米中首脳会談といえば、主役はもちろんトランプ米大統領と中国の習近平国家主席だが、今回の習主席の訪米で思わぬ注目を集めた人物がいる。習主席の妻、彭麗媛夫人である。

ロイター
貿易、台湾、AI、安全保障をめぐって米中両国が激しく競争する一方、その横で展開された「ファーストレディ外交」は、首脳同士の駆け引きとは対照的な柔らかい雰囲気を演出した。
「中国のソフトパワー兵器」と評された彭夫人
彭夫人は9月24日、メラニア・トランプ大統領夫人とともにワシントンのスミソニアン国立アジア美術館を訪問した。そこで注目されたのが、彭夫人の振る舞いだった。
現代風にアレンジされた中国の伝統衣装をまとい、通訳を介さず、メラニア夫人よりなめらかな英語で会話。米国の少年少女合唱団が中国民謡「茉莉花」を歌うと、彭夫人も静かに口ずさんだと報じられている。
ロイターは、こうした彭夫人を習主席にとっての「ソフトパワー」の強力な武器と位置づけた。米中が台湾や貿易などで対立する中、中国の柔らかく親しみやすい側面を演出する役割を担っているというわけだ。
もともと彭夫人は、中国を代表するソプラノ歌手だった。習主席の夫人になる以前から中国では国民的な知名度を持っており、政治家の妻というより、自身が著名人だったという珍しい経歴を持つ。
メラニア夫人との「美の競演」
もう一つ話題になったのが、メラニア夫人との組み合わせだ。メラニア夫人は元ファッションモデル。一方の彭夫人も、中国の伝統的な意匠を取り入れながら洗練された服装で知られる。
今回の訪米でも、2人の服装や立ち居振る舞いは海外メディアやSNSで注目された。両夫人は博物館で「孔雀の間」や中国美術品などを鑑賞した後、子どもたちの合唱を聴いた。ホワイトハウスも、芸術や文化を通じて国境や世代を超えた交流を図る行事だったと説明している。
25日には習主席夫妻とトランプ大統領夫妻がホワイトハウスで茶会を開き、その後、4人そろって米国立公文書館を訪問した。首脳会談が関税やAI、台湾をめぐる厳しい交渉なら、こちらは完全に「笑顔担当」である。
中国国内では意外に扱いが難しい?
ただし興味深いのは、米国で注目を集める彭夫人について、中国国内では必ずしも自由に語れるわけではないことだ。
ロイターは、中国のSNSでは今回の訪米中の彭夫人の活動やファッションをめぐる投稿が厳しく制限されていると伝えている。
これは少し皮肉である。中国が海外に向けて見せたい「親しみやすい中国」を最も効果的に体現している人物が、国内ではスターのように自由に消費される存在にはなっていない。
彭夫人があまりに人気者になれば、習主席本人より目立ってしまうという問題もあるのかもしれない。
強硬外交だけでは国家イメージはつくれない
今回の訪米は、中国外交にとっても興味深い転換を示している。中国外交は近年、「戦狼外交」と呼ばれる強硬な姿勢で知られてきた。しかし国家のイメージは、軍事力やGDP、関税交渉だけで決まるものではない。
文化、ファッション、音楽、そして人間的な魅力も外交資源になる。その点では、今回もっとも効果的に中国のイメージを改善したのは、習主席の長い演説でも中国外交部の声明でもなく、彭夫人が子どもたちと笑顔で交流する数分間だったのかもしれない。
米中首脳が「G2」の主導権を競う横で、夫人たちは笑顔で文化交流を進める。外交の世界では、ときとして首脳本人より「隣に立っている人」のほうが好感度を稼ぐようだ。







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