経済学者が否定する積極財政より、規制改革は明らかに経済発展を促すのになぜしないのか

先に結論
  • 経済学者282人へのアンケートで「大規模な財政出動があれば成長は回復」と答えたのはわずか3.2%。必要な政策の1位に「規制改革」を挙げた人は282人中170人。積極財政は経済学者にほぼ相手にされていません。支持するのは少数のリフレ派と呼ばれる経済学者だけです。
  • 規制改革をaiに試算して貰って経済効果の大きい順に並べると、上位はほぼ全部「働き手」の規制。労働移動の円滑化で約18兆円、外国人労働者の受け入れ拡大で約17兆円、女性のL字カーブ解消で約13.5兆円(いずれも2040年度のGDP押し上げ、大和総研の試算からわたしが按分)。
  • わたしが期待していた建築規制(容積率)の見直しは、長期的には筋がいい。でも東京・大阪・名古屋で積み上げても短期の効果はGDPの約0.14%(中央ケース)。施工する人がいないから、多くは工事費の値上がりに消えます。建築を効かせるにも、結局は外国人など働き手の規制改革が先。
  • 高市内閣に規制改革の担当大臣は実はいる(城内実氏、経済財政政策との兼務)。それなのに所信表明演説で「規制改革」は0回、規制改革実施計画は110項目→57項目に半減、連立合意書にも規制改革はゼロ。
  • なぜやらないのか。わたしの推測は、お金を配るのは調整がいらないが、規制改革は業界と正面からケンカしないとできないから。しかも規制改革担当の大臣自身が、大臣になる前の国会でライドシェアを「白タク行為」と呼んだ人です。
  • 正直な但し書き:アンケートは2022年11月の調査。ランキングは別々の研究の数字を並べたもので、前提も基準年もばらばら。順位は目安です。
経済学者は積極財政をほぼ相手にしておらず「規制改革」

まずこのデータから。

東京財団政策研究所(日本財団の支援の下で設立されたシンクタンク。2025年4月に「東京財団」に改称)が、日本の経済学者を対象にアンケートをやっています。まとめたのは佐藤主光さんで、公表は2023年1月25日。

対象は、世界の経済学者データベース(IDEAS/RePEc)で日本の上位に入る研究者727人。回答したのは282人(回答率38.8%)。調査期間は2022年11月4日〜24日です。ちょっと前の調査ですが、ちゃんとした研究者にまとめて聞いた調査はあまりないので、いまでも十分使えます。

図1の読み方:いちばん長い棒は「成長は困難」で半分。次が「構造改革で成長は回復」の36.9%。オレンジの「大規模な財政出動があれば成長は回復」は3.2%、282人中9人しかいません。

2030年度までの日本の成長について、半分は「成長は困難」。残りのうち、多数派は「構造改革で成長は回復」の36.9%。「大規模な財政出動があれば成長は回復」はたったの3.2%です。

ほかの設問も見ておきましょう。

  • これまでのデフレ対策の財政政策の効果:「あまり効果は発揮していない」が61.7%。「非常に大きな効果」「ある程度効果」は合わせて21.3%だけ。アベノミクスの評価は高くない。
  • 物価が上がっている中での政策:「需要を喚起するよう政府支出を拡大すべき」は4.3%。いちばん多かったのは「企業の生産性の向上に努めるべき」の48.2%。
  • 必要な政策の優先順位:「規制改革」を1位にした人が282人中170人。報告は「『金融緩和の継続』や『大規模な財政出動』の優先度は極めて低かった」と書いています。

