共同親権から半年、地方自治体に残された7つの宿題:横浜市長選候補者に問う

横浜市長選挙の投開票が10月18日に行われます。山中竹春前市長の辞職に伴う選挙で、候補者は市政の立て直しを語ります。ただ、4月に始まった共同親権は、まだ選挙の争点としては薄いままです。

法律は変わったものの、子どもが通う学校や転居の窓口、災害時の連絡先、親子交流支援の入口といった現場での対応は、翌日から自動で変わるものではありません。施行から半年。家裁では申立てが増えても共同親権の成立は約1割、とも報じられました。現場の温度差は、自治体ごとにまだらなままです。

本記事は、横浜市長選の候補者に、共同親権に「賛成か反対か」を聞くものではありません。政令市の首長が、共同親権について地方自治体に託された課題に対してどう取り組むのか、その姿勢を問うものです。そのため、全候補に同一の公開質問状を送りました。回答期限は10月11日。以下、地方に残された課題を7つに分け、送った質問とあわせて記します。

1. 「共同親権に賛成か反対か」だけでは割り切れない、首長の立ち位置

2026年4月、離婚後も父母の両方が親権者になれる改正民法が始まりました。「共同親権が始まった」とは言うものの、子どもが通う学校も、転居の窓口も、相談する役所も、翌日から自動で変わるわけではありません。法律が決めたのは、「父母は離婚しても子どもを養う責任がある。大事なことは話し合い、急を要する危険からは逃げてよい」という考え方の骨格です。ここまでは国の話です。

残った課題は、現場の窓口の職員が何を確認し、学校が誰を「保護者」と呼び、市がどの家庭に支援を届けるかです。政令指定都市の市長は、「通達」と「用紙」と「予算」を動かすことができますが、共同親権に関しては、施行から半年近くたっても、その対応はそれぞれの地方によってまだらです。そこで、次の横浜市長になる人に、この課題をどう扱っていきたいかについて問いたいと思います。

共同親権は全員に自動的につく制度ではなく、話し合いで選ぶか、裁判所が決めるかです。広島県内の家裁では、親権者を変えたいという調停が増えた一方、成立した案件のうち共同親権は約1割だった、と報じられました。選択肢は広がったものの、まだまだその調整は重いままです。

この状況下で、市の支援が「共同親権になった家庭だけ」に寄ってしまうと、単独親権のままの別居親は置いていかれます。逆に、現場が今までどおり「保護者=一緒に住んでいる親」だけになってしまうと、法律の趣旨は消えてしまいます。地方に残された宿題は、どの家庭にも同じ説明が届くようにすることです。

8月には、地方議員の会が国へ要望書を出しました。親子交流を同居している親の「努力義務」として書いてほしい、という内容です。一方で、「努力したと言えば足りる」逃げ道にもなり得る、と当事者からの指摘も出ました。首長が国に意見書を出すかどうかも論点ですが、それより身近なのは市内の運用です。意見書を待たずとも、市は交流支援の対象も、学校の案内の送り方も、転居届の確認も変えることができます。

父母の気持ちも、「共同親権に賛成か反対か」だけでは割り切れません。モラハラから逃げた母親が、子どもが別居親と会って楽しそうなのを見て、自身の責任を考え始めることもあるでしょう。同時に、共同親権が元の関係を引きずらせるのではないかと恐れる人もいます。「子どものため」という言葉は、安全対策にも交流促進にも使えます。市がこの言葉の中身を決めないまま事業を並べると、現場は都合のよい解釈を選びます。地方行政に残る課題は、こうした細かな「中身」を吟味し、全市で同じ物差しを持つことではないでしょうか。

そこで、この点について横浜市長選の候補者には下記の質問を送りました。

  • 改正民法の共同親権・共同養育の趣旨を、横浜市政でどう位置づけますか。市長として最優先すべき「子どもの利益」を、どのように定義しますか。
  • 共同親権は選択制であり、単独親権も残ります。市の支援は共同親権世帯だけでなく、別居親・非監護親・単独親権世帯にも公平に届くべきと考えますか。
  • 地方議員の会が求めた「親子交流を同居親の努力義務として明文化する」方向について、市長として国へ意見書を出す考えはありますか。ある場合、文言を「努力義務」のままにするか、より強い位置づけを求めるか、理由も書いてください。

2. 別居親の運動会や授業参観、卒業式への参加を認めるか

別居後、いちばん早く衝突するのが学校行事です。運動会、授業参観、卒業式。

国のQ&Aでは、学校が保護者に来てほしいと呼びかけている行事なら、「離れて暮らす共同親権者の参加は原則認める」としています。自治体のホームページにも、「同居している親の同意がなくても参加できる」と書き始めたところがあります。

