こども家庭庁7.5兆円:少子化対策は原因と逆向きではないか

最近、X(旧Twitter)を眺めていると、こども家庭庁の予算をめぐってかなり荒れていた。

出生数は減り続けている。それなのに、こども政策に使われる予算は増えている。

さらに、こども家庭庁が2027年度予算の概算要求で過去最大規模となる約7.8兆円を求める方向だという報道が出ると、

「これだけ使って何の成果が出たのか」
「出生数は減っているのに、なぜ予算だけ増えるのか」
「こども家庭庁なんていらないのではないか」

といった批判が相次いだ。

中には、何兆円も使って出生数が減り続けるくらいなら、その金を結婚や出産を考える年齢の若者に直接配った方が、まだ少子化対策になるのではないか、という意見まであった。

僕も最初は「一体、何にそんな金を使っているんだ」と思って、こども家庭庁の予算を調べてみた。

すると、少し予想と違っていた。

7兆円が丸ごとよく分からない事業に消えているわけではない。

2026年度予算約7.5兆円を見ると、保育所・放課後児童クラブなどが約2.58兆円、児童手当が約2.10兆円、育児休業などの給付が約1.09兆円。ほかにも障害児、虐待、ひとり親への支援、大学授業料の減免などがある。

保育所はいらない、児童手当をやめろ、虐待対策を削れ、という話にはならない。一つずつ見れば、必要性を説明できるものが多い。

それなのに、なぜこれだけの予算を投入しながら出生数は減り続けるのだろう。

内訳を眺めているうちに、僕は金額とは別のところが気になってきた。

もしかして、水を流す方向が逆なのではないか。

渇水した川で魚を増やす

僕は渓流釣りが趣味だ。

そこで暮らすイワナやヤマメなどの渓流魚も、各地で個体群の減少や生息環境の悪化が問題になっている。

人間の少子化と魚の減少は別の現象だ。ただ、「減っている生き物を、限られた資源でどう増やすか」と考えてみると、少子化対策への僕の違和感によく似た光景が浮かんだ。

山間地域を流れる一本の渓流を想像してほしい。

上流には産卵に適した場所が残っている。ところが、その年はひどい渇水だった。

水位が下がり、普段なら一本につながっている流れがところどころ細くなる。浅すぎて魚が通れない場所までできた。

産卵する場所はある。

そこまで行くための水が足りない。

すでにいる魚も守らなければならない。稚魚や親魚の生息環境を維持し、繁殖場所も保全する。どれも必要な仕事だ。

ただ、流域全体で使える水が限られているとき、現在魚がいる区域へ水を重点的に回し続けたらどうなるか。

その区域の魚は助かる。一方で、産卵期を迎えた魚が上流へ向かう区間の流量まで落ちれば、新しく産卵場所へ到達する魚は減ってしまう。

各区域では魚を守ることに成功している。それでも流域全体では、次の世代を生み出す魚が減っていく。

そんなことが起きていたら、僕なら水の総量だけでなく、その流れ方を疑う。

その水の配り方で、本当に魚は増えるのか。

0から1に届く水はどこにあるのか

こども家庭庁の予算を見ると、児童手当は基本的に子どもが生まれてから始まる。保育もそうだ。育休給付も妊娠・出産という大きな関門を越える前後で使われる。

主要な支援のかなりの部分は、妊娠・出産まで到達した人に向けられている。

もちろん、出生後の支援が最初の一人を持つ判断に無関係なわけではない。

産んだ後も働ける。保育園に預けられる。育休を取れる。そう分かっていれば、「子どもを持っても生活を維持できる」という見通しになる。

実際、日本を対象に保育サービスの供給と出生への影響を分析した研究でも、保育の利用可能性が高まった地域では出生が増えたケースが報告されている。ただし、効果は地域の女性就業率や保育需要などによって異なり、どこでも同じように効くわけではない。

ここが重要だと思う。

「どの政策が効くか」は、投入額だけでは決まらない。川と同じで、どこが細っているかによって水を流すべき場所も変わる。

ちょうどこの記事を書いている2026年9月、国立社会保障・人口問題研究所から最新の出生動向基本調査が公表された。

18〜34歳の未婚者で「いずれ結婚するつもり」と答えた割合は、男性75.1%、女性77.8%。前回調査の81.4%、84.3%からさらに低下し、初めて男女とも8割を割った。