つまり経済学者の答えはかなりはっきりしていて、「金をばら撒いても伸びない。伸ばしたいなら規制改革」

ところが高市内閣がやっているのは真逆で、「責任ある積極財政」です。じゃあ規制改革って、具体的に何をやればどれくらい効くのか。そこを調べて試算しました。

財政出動と規制改革を並べて比べてみる

先に全体像を表にしておきます。

比べる点 財政出動(積極財政) 規制改革
経済学者の支持 「大規模な財政出動で成長回復」3.2%
「政府支出を拡大すべき」4.3%
「規制改革」を1位にした人が282人中170人
国のお金 令和7年度補正予算:一般会計の追加歳出17兆7,028億円(減税などを含む国費等21.3兆円) 法律やルールを変えるだけなので、予算はほとんど要らない(職業訓練など、あわせて打つ手当ては別)
効果の大きさ 公共投資を名目GDPの1%分増やし続けると、実質GDPは1年目+1.05%、3年目+0.95%(内閣府の短期マクロモデル) 働き手の規制を中心とする5項目で、2040年度の潜在GDPが単純合計+10.8%(大和総研。重複があるので目安)
年収の壁の解消だけで5.0兆円、GDP比0.8%(野村総研)
効果の続き方 モデルでは支出を「続ける」前提の数字。やめればその分は消える 一度変えたルールは、戻さない限り効き続ける
効き目のトレンド 公共投資の乗数(1年目)は1967年の2.17倍から2018年の1.13倍に低下(財務総研 三平剛論文)
人手不足との相性 需要を足すだけ。一般会計では令和6年度に翌年度繰越が約10.2兆円、不用が約4.3兆円(決算の概要) 働き手と生産性、つまり供給力そのものを増やす
将来の負担 令和8年度予算の利払費13.0兆円(積算金利3.0%)
普通国債残高は令和8年度末に1,145兆円の見込み
ほぼなし
効き始めるまで 1年目から 早いもので1〜3年、大きいものは10年単位
政治的な難しさ 配れば喜ばれる。反対する業界がいない 既得権と正面衝突。政府の会議自身が「利害対立の構造を内包」と書いている

財政出動も効かないわけじゃない。公共投資を名目GDPの1%分(いまの規模だとざっくり年7兆円)積めば、実質GDPはだいたい1%上がる。ただし、毎年7兆円を払い続けている間だけです。そしてインフレになる。

規制改革はお金がほとんどかからないうえに、効果が桁違い。ばら撒きは「毎年お金を払って一時的に1%」、規制改革は「ほぼタダで恒久的に数%〜十数%」。どっちが得かは、小学生でもわかるでしょ。

用語解説:乗数ってなに?

政府が1兆円使ったとき、GDPが何兆円増えるかの倍率です。1.13倍なら、1兆円使って1.13兆円増える。昔は2倍以上ありましたが、いまは1倍ちょっと。お金を使っても、ほぼ使った分しかGDPが増えない、ということです。

注:内閣府「短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版)の構造と乗数分析」(ESRI Research Note No.72、2022年12月)表2-2。繰越・不用は一般会計全体の数字で、補正予算分だけの内訳ではありません。「年7兆円」は2026年4〜6月期の名目GDP(年率689.2兆円)の1%をわたしが計算したもの。

規制改革の経済効果ランキング

では、どの規制を変えるとどれだけ効くのか。公的機関や研究機関の試算を集めて、大きい順に並べました。

図2の読み方:青い棒が働き手に関する規制で、上位5つを独占しています。グレーはそれ以外。一番下の原発は約0.9兆円で、上位とは桁が違います。
順位 改革の中身 効果(年間) 効き始めるまで
1 労働移動の円滑化(解雇の金銭解決ルールなど) 約18兆円(2040年度の潜在GDP+3.1%) 10〜15年
2 外国人労働者の受け入れ拡大(年平均22万人程度の増加) 約17兆円(+2.9%) 5〜15年
3 女性の就労の壁の撤廃(L字カーブの解消) 約13.5兆円(+2.3%)
年収の壁の解消だけで5.0兆円
壁は1〜3年、L字は10年超
4 不本意非正規の正規化 約8.8兆円(+1.5%) 5〜15年
5 高齢者の就労時間の拡大 約5.9兆円(+1.0%) 5〜15年
6 アナログ規制の撤廃(目視・常駐・書面の技術代替) 約3.6兆円(名目GDP比+0.64%) 2〜5年
7 国・自治体の書式と手続きの簡素化(行政手続コストの削減) 半分に減らせば約3.1兆円(2割減で1.3兆円) 1〜5年
8 都心の容積率緩和 長期で0.5〜2兆円程度(わたしの外挿) 10〜20年
9 原発の再稼働の加速 1基あたり化石燃料輸入が約690億円減。13基なら約0.9兆円 1〜5年