ただ、現場の判断は慎重になります。たとえば親権のない父親が運動会に行きたいと学校に相談したとしても、母親は近づいてほしくないと言う。学校に断る根拠はあるのか。断ったら父親は引き下がってくれるのか。判断を任される校長は頭を抱えることになります。文科大臣は、こうした状況について「学校は父母の話し合いをまとめる立場ではない」とも言っています。原則は参加を認めるものの、学校で調整はしないとなると、現場は「とりあえずお断り」に流れやすくなります。

改正前から、親権のあるなしにかかわらず、別居親のもとへ行事の案内が届かない、当日に止められる、警察を呼ばれる、という話は各地にありました。改正後、大東市の教育委員会は施行日に文書を出し、接近禁止などがある場合を除き、単独でも共同でも考え方を揃えました。世田谷区は9月の議会で、原則認める、例外の流れも整備中、と答えました。目黒区や千葉市でも動きがあります。大きな市ほど学校が多く、対応が割れやすくなります。

同じ市内で、A校は入れてB校は入れない、ということが起きると、学校や行政への不信が残ります。会場の安全が守れないなどの場合は、例外は必要です。ただ、「一緒に住んでいる親が嫌だと言っている」ことをもって別居親の参加を断る「例外」とすると、「原則」が残らなくなってしまいます。

調整役を学校に負わせれば、現場は守りに入ります。地方に残っている課題は、理念の再確認よりも、原則と例外を短い文書にするなど、教育委員会と保育の担当が同じ流れを使って、保護者に明確に見せることではないでしょうか。

そこで、この点について横浜市長選の候補者には下記の質問を送りました。

  • 親権の有無にかかわらず、別居親の学校・幼稚園・保育所・認定こども園の行事参加を原則認める市の通達・ガイドラインを出す考えはありますか。出す場合の例外(DV、接近禁止、子どもの拒否等)をどう定めますか。
  • 現場が「混乱回避」を理由に一律拒否している実態について、教育委員会と保育所管部局で実態調査をする考えはありますか。調査項目と公表の可否を示してください。
  • こども家庭庁が示す園行事参加の参考例を、横浜市立園・認可園に導入する考えはありますか。私立園への働きかけ方法も書いてください。

3. 転居届一枚で、親子断絶ができる状況をどう変えるか

共同親権の話で、親子断絶にもつながる重要な場面が「転居」です。

法律では、子どもの住まいを変えることは日常の用事ではありません。原則は父母で決めます。同じ学区の中でも同意が要る、と説明する専門家もいます。例外は、暴力や虐待から逃げるなど、待っていられないときとされます。

ところが役所の窓口の用紙は、長いあいだ片方の親のみの記名で足りてきました。転居届も転入届も、民法の共同決定をその場で確かめる仕組みにはなっていません。地方議員の会が要望したのも、このズレです。法律では二人で決めるはずの居所が、届出一枚で先に動いてしまう。

遠くへ移ったあとで争っても、子どもの生活はもう向こうにあります。いわゆる連れ去りや引き離しの入口が、住民票の受付にある、という指摘です。日本には、子どもを連れて別居すること自体をすべて違法にする法律はありません。一方で、相手のもとで落ち着いて暮らしている子どもを力ずくで連れて行く行為は、親権者でも罪になり得ます。

2005年の最高裁決定は、保育園の帰りに子どもを抱き上げて走り去った父親に未成年者略取が成立するとしました。「先に連れて出た側が有利」と批判されてきたのは、時間がたつほど裁判所に認定される「監護の実績」が積み上がるからです。改正法は、「正当な理由なく勝手に住まいを変えることは、協力義務に反し得る」と整理しました。

ただし役所の届出用紙に同意欄がなければ、現場は昔のまま動きます。ここで地方に残る宿題は二つです。

国の様式を待たず、市の紙とマニュアルに確認欄を付けられるか。そして、本当に急いで逃げる家庭を止めないか。ただ、印を二つそろえないと受け付けない、と機械的にすると、避難が遅れる場合も出てきます。同じ窓口が、逃げ道を残しつつ、既成事実化は止める。この両立は大変難しいものです。

転校も同じ穴を抱えています。学校がもう一方の親に確認せず転学を受けると、住民票のズレが学籍にも現れます。あとから気づいても、連絡先を戻すのは困難です。転居届一枚で親子のアクセスが消えるのを、市が止められるかどうかです。

そこで、この点について横浜市長選の候補者には下記の質問を送りました。

  • 未成年の転居届・転入届について、共同親権の場合は両親権者の同意確認を原則とする運用を市独自に進める考えはありますか。国の様式改正を待たず、市の申請用紙に同意欄を設けることは可能と考えますか。
  • 「急迫の事情」(DV・虐待からの避難等)がある場合、同意なし受理をどう担保しますか。避難の必要性と、他方親の養育関与を両立させる基準を示してください。
  • 転校・転園手続で、共同親権の場合に他方親権者への確認を学校・園に求める考えはありますか。確認漏れが起きた場合の是正手順も書いてください。