第1子以前どころか、そのさらに手前にある「結婚する」という入口自体が細くなっている。

ただ、この数字にも注意は必要だ。

今回の独身者調査は15,811票を配布し、有効票は6,756票。有効回収率は42.7%だった。

回答しなかった6割弱がどんな人たちなのかは分からない。生活に余裕のない人ほど回答しなかった、などと勝手に決めることもできない。

だから数字は数字として、慎重に見る必要がある。

それでも、入口側で何かが起きている可能性まで無視して、「産んだ後をどれだけ支援するか」だけ見ていれば十分だとは思えない。

今年初めて親になる人が減れば、その年の第1子だけでなく、その人たちが数年後に持つかもしれなかった第2子、第3子の母数まで小さくなる。

出生間隔には物理的な制約もある。すでに親になった人への支援だけで、短期間に出生数全体を大きく戻すには限界がある。

だったら同時に、

「今年、初めて親になる人は何人いるのか」

も見なければならない。

問題は金額より、どこへ流すか

まだ子どもを持っていない若者も税金を払い、社会保険料を負担している。その後、子どもを持てば児童手当、育休給付、保育、教育支援などが始まる。

社会保障として考えれば、ごく普通の仕組みだ。

ところが少子化対策として見ると、少し景色が変わる。

もし0から1へ進まない理由の一部が、手取りの少なさ、住宅費、雇用の不安定さ、時間の不足、将来への不安などにあるとしたらどうだろう。

その状態にいる人からも資源を集め、「子どもを持った後には手厚く支援します」という仕組みをさらに強化する。

支援によるプラスと、その財源を負担することによるマイナスを合わせたとき、出生数にはどちら向きの力が働くのか。

僕が知りたいのはそこだ。

例えば1000億円を追加で使えるとする。

保育、児童手当、若い世代の社会保険負担の軽減、住宅負担の軽減。それぞれに使った場合、0から1、1から2、2から3がどの程度変わるのか。さらに、その1000億円を誰が負担するかによる影響まで含めたらどうなるのか。

僕が求めているのは予算削減ではない。

追加の1000億円をどこへ流せば出生数に最も大きく作用するのか、同じ物差しで比較してほしいだけだ。

保育が最も効くなら保育へ流せばいい。若い世代の負担軽減が効くなら、そちらへ流せばいい。若者へ現金を配れば解決する、と最初から決める必要もない。

水の正体だって、まだ分からない。

所得なのか、住宅なのか。雇用、時間、人と出会う機会、将来への見通しなのかもしれない。おそらく一つではない。

だからこそ測って、比べる必要がある。

「予算が増えたのに出生数が減った」だけでは分からない

ここまで考えると、最初にXで見たグラフにも違う見方ができる。

少子化対策をしなければ、出生数はもっと減っていたかもしれない。

予算が増えた。出生数は減った。この二本の線だけでは政策が失敗したとは言えない。

そもそも7.5兆円には、出生数だけで成果を測るべきではない仕事も大量に含まれている。障害児支援や虐待対策は、出生数が一人も増えなくても必要だ。

だから「出生数が減った。7.5兆円は全部無駄だった」という結論も違う。

でも、だからこそ気になる。

個々の政策が正しいことと、それらを組み合わせた全体の資源配分が、出生数を回復させる方向を向いていることは同じではない。

渓流で、稚魚や親魚を守り、産卵場所まで保全したとしても、そこへ向かう魚が泳げるだけの水がなければ、流域全体の繁殖は細っていく。

担当する場所では正しいことをしている。

では、川全体ではどうなのか。

誰が流域全体を見るのか

必要なのは、個々の事業が予算を適正に使ったかだけを見ることではないと思う。

現在いる親子を支援することで何が変わったのか。最初の子どもを持つまでの環境を変えれば何が起きるのか。その財源を負担する側には何が起きるのか。

そして限られた資源をどこへ追加投入すれば、出生数全体への効果が最も大きくなるのか。

そこまで同じ流域の問題として比べる必要がある。

これは、こども家庭庁だけに向けた問いでもない。

税と社会保険を集める。住宅政策を決める。雇用政策を作る。教育を支える。そして子育てを支援する。

制度も予算も担当部署も別々だ。

でも、そのすべての影響を受けながら結婚し、子どもを持つかどうかを決める人間は、一人の人間だ。

産卵した魚にも水は必要だし、稚魚も守らなければならない。

ただ、魚が減り続けているのなら、まだ一度も産卵していない魚が産卵場所までたどり着けているかも見なければならない。

2026年度、約7.5兆円。

その金額が高いか安いかより、僕が知りたいのは、その水がどこから取られ、どこへ流れ、その結果、流域全体で魚が増えたのかということだ。

個々の担当部署ではなく、政府全体への問いとして。

誰が、流域全体を見ているのだろう。

 

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