出典:1〜5位は大和総研 熊谷亮丸「何故、わが国では潜在成長率が低迷しているのか?」(2026年5月13日)図表2。合計「+14.6%(+86兆円)」(健康寿命の延伸+3.7%を含む)を、わたしが1%あたり約5.89兆円で按分しました。年収の壁は野村総合研究所 梅屋真一郎「2025年制度改正で『年収の壁』はどの程度動いたか」(2025年6月30日)。6位は三菱総合研究所「アナログ規制の見直しによる経済効果(中間報告)」(デジタル庁委託、第6回デジタル臨時行政調査会資料、2022年12月)で、「全規制が1年間で技術代替される」という楽観的な前提です。7位は大和総研 溝端幹雄「行政手続コスト削減でGDPはどれだけ増える?」(2018年5月29日)の損失6.2兆円を、わたしが半分にした場合で計算しました(6位とは「書面」の部分が一部重なります)。9位は日本エネルギー経済研究所「2026年度の日本の経済・エネルギー需給見通し」(2025年12月19日)表3から、わたしが換算しました。

上位はぜんぶ「働き手」の規制

見てのとおり、上位5つは全部、人の働き方と配置を縛っている規制です。

1位の労働移動は、大和総研の前提が「産業内における高生産性企業への従業員分布が米国と同程度」。要するに、儲かっていない会社から儲かる会社へ人が移れるようにすると、それだけで18兆円。日本では解雇に値段のルールがないので、会社は人を抱え込み、人は動けない。

2位の外国人は、大和総研の前提が年22万人程度の増加。実は足元の実績はこれを超えていて、2025年10月末の外国人労働者は257万1,037人、前年から26万8,450人増えています(厚労省)。つまり2位の効果は「今のペースを止めないこと」で取れる。逆に、規制強化に振れたらこの分がまるごと消えます。

3位の女性の壁。野村総研の推計では、就業調整している有配偶のパート女性が466万人。年収150万円まで働くと経済効果は5.0兆円、GDPの0.8%です。

ただ、ここは正直に書いておくと、財務総研の論文(児玉直美・桃田翔平、2025年12月)では、配偶者控除を廃止しただけだと既婚女性の労働量は1.02倍にしかならない。「年収をこれくらいに抑えたい」という本人の目標そのものがなくなれば1.54倍。税金をいじるだけではダメで、会社の配偶者手当や社会保険、職場の慣行までまとめて変えないと5兆円は出ません。

社会保険の106万円の賃金要件は2026年10月に撤廃予定(厚労省)。でも企業規模の要件がなくなるのは、従業員10人以下の会社で2035年10月。遅すぎます。ここは前倒しすべき。

役所の書類と手続きは、国より自治体が重い

アナログ規制とは別に、そもそも役所の書類と手続きが面倒すぎる問題があります。同じ内容の書類なのに自治体ごとに書式が違う、同じことを何度も書かされる、窓口ごとに添付書類が違う。これ、全部タダじゃないんです。

大和総研の溝端幹雄さんの試算(2018年5月29日)では、行政手続にかかる手間で失われているGDPは年6.2兆円(GDP比1.16%)。内訳は国の手続きが1.6兆円、自治体の手続きが4.6兆円。国より自治体のほうが3倍近く重いんです。2割減らすだけで年1.3兆円(国0.4兆円、自治体0.9兆円)。前提は、手続きに取られている時間が、ふつうに付加価値を生む仕事に回ることです。

具体例が就労証明書。従業員の子どもを保育園に入れるときに、会社が発行して申請書に添付する書類ですが、経済産業研究所の石崎隆さんの論文(2019年12月)によると、自治体ごとに書式が違うので、会社の担当者は「従業員の居住する各自治体に個別に問い合わせて確認しながら手書きで作成」していた。標準様式の普及率は人口ベースで約40%、東京23区ではたった約9%(いずれも2019年時点)。

政府も2020年3月までに事業者の手続き時間を20%以上減らす目標を立てました。でも2019年3月末の実績は、補助金11.9%、調査統計4.0%、営業の許認可2.8%、労務管理2.2%。最終的に目標を達成できたのかは、公表資料で確認できませんでした。

半分に減らせれば、単純計算で約3.1兆円。アナログ規制とほぼ同じ大きさで、しかも法律を大きく変えなくても、書式を全国で1つにするだけで進む。同じ証明書の書式が自治体ごとにバラバラである理由なんて、ほとんどないでしょ。