4. 災害時の連絡先を、どうするか

地震などの災害時、親権の議論よりまず先に確かめたいのは家族の安否です。

東京都の防災資料にも、帰宅できなくなったときにいちばん心配なのは家族の安否だ、と書かれています。学校や園から保護者へ、無事かどうかが届くかが鍵です。一方、小学生の保護者を対象にした調査では、災害時に学校からどう連絡が来るか知らない人が半数を超えました。「学校の連絡を待つ」も3割超。連絡先が同居している親の携帯だけなら、離れて暮らす親には何も届きません。

緊急連絡先の欄は、これまで一緒に住んでいる側が書くのが普通でした。共同親権でも、欠席の連絡のような日常の用事は片方で足ります。その延長で、災害メールも一人分、となりやすいですが、災害は日常ではありません。子どもが学校にいて、同居している親が被災して出られないという状況で、別居している親は市外にいるということは十分あり得ます。

横浜市も災害用伝言ダイヤルなどを案内しています。ただ、使えるのは家族が互いの連絡先を知っている場合です。別居後に住所も学校も知らされていない別居親には届きません。地方議員の会が、災害時は別居親にも安否を伝えてほしいと求めたのは、この抜けからです。

住所を教える必要はなく、「学校で無事」「避難所はここ」という内容を知らせることです。誰に送るか、共同親権と単独親権で差をつけるか、近づくなという命令がある人をどう外すか。防災と教育でのルールを先に決めておかないと、当日は校長判断で止まってしまいます。

緊急連絡先に、離れて暮らす親を原則として足せるかも同じ話です。任意にすると、関係が悪い家庭ほど空欄のままです。原則追加にして、外す条件だけ書く方が現場は動きやすいでしょう。連絡網の欄が一つ足りないだけで、災害の日に片方の親が子どもの安否を確かめられない、という抜け。学校が多い都市ほど、区ごとの差も出ます。ルールが全市で揃わなければ、安否は当たった学校次第になります。

そこで、この点について横浜市長選の候補者には下記の質問を送りました。

  • 災害時に、同居親だけでなく別居親へ子どもの安否を伝える仕組みを、市として整備する考えはありますか。対象(共同親権/単独親権)、同意の取り方、個人情報保護との整理を示してください。
  • 学校・園の緊急連絡先に、別居親を原則追加登録できる運用にする考えはありますか。

5. 親子交流の支援をどうするか

横浜市には親子交流の支援制度があります。公正証書をつくる費用、養育費の保証、回収を弁護士に頼む費用の補助もあります。ここで問題となってくるのは、誰がそこに入れるかです。市の事業は、子どもが市内で同居親と暮らしていること、取決めがあること、支援を受けることについて父母が合意していることが前提です。一度使った世帯は原則もう使えない、親族からの依頼は対象外、という条件もあります。

いちばん困っている「話し合いがつかない家庭」は、蚊帳の外に置かれやすくなります。民間の支援も条件が細かく、調停の書面に支援を使うと書き、事前相談を受け、支援者の判断に従う、といった合意が必要、とする例もあります。

安全のためには理解できますが、改正法が問題にしているのは、決めたのに理由なく拒むことや、学校の予定を共有しないことです。合意ができる前の相談、第三者の立会い、送迎まで支援を広げなければ、「すでに回っている家庭の補助」だけで終わってしまいます。

養育費もこれと似ています。改正法は、養育費の額などを決めていなくても一定額を考える仕組みを入れました。何件補助したかだけでなく、取決め率と受給率を見ないと、効果はわかりません。親子交流や養育費について、地方自治体に残されている課題は、支援を増やすかどうかより、今ある支援が難しい家庭に届いていない、という設計です。

そこで、この点について横浜市長選の候補者には下記の質問を送りました。

  • 横浜市の親子交流支援事業は、父母間の合意がある場合に限定されています。合意形成前の相談、調整、第三者立会い交流まで広げる考えはありますか。予算規模の目安も書いてください。
  • 養育費確保支援(公正証書補助、保証契約補助、強制執行費用補助)を、共同親権施行後どう拡充しますか。取決め率・受給率の目標を置きますか。
  • 区役所の離婚前後相談で、共同親権・監護の分担・親子交流・転居の意味を、中立に説明する研修を全窓口職員に行う考えはありますか。

6. DV支援措置制度の悪用をどうするか

共同養育の話が割れるのは、DVの問題が上がるときです。改正法は、子どもを傷つけるおそれがあるとき、暴力などで二人で親権を行えないときは、裁判所が片方だけの親権にしなければならない、としています。

