォーム側の義務がこれ(s.13)。

“eliminate risks to safety, so far as is reasonably practicable, and if it is not reasonably practicable to eliminate risks to safety, minimise those risks”
合理的に実行可能な限り安全上のリスクを除去し、除去が合理的に実行可能でない場合はそのリスクを最小化する

運転者側の義務がこれ(s.15(b))。

“take reasonable care that his or her own acts or omissions do not adversely affect the health and safety of other persons”
自分の行為または不作為が他人の健康と安全に悪影響を与えないよう、合理的な注意を払う

そしてわたしがいちばん効くと思ったのがこれ。s.10(1)。

“A safety duty cannot be transferred to another person.”
安全義務は他人に移転することができない

「うちはアプリを提供しているだけ、責任はドライバーに」という逃げ道を、条文一行で塞いである。罰則も、いちばん重いカテゴリで法人300万豪ドル。保険も規則で第三者物損に最低500万豪ドルを義務づけていて、その義務主体にプラットフォーム自身が明記されている。

ロンドンはもっと強い

ロンドンでは、Private Hire Vehicles (London) Act 1998 の s.2(1) が、「予約を受け付ける」という行為そのものを免許事業にしている

そしてTfLの免許条件がこれだ。

“The operator shall enter into a contractual obligation as principal with the person making the private hire booking to provide the journey”
(事業者は、予約をした者との間で、その旅程を提供する契約上の義務を本人(principal)として負う)

2021年12月6日の高等法院判決(R (United Trade Action Group Ltd) v Transport for London [2021] EWHC 3290 (Admin))も、para 57でこう宣言している。

“a licensed operator who accepts a booking from a passenger is required to enter as principal into a contractual obligation with the passenger to provide the journey which is the subject of the booking.”

「Uberはドライバーを紹介しただけなので運送について責任を負いません」という整理には、なっていない。

正確を期すための注記。ロンドン以外のイングランド・ウェールズについては、2023年に同じ結論の高裁判決(Uber Britannia v Sefton)が出たものの、控訴院で覆り、2025年7月29日に英国最高裁がUberの上訴を棄却した(D.E.L.T.A. Merseyside v Uber Britannia [2025] UKSC 31)。つまりロンドン外では事業者がprincipalとして契約する義務はない。ただし最高裁は「ロンドンの判断の当否については何も述べない」と明示的に判断を保留しているので、ロンドンの整理は生きている。ややこしいが、事実はこうだ。

ちなみにロンドン外を規律する1976年の法律(Local Government (Miscellaneous Provisions) Act 1976)の s.56(1) には、こう書いてある。

“every contract for the hire of a private hire vehicle …… shall be deemed to be made with the operator who accepted the booking for that vehicle whether or not he himself provided the vehicle.”
(貸切契約はすべて、その車両の予約を受け付けた事業者と締結されたものとみなす。事業者自身が車両を提供したか否かを問わない

「みなす」。紹介しただけという抗弁を、立法段階で潰してある。

アメリカもEUも同じ
  • カリフォルニア:CPUCの規則で、乗客を乗せている間(Period 3)は100万ドルの一次保険が義務。マッチ成立後の迎車中も100万ドル
  • フロリダ州法 §627.748:ドライバーを「独立契約者」と法文で定めながら、予約走行中は100万ドルの一次保険を義務づけ。つまり「独立契約者だから責任を取らない」ではなく「独立契約者だが金は必ず出る」という設計
  • EU司法裁判所 大法廷 Case C-434/15(2017年12月20日):Uberのサービスは「a service in the field of transport(運送分野のサービス)」に分類される。つまり「うちは情報サービスです」というUber自身の主張を、EUの最高裁が正面から否定した

ここまで並べて言えるのは、「事故のとき誰が責任を取るのか」はすでに世界中で解かれた問題だということだ。解けていないのではなく、日本が解こうとしていないだけである。または知らないことをいいことにそれを理由にして反対している。