注:6.2兆円・1.16%は2018年のレポートの値で、当時のGDPが基準です。「半分で約3.1兆円」はわたしの単純計算。

アナログ規制と原発は「一桁小さい」

6位のアナログ規制は約3.6兆円。ただ、見直しが必要な規制8,162件のうち約98%(8,038件)は、すでに工程表に沿った見直しが終わっています(デジタル庁、2026年3月の資料)。紙の上ではほぼ終わっていて、あとは現場がドローンやセンサーに置き換えるかどうか。規制改革としての伸びしろは小さくなっています。

9位の原発は、GDPというより燃料輸入を減らして国のお金の流出を止めるタイプ。再稼働15基、設置変更許可3基、審査中10基(資源エネルギー庁、2026年2月時点)。泊3号機は申請が2013年7月、許可が2025年7月で、許可まで約12年かかっています。

わたしの本命「建築規制の見直し」を検証してみた

で、ここからが本題。わたしは、容積率などの建築規制を見直せば、都市部でビルやマンションの建替え需要がドカンと出て、短期的に経済が大きく伸びると思っていました。これを真面目に検証しました。

結論から言うと、長期的には正しい。でも短期で大きく伸びるのは、いまの日本では無理。理由は「工事をする人がいない」から。

仮説を支える事実はたくさんある
  • 都心は容積をほぼ使い切っている。容積充足率は千代田区114.8%、中央区98.3%、港区98.4%(東京都『東京の土地利用』、2017年1月時点)。
  • 唯一の国内試算では、千代田区の容積率規制を2倍にすると、経済的な余剰が年6,492億円増える(唐渡広志・富山大、国交省掲載資料)。
  • 旧耐震(1981年以前竣工)の賃貸オフィスは、東京区部1,270万㎡・2,576棟、大阪市482万㎡・690棟、名古屋市145万㎡・219棟(日本不動産研究所、2026年1月時点)。
  • 築40年以上の分譲マンションは全国で158.8万戸。10年後に313.1万戸、20年後に503.6万戸(国交省)。
  • なのに、マンション建替えの実績は全国累計で323件・約2万6,000戸だけ(2025年3月末)。

古い建物は山ほどあるのに、建て替わっていない。ここまではわたしの仮説どおりです。

積み上げで試算:どれだけお金が動くか

ChatGPTにも同じ質問をしてみたら、「古いビルとマンションのストックに、規制緩和で前倒しされる割合と増床率を掛ける」という積み上げ方式の試算を出してきました。やり方はいいので、Claudeで数字を原典で全部チェックして作り直しました(確認できなかった数字は差し替えています)。

前提はこうです。規制改革で2030年までに、旧耐震オフィスの5〜20%、築40年超マンションの3〜15%が前倒しで建て替わる。建替え後の床は20〜60%増える。建築費は2025年度の着工統計ベース(東京の事務所S造270万円/坪、住宅RC造152万円/坪など、野村不動産CRE Navi)。マンション1戸あたりの延床は22坪と仮定。

東京区部・大阪市・名古屋市(2027〜30年) 慎重 中央 強力
増床率 +20% +40% +60%
前倒しで建て替わるマンション 1.7万戸 4.5万戸 8.5万戸
4年間の追加建設投資 1.48兆円 3.95兆円 8.75兆円
1年あたり 0.37兆円 0.99兆円 2.19兆円
名目GDP比 0.05% 0.14% 0.32%

前倒し率とマンション1戸あたり22坪はわたしの仮定で、根拠のある数字ではありません。名目GDPは2026年4〜6月期の年率689.2兆円(内閣府)。

強力にやって年2.2兆円、GDPの0.3%。無視できる数字ではないけど、「短期で経済が大きく伸びる」というほどでもない。しかも、これは工事ができればの話です。

「ちょっと緩める」では建て替わらない

面白かったのが増床率の話。東京で100戸(延床2,200坪)の古いマンションを建て替えるとします。元の住人には元の広さを返し、増えた床だけを売って建築費を全部まかなうには、いくらで売ればいいか。

図3の読み方:オレンジの線が23区の新築マンションの平均単価(約697万円/坪)。棒がこの線より下なら採算が合う可能性があります。+20%は線を大きく超えていて無理。+40%でぎりぎり、+60%でようやく余裕が出ます。