加害者とされる側に住民票を見せないDV支援措置は、本当に逃げることが必要な人を守るためには必要です。原則1年で、更新もできます。この制度がなければ逃げられない家庭もあるでしょう。

一方で、支援措置を子どもを連れて行ったあと住所を隠すために悪用された、という主張と、市は手順どおり必要性を確認した、という反論がさまざまな裁判資料などに残っています。うその申立てへの注意書きを検討する、という動きも報じられました。

本当の被害者を守る装置と、子どもに会うことや裁判の郵便まで止めてしまう副作用は、同じ制度の裏表です。児童相談所やこども家庭の窓口が、離れて暮らす親の話を聞かない、という実情もあります。虐待の調査を公にしないのは当然ですが、「親権がないから親ではない」という感覚は、改正前のものです。

別居親から話を聞く基準が決まっていなければ、現場は「安全策」として従来通りのやり方を続けます。一度かかった制限を解く道が細ければ、止まった関係は戻りません。子ども本人の声も、大人の争いの陰に隠れてしまいます。

横浜市のこども・子育て基本条例も、子どもの意見を施策に生かすよう努める、と書いています。交流の支援や転校の確認に、その声をどこで拾うか。ここでの課題は、どちらの親の味方になるかではありません。本当に逃げることが必要な人を守りつつ、使い方を点検し、子どもを制度の主役に近づけること。片方だけを掲げる市政では、もう一方の親だけでなく、子ども自身も見落としてしまうことになります。

そこで、この点について横浜市長選の候補者には下記の質問を送りました。

  • DV支援措置の運用で、正当な避難と、不当な親子断絶が混在し得るとの指摘があります。横浜市は見直しや第三者点検を行いますか。誤適用時の是正手続をどうしますか。
  • 児童相談所・こども家庭センターが別居親の情報提供や意見聴取を行う基準を、公開する考えはありますか。
  • 子ども自身の意見表明(会いたい/会いたくない、転校したくない等)を、市の支援手続にどう組み込みますか。

7. 担当が分かれる縦割り行政をどうするか

引っ越しは区役所。学校は教育委員会。保育園はこども青少年局。災害は防災。虐待は児童相談所。養育費はひとり親支援。共同親権の運用は、最初から縦割りをまたぎます。市長が「子どもを守る」と言っても、とりまとめ役がいなければ、通達は局の中で止まってしまいます。

横浜市の計画にも、法改正を受けて案内や相談を進める必要がある、と書いてあります。ただ、書いてある先に、誰が決めて、誰が学校へ届けるのかがなければ、計画は計画のままです。数字がないと、うまくいったのかわかりません。共同親権の世帯が何件あるか。転入のときに同意を確認したか。行事の参加を何件断ったか。交流支援を何組が使ったか。養育費の取り決めは増えたか。

取れていない数字は、市が見ていない場所ということです。申立ては増えたが成立は少ない、といった家裁の数字が初めて、「選べるようになったが調整は重い」と教えてくれます。大きな市が同じ指標を持たないと、残るのは先進的な区の話と、苦情メールだけとなってしまいます。

それをいつまでにやるのかも大事です。3か月でできるのは、通達と用紙と研修です。1年でできるのは、支援の対象を広げることと、実態を調べることです。4年かかるのは、条例や毎年の予算、私立園まで含めた市内の調整です。国の紙を待たないとできないことと、市長の判断で足りることを分けられないと、どの項目も「国の動向を見ます」で終わってしまいます。

この課題は役所の内側の話に見えますが、実際は、子どもが両方の親とつながったままこの街で暮らせるかを、公的な数字で残せるか、という話です。理念を語り、学校で会わせ、引っ越しを確認し、災害でつなぎ、支援を広げ、安全を点検しても、担当と指標がなければ翌年度に残りません。

そこで、この点について横浜市長選の候補者には下記の質問を送りました。

  • 共同養育・親子交流の所管を、こども青少年局・教育委員会・区役所のどこが統括すべきと考えますか。横断会議を設けますか。
  • 初年度に把握・公表すべき指標を挙げてください。例:共同親権世帯数、転入届の同意確認件数、行事参加の拒否件数、交流支援利用組数、養育費取決め率。
  • 国制度の隙間で市が先行できること、逆に条例や予算だけではできないことの仕分けを示してください。任期中の工程表(3か月/1年/4年)も書いてください。

以上、共同親権の法改正から半年、地方行政に託された課題7つと、それに対する横浜市長選候補者への質問を書いてきました。回答の締め切りは、選挙戦の中盤、10月11日(日)としています。どのような回答が得られるのか、期待