これがダメなら個人タクシーもダメじゃん

で、ここからが本題かもしれない。

反対派の言う「組織的な運行管理がないと危ない」という論法。これ、個人タクシーに真っ先に当たる。

調べたら、思っていたより酷かった。

法人タクシー 日本版ライドシェア 個人タクシー
運転者の免許 二種免許 一種免許でも可 二種免許
運行管理者の選任 5両以上で義務 タクシー事業者が実施(通達で義務) 義務なし
整備管理者の選任 5台以上で義務 タクシー事業者が実施(通達で義務) 義務なし
点呼 運輸規則24条 運輸規則24条に準じて実施 事業者による点呼なし
参入時の経歴 —— 従事前2年間 無事故・停止処分なし 10年以上の運転経歴等

運行管理者の選任義務は「5両以上」から。国交省の資料には、はっきりこう書いてある——「一般乗用旅客自動車運送事業(1人1車制個人タクシーを除く。)」。

整備管理者も同じで「5台以上」から。1両しかない個人タクシーには、どちらも選任義務がない。

一方、日本版ライドシェアは通達で、法人タクシー事業者に運行管理者の選任、運輸規則24条に準じた点呼、アルコールチェック、乗務時間管理、運行前点検・3か月点検・12か月点検まで義務づけている。

つまり「組織的な運行管理」という軸で見たら、日本版ライドシェアのほうが個人タクシー25,009台より厳しい。

「いや、個人タクシーは二種免許と10年の経歴があるから別だ」と言うなら、それはもう運行管理の話じゃない。運転者資格の話にすり替わっている。

軸が入れ替わるんだよ。運行管理で殴られたら資格の話をして、資格で殴られたら運行管理の話をする。これは議論ではなく、単に結論が先にあるだけである。

「日本のタクシーは犯罪ゼロ」の数字を原典で見てみた

「アメリカのUberは性犯罪だらけ、日本のタクシーはゼロ件」

この話の出どころははっきりしている。全国ハイヤー・タクシー連合会が2023年11月13日に規制改革推進会議に出した資料だ。

「強制性交等の発生率に揃えて比較したところ、米国Uberは日本のタクシーより犯罪率が約10倍多くなっており

計算方法も資料に書いてある。乗車10万回あたりで、米国0.01764件(乗車14億回・247件)÷ 日本0件(乗車8.8億回・0件)。実はこれは虚偽です。

まず、この資料は自分で穴を開けている。出典の脚注が「警察庁犯罪統計書 令和2年の犯罪 および 同資料、令和元年、平成30年、平成29年、平成28年」までしかカバーしていないのに、表には2021年・2022年の数字が載っている。あと「総数」が何の総数なのか、資料のどこにも定義がない。

で、その元データである警察庁『犯罪統計書』を落として見てみた。表14「罪種別発生場所別認知件数」には、たしかに「タクシー内」という発生場所の区分が実在する。

令和6年、タクシー内の不同意性交等は5件、不同意わいせつは52件。ゼロではない。

罪種 バス内 タクシー内 その他の自動車内 全国総数
刑法犯総数 532 794 1,419 737,679
不同意性交等 2 5 160 3,936
不同意わいせつ 77 52 194 6,992
性的姿態撮影等処罰法 35 3 19 8,436
詐欺 16 286 105 57,324
これも正直に書く。2023年7月13日施行の刑法改正で、罪名が「強制性交等・強制わいせつ」から「不同意性交等・不同意わいせつ」に変わり、構成要件が広がっている。性的姿態撮影等処罰法も同じ2023年の新設だ。だから2022年以前と2024年を並べて「増えた」とは書けない。書けるのは「最新のデータではゼロではない」までである。
そもそもこの比較は成立していない

もっと根本的な問題がある。分子の性質がまったく違う。

  • Uberの数字=プラットフォームへの自己申告。Uber自身がレポートに「実際に起きたかどうかについて一切の立場を取らない」と明記している
  • 日本の数字=警察に届け出て認知された件数。届け出がなければゼロのまま

前者は事件化しない申告まで拾い、後者は届け出がなければ存在しないことになる。この2つを割り算しても、何の意味もない。

しかも「認知件数ゼロ=発生ゼロ」でないことは、2025年5月21日の報道が示している。乗客に睡眠薬を飲ませて性的暴行をした疑いで元タクシー運転手が再逮捕され、被害者は50人にのぼる可能性があるとして、時事通信と読売新聞が同日報じた。1件の事件で50人だ。

念のため書くが、これは「タクシーは危険だ」という話ではない。年間十数億回の輸送があるのだから、逮捕報道数件から発生率は計算できない。言えるのは「認知件数を分子にした比較は使えない」ということだけである。

比較の材料は、アメリカ側にもない

公平のためにUberの数字も原典で確認した。Uber US Safety Report 2021-2022(最新版)によると:

  • 性的暴行の報告 2,717件(米国18億トリップ、約70万トリップに1件)。2017-18の5,981件から率で38%減→22%減と改善している
  • ただし報告の68%は運転者に対するもの。「乗客が悪いだけ」という反論はUber自身のデータで否定される
  • 一方で交通死亡は153人、1億マイルあたり0.87で前期比+40%(全米平均は1.35で+11%)。致死的暴行は36人で率+96%。改善しているのは性的暴行だけだ

そしてLyftは逆方向に動いている。2022年の性的暴行報告は1,038件で前年比+45%

決定打はこれだ。カリフォルニア州CPUCへの2020年の提出データで、Lyftが18,178件、Uberが1,573件。約12倍の差がついている。乗車回数はUberのほうが多いのに、である。CPUCが統一基準を定めておらず、Lyft自身が定義を「できる限り広く」解釈したと説明している。

同じ国の同業2社ですら比較が成立していない。それを日本と比べて「10倍」と言われても、という話である。

残りのデマをまとめて片付ける
「誰も運行管理していない」→ 制度上そうなっていない

日本版ライドシェアは、通達で法人タクシー事業者に運行管理者の選任、運輸規則24条に準じた点呼(アルコールチェック・体調確認込み)、乗務時間管理、運行前点検・3か月点検・12か月点検を義務づけている。「誰も見ていない」は事実ではない。

「保険が出ない」→ 出る

通達に「対人8,000万円以上及び対物200万円以上の任意保険若しくは共済」と明記。海外はNSWが物損500万豪ドル、カリフォルニアとフロリダが乗客乗車中100万ドル。

「白タクが増える」→ そもそも公表統計がない

「白タクの摘発が過去最多113件」という数字が出回っているが、これは共同通信が2025年12月18日に配信した記事で、「警察庁への取材でわかった」としているものだ。警察庁が定期公表している統計表は見つからなかった。使うなら「警察庁のまとめ(共同通信の取材への回答)」と書くべきで、「警察庁統計によると」は不正確である。

ついでに書いておくと、2026年に厳罰化されるのは「白トラ」=貨物のほうだ(貨物自動車運送事業法改正、令和8年4月1日施行)。旅客のほうは令和8年1月28日に国交省が対策会議を開いたという発表があるだけで、処分基準の最新改正は令和7年2月のままである。

「タクシーは高齢化していて危ない」→ 実はこの論法は使えない(汗)

これは反対派を叩く側がよく使うが、データとして成立しない。

令和5年のタクシー事故の運転者年齢構成は、65歳以上が51.4%。だが年齢層別の運転者数(分母)が公表されていないので、事故率が計算できない。運転者の51.4%が65歳以上なら、事故の51.4%が65歳以上でも事故率は同じである。

しかも平均年齢は下がっている。全タク連の令和7年度調査で56.8歳、前年比マイナス3.4歳。健康起因事故も、運転者10万人あたりで見ればタクシーは3業態でいちばん少ない。

使えない数字は、こっちに有利でも使わない。それがフェアというものだ。

正直に言うと、分からないことも多い

ここまで書いておいて何だが、「ライドシェアは安全だ」とは言えない。

交通死亡事故への影響を調べた研究は、査読誌レベルで真っ二つに割れている。

  • 増えた:Barrios, Hochberg & Yi「The Cost of Convenience」——約3%増、年間987人
  • 変わらない:Brazil & Kirk(American Journal of Epidemiology, 2016)——“no association”
  • 条件付きで増えた:Brazil & Kirk(PLOS ONE, 2020)——全体では効果なしだが、人口密度の高い郡では有意に増加(IRR 1.09)
  • 減った:Dills & Mulholland(Southern Economic Journal, 2018)——死亡事故率もDUI逮捕率も低下

そして方法論がいちばんきれいな自然実験(ブリティッシュコロンビア州の禁止を利用した研究)では、交通死亡事故の推定値の95%信頼区間がマイナス31%からプラス199%まで広がった。しかし著者自身が「too imprecise to be informative(不精確すぎて情報にならない)」と書いている。

系統的レビュー(AJE, 2022)の総括はこうだ。「飲酒がらみの事故は減らす可能性が高い。ただしその減少は他の事故の増加で完全に相殺されうる」。

3番目の研究は日本にとって重要だ。人口密度が高い都市部でだけ有意に増えるという結果は、東京や大阪にそのまま当てはまる条件である。

もうひとつ、日本の議論で決定的に欠けているものがある。日本には、タクシー車内で起きたことを業態間で比較できるデータがない。警察庁の『犯罪情勢』にも大阪府警の性犯罪発生場所分類にも「タクシー内」の区分はなく、東京・大阪のタクシーセンターも苦情件数を公表していない。走行距離あたりの事故率を法人と個人で分けた統計も存在しない。

ニューヨーク市はやっている。TLCが業態別・月別に、イエローキャブもUber/Lyftも同じ定義で事故件数を集計して公開している(Local Law 31)。

本当に必要なのは、ライドシェアを入れるかどうかの前に、タクシーとライドシェア双方について同じ定義でデータを取ることだ。それをやらないまま「うちは安全」と言い張っているのが、今の日本である。

まとめ

ライドシェアはもう日本では諦めた。それはいい。

だが諦めさせた理由が全部おかしいのは、記録に残しておく必要がある。

  • 「安いだけ」→ 違う。使ったことがない人の想像
  • 「タクシーは安全」→ 走行1億kmあたり146.0件。トラックの6.9倍、全自動車平均の3.7倍
  • 「二種免許がないと危険」→ 二種免許を外したのは政府。国会で「二種免許のみに限定をしておりません」と答弁済み
  • 「誰も運行管理しない」→ 通達で運行管理者・点呼・アルコールチェック・3か月点検まで義務
  • 「保険が出ない」→ 対人8,000万円以上・対物200万円以上が義務
  • 「事故ったら責任を取る者がいない」→ NSWは「安全義務は移転できない」と条文に、ロンドンは免許条件で事業者が本人として旅程に責任を負う、EUは「Uberは運送サービス」と判決
  • 「海外は審査が緩い」→ ロンドンは6か月ごとにEnhanced DBSを掛け直している
  • 「日本のタクシーは犯罪ゼロ」→ 令和6年の警察庁統計で不同意性交等5件、不同意わいせつ52件

そして「組織的な運行管理がないと危ない」という論法を本気で通すなら、それは個人タクシーに真っ先に当たる。運行管理者も整備管理者も、法令上そもそも選任義務がないのだから。

これって、選択的夫婦別姓に反対する人たちが「家族が崩壊する」「日本の伝統が壊れる」と言うのと同じ構図だと思うんだよ。結論が先にあって、理由は後から適当に拾ってくる。拾ってきた理由が事実かどうかは、誰も確かめない。

確かめると、こうなる。

反対するのは自由だ。だが反対の理由は、データで言え。

デマで潰した制度は、デマのまま10年動かない。

今日のどうでもいい話

何度も書いたが日本の経済はこれからは伸びない。経済学者へのアンケートも半分が伸びないと言っています。

積極財政で経済が成長するなんて言うのはたった3%。規制緩和でしか成長しないというのが当たり前だ。その日本で唯一大成長をしているのがインバウンドで、もはや自動車産業に次ぐ輸出産業です(インバウンドは外需にカウントされる)。
しかし京都や大阪や東京、ニセコ、白馬など特定の地域には集中しすぎてガラガラの田舎は誰も来ない。これではキャパオーバーです。田舎に行ってもタクシーはないし、観光もできない。それを救うのがライドシェアなわけ。田舎に住んでも観光地ならライドシェアで食えるわけです。


編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年9月10日の記事より転載させていただきました。

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