+20%だと坪1,140万円で売らないと無理。23区の新築平均(2025年は㎡単価210.9万円=坪約697万円、不動産経済研究所)を大きく超えます。+40%でぎりぎり、+60%でようやく平均的な場所でも回る。しかもこの計算には、解体費も仮住まい費も金利も入っていません。容積率を「ちょっと」緩めても、建替えは動かないってことです。

じつは東京都の要綱(東京都マンション再生法容積率等許可要綱、令和8年4月施行)では、公開空地を設けるなどの条件付きで、特別区(中枢広域拠点域以外)なら「基準容積率の 0.5 倍又は 250%のいずれか低い数値」まで割り増しできます。つまり+50%程度は制度上もう可能。

それでも建て替わらないのは、使える条件が狭いから。東京都の資料(1971年以前のマンション約2,200棟が対象)には、「容積率により同じ規模に建替えられない」「日影規制により、同じ規模に建替えられないものも多く含まれる」「敷地面積が狭く、容積緩和制度が活用できない」とあります。だから改革すべきは上限じゃなくて、使える対象を広げること。敷地面積の要件を外す、日影規制に引っかかる物件を救う、隣地と一緒に建て替えやすくする、です。

2026年4月には改正区分所有法も施行され、耐震性不足などの場合は建替え決議が5分の4から4分の3に下がりました。方向は合っています。

決定的な壁:工事する人がいない

で、ここが致命的。規制緩和をもう受けている大型再開発ですら、こうなっています。

  • 名鉄 名古屋駅地区再開発(2025年12月12日発表):「人材確保難により現計画での解体・新築工事の施工体制の構築が困難であること」を理由に入札辞退届が出された。解体着工も竣工も「未定」に。
  • JR北海道 札幌駅前再開発(2025年3月19日発表):「2024年9月に約3,700億円(当初計画の2倍強)の工事費が提示」。竣工は2030年度と2034年度に後ろ倒し。
  • JR九州 博多駅空中都市プロジェクト(2025年9月26日発表):「昨今の工事費高騰の影響を大きく受け」、計画中止。

建設業の就業者は、1997年の685万人から2025年には478万人に減りました。55歳以上が36.6%、29歳以下は11.9%(国交省)。2025年度の人手不足倒産441件のうち、建設業が112件(帝国データバンク)。

図4の読み方:青い棒が、建替えの前倒しを施工するのに追加で必要な人数。オレンジの線は、建設業で働く外国人がここ6年で増えたペース(年約1.9万人)。中央ケースでも、その3年分を一度に上乗せしないと足りません。

わたしの粗い計算だと、中央ケースで年約5.8万人の働き手が追加で要ります。建設業で働く外国人は2019年10月末の9万3,214人から2025年10月末の20万6,468人に増えましたが、それでも年平均約1.9万人。人が増えなければ、建設にお金を足しても建物は増えず、工事費が上がるだけです。

もうひとつ。建替えの大半は「どうせいつか建て替える分」の前倒しなので、2030年代の需要を先食いします。恒久的に増えるのは増床した部分だけで、中央ケースだと3割弱。

建築規制についてのわたしの結論
  • 容積率の見直しは、都心の集積と住宅供給を増やす改革としては正しい。長期で年0.5〜2兆円程度の効果(わたしの外挿)。
  • でも短期の建設需要はGDPの0.1〜0.3%が上限。しかも施工する人がいなければ、ほとんど値上がりに消える。
  • だから、建築規制の緩和は「外国人技能者の受け入れ」「省人化工法を認める基準の見直し」とセットでやるべき。結局、ランキング2位の働き手の規制改革に戻ってくる。
なぜ高市内閣は規制改革をやらないのか

ここからは、事実を並べたうえでのわたしの推測です。

規制改革の担当大臣は、実はいる

「昔は規制改革担当大臣までいたのに」と思っている人も多いと思いますが、高市内閣にもいます。城内実さんが「内閣府特命担当大臣(経済財政政策 規制改革)」です(第1次・第2次高市内閣とも、首相官邸の閣僚名簿)。

歴代を見ると、小泉内閣の中馬弘毅さん、第1次安倍内閣の渡辺喜美さん、菅内閣の河野太郎さん、石破内閣の平将明さんなど、規制改革担当はずっといました。菅内閣、岸田内閣(第2次第2次改造)、石破内閣ではデジタルや行政改革の大臣が兼ねていましたが、高市内閣では経済財政政策の大臣の兼務になっています。

問題は、その城内さんが大臣になる前に何を言っていたか。2024年2月8日の衆議院予算委員会で、こう発言しています(国会会議録)。

城内実議員(2024年2月8日 衆議院予算委員会)

「タクシー事業者以外の者によるライドシェアはまさに白タク行為であり、運行管理や車両整備管理についての民事、刑事上の法的な責任問題や、ドライバー、乗客の安全性、タクシーを含めた既存の公共交通機関との過当競争や交通渋滞を招く危険性など、重大かつ新たな問題を多くはらんでおります。」

規制改革の担当大臣が、世界で普通に使われているライドシェアを「白タク行為」と呼ぶ。アゴラの池田信夫さんは、高市首相と城内大臣が自民党のタクシー・ハイヤー議員連盟の中心だと書いています(報道ベース)。高市さん自身も2024年の総裁選の討論会で「ライドシェアの全面解禁は交通安全上の問題や、強盗などの犯罪被害に遭う恐れがある」と述べたと報じられています(報道ベース)。

ブレーキ係にアクセルを任せてるようなもんですww

演説にも、計画にも、連立合意にも出てこない
  • 所信表明演説(2025年10月24日):「規制改革」「規制緩和」「岩盤規制」「特区」は0回。「規制」は3回出てくるけど、ネット犯罪やストーカー対策など、全部「規制を強化する」話
  • 施政方針演説(2026年2月20日):「規制改革」は2回。AI・ロボットの研究開発やベンチャー支援の文脈で、ほかの支援策と並べて出てくるだけ。
  • 規制改革実施計画:石破内閣の令和7年は110項目(答申87+国家戦略特区23)。高市内閣の令和8年は57項目(答申55+特区2)。ほぼ半減で、特区は23→2。規制強めてどうするんだ。
  • 自民党と日本維新の会の連立政権合意書(2025年10月20日):「規制改革」「規制緩和」「特区」はゼロ。「規制」が出てくるのは、メガソーラーの規制や、外国人・外国資本による土地取得規制の強化だけ。

図5の読み方:上が石破内閣の令和7年、下が高市内閣の令和8年。青が規制改革推進会議の答申から、オレンジが国家戦略特区から入った項目。全体がほぼ半分になり、特区(オレンジ)はほとんど消えました。

かたや経済対策は、令和7年度補正で一般会計17.7兆円、令和8年度当初予算は一般会計122兆3,092億円です。お金を出す話はいくらでも出てくるのに、ルールを変える話は出てこない。

ちなみに所信表明で経済のところに出てくるのは「『責任ある積極財政』の考え方の下、戦略的に財政出動を行います」と「この内閣における成長戦略の肝は、『危機管理投資』です」。成長の肝は規制改革じゃなくて、政府の投資だと明言しています。

フェアに書いておくと、ゼロではありません。日本成長戦略(2026年7月21日閣議決定)には「規制改革推進会議と緊密に連携し、規制・制度改革により、特に国内投資のボトルネックの解消を通じて」とあるし、規制改革推進会議の答申も出ています。でも看板政策としては、どこにも出てきません。

政府の会議自身が悲鳴を上げている

規制改革推進会議の答申(2026年6月29日)には、こんな文章があります。

規制改革推進に関する答申(令和8年6月29日)より
  • 「規制の多くは利害対立の構造を内包しており、これが改革の遅れる主な要因となっている。」
  • 「規制改革については、これまで何度となく、答申や閣議決定が行われてきた。しかし、当初意図された改革が違った形で進むケースがしばしば見られる。」
  • 「決定事項が『骨抜き』にならないよう、規制所管府省の検討等において、会議の意見が適切に踏まえられているか、改革が逆行していないかなど、会議として、しっかりとフォローアップしていかなければならない。」

政府の会議が、自分の答申に「骨抜き」「逆行」と書かないといけない状況。相当ひどいってことです。
ライドシェアに国会議員がどうして反対するのかは、当事者だった元ヤフー会長の川邉さんがnoteに書いてくれました。こちらです

わたしの推測:お金は丸投げで配れるが、規制改革はケンカしないとできない

以上を踏まえて、なぜやらないのか。わたしの推測はこうです。

  • 1. 考え方がそもそも違う:高市内閣の成長戦略は「政府が投資を主導する」発想。規制を外して民間に任せる、という発想がない。
  • 2. お金を配るのは誰とも揉めない:補正予算は、各省に「何に使いたいか出して」と丸投げすれば積み上がる。配られた側は喜ぶし、反対する業界もいない。
  • 3. 規制改革は必ず誰かと揉める:ライドシェアならタクシー業界、解雇ルールなら労働組合、農業なら農協。答申が書くとおり「利害対立の構造」を突破しないと進まない。粘り強い交渉と調整が必要で、そういう能力や根気がないと手を付けられない。
  • 4. 担当大臣が改革する側にいない:規制改革担当の大臣がライドシェアを「白タク行為」と呼ぶ時点で、ブレーキ役の業界と同じ側に立っている。
  • 5. 支持基盤とぶつかる:野村総研の木内登英さんは、2024年の総裁選当時にタクシー業界が「ライドシェア反対派の高市氏を支援している」と書いています(コラム)。支援してくれる業界の既得権を崩すのは、政治的に割に合わない。

つまり、ばら撒きは「政治的に楽で、経済効果が小さい」。規制改革は「政治的にしんどいが、経済効果が大きい」。楽なほうを選んでいる、ということだと思います。

構造改革特区は2002年(平成14年)、小泉内閣のときに始まり、約24年間で約200件の規制の特例措置が設けられました(内閣府)。やろうと思えばできるんです。やる気と、ケンカする覚悟があれば。

まとめ
  • 経済学者は積極財政をほぼ支持していない(大規模な財政出動で成長回復3.2%)。必要な政策の1位は規制改革(282人中170人)。
  • 規制改革の効果は、働き手の規制が圧倒的に大きい。労働移動で約18兆円、外国人で約17兆円、女性の壁で約13.5兆円。
  • 財政出動は、毎年お金を払い続けてやっとGDP1%程度。規制改革はほぼタダで、効果が恒久的に続く。
  • 国と自治体の書類・手続きの手間で年6.2兆円のGDPが失われている。うち4.6兆円は自治体。書式をそろえるだけでも効く。
  • 建築規制の見直しは長期的には正しいが、短期効果はGDP0.1〜0.3%程度。施工する人がいないので、働き手の規制改革とセットでないと効かない。
  • 高市内閣には規制改革担当の大臣がいるのに、演説にも計画にも連立合意にもほとんど出てこない。お金を配るのは楽で、規制改革はケンカが必要だから、だとわたしは見ています。

「日本はもう成長できない」と言う経済学者が半分いる。でも残りの多くは「規制改革なら回復する」と言っている。その規制改革を、一番やるべき政府がやらない。それで補正予算だけ毎年積み上げて「強い経済」と言われても、そりゃ無理でしょ。

今日のどうでもいい話

加計学園問題で渦中の人となった名物官僚がすべてを書いた全国民必読の書!
■業界団体の脅迫、族議員の罵倒、霞が関の「スパイ」――安倍政権・小泉政権で改革を担った官僚は何を見たのか?「規制改革なくしてイノベーションなし。本書は、『既得権との闘い』の実戦録である」って三木谷さんが推薦書いてます。

講談社
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主な出典
    1. 東京財団政策研究所 佐藤主光「経済学者を対象とした経済・財政についてのアンケート調査」結果(2023年1月25日)
    2. 東京財団政策研究所 加藤創太「政策研究に科学と競争を――東京財団政策研究所が目指すもの」(2018年3月26日)
    3. 東京財団 名称変更のお知らせ
    4. 大和総研 熊谷亮丸「何故、わが国では潜在成長率が低迷しているのか?」(2026年5月13日)
    5. 野村総合研究所 梅屋真一郎「2025年制度改正で『年収の壁』はどの程度動いたか」(2025年6月30日)
    6. 財務総合政策研究所 児玉直美・桃田翔平「なぜ年収の壁はなくならないのか?」(フィナンシャル・レビュー、2025年12月)
    7. 厚生労働省 社会保険適用拡大リーフレット(令和8年1月作成)
    8. 厚生労働省 年金制度改正法の周知・広報について(令和7年7月30日)
    9. 厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)
    10. 同 別表4 産業別外国人労働者数
    11. 国土交通省 建設分野における外国人材の受入れ
    12. デジタル庁 アナログ規制の見直しによる経済効果(中間報告)
    13. デジタル庁 第4回テクノロジーベースの規制改革推進委員会 資料(2026年3月19日)
    14. 大和総研 溝端幹雄「行政手続コスト削減でGDPはどれだけ増える?」(2018年5月29日)
    15. 経済産業研究所 石崎隆「『事業者目線での行政手続コスト削減』について」(2019年12月)
    16. 日本エネルギー経済研究所「2026年度の日本の経済・エネルギー需給見通し」(2025年12月19日)
    17. 資源エネルギー庁「原子力発電所の現状」
    18. 北海道 泊発電所の新規制基準適合性審査
    19. 内閣府 短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版)の構造と乗数分析
    20. 財務総合政策研究所 三平剛「乗数効果の低下の要因について」
    21. 財務省 令和6年度決算の概要
    22. 財務省 令和7年度補正予算(第1号)の概要
    23. 財務省 令和8年度一般会計歳入歳出概算
    24. 財務省 令和8年度予算のポイント
    25. 財務省 我が国の財政事情(令和8年度予算政府案)
    26. 内閣府 四半期別GDP速報 2026年4-6月期2次速報
    27. 東京都『東京の土地利用』第5章 建物利用状況
    28. 国土交通省掲載 企業立地と集積の経済および容積率規制による不動産市場の効率性について(唐渡広志)
    29. 日本不動産研究所 全国賃貸オフィスストック調査(2026年1月現在)
    30. 国土交通省 築40年以上の分譲マンション数
    31. 国土交通省 マンション建替え等の実施状況
    32. 野村不動産 CRE Navi「建設コストの高騰とその要因について 2026 第1回」(2026年8月18日)
    33. 不動産経済研究所 首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年のまとめ
    34. 東京都マンション再生法容積率等許可要綱(令和8年4月)
    35. 国土交通省 建替え等に関するテーマの検討(今後のマンション政策のあり方に関する検討会、令和5年5月22日)
    36. 法務省 区分所有法等の改正
    37. 名古屋鉄道 名古屋駅地区再開発計画等のスケジュール変更について(2025年12月12日)
    38. JR北海道 札幌駅前再開発 今後の進め方について(2025年3月19日)
    39. JR九州 博多駅空中都市プロジェクトの計画中止に関するお知らせ(2025年9月26日)
    40. 国土交通省 参考資料集(令和8年4月3日)
    41. 帝国データバンク 人手不足倒産の動向調査(2025年度)
    42. 国土交通省 建設投資見通し(2026年8月31日)
    43. 首相官邸 第2次高市内閣 閣僚等名簿
    44. 首相官邸 高市内閣 閣僚等名簿(第1次)
    45. 首相官邸 第2次石破内閣 閣僚等名簿
    46. 首相官邸 菅内閣 閣僚等名簿
    47. 衆議院 内閣閣僚一覧(平成18年)
    48. 国会会議録 衆議院予算委員会(2024年2月8日)城内実議員
    49. 首相官邸 高市内閣総理大臣所信表明演説(2025年10月24日)
    50. 首相官邸 高市内閣総理大臣施政方針演説(2026年2月20日)
    51. 内閣府 規制改革実施計画 概要(令和8年7月21日)
    52. 内閣府 規制改革実施計画 概要(令和7年6月13日)
    53. 規制改革推進会議 規制改革推進に関する答申(令和8年6月29日)
    54. 自民党・日本維新の会 連立政権合意書
    55. 内閣官房 日本成長戦略(2026年7月21日)
    56. 内閣府 構造改革特区 事例集
    57. アゴラ 池田信夫「高市首相と城内経財相のタクシー議連がライドシェア解禁をまた先送り」(2026年6月30日)
    58. 自動運転ラボ「高市政権も『ライドシェア全面解禁』見送り濃厚」(2025年11月14日)
    59. 野村総合研究所 木内登英「自民党総裁選での経済政策論争⑦:規制改革」(2024年9月26日)

編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年9月16日の記事より転載させていただきました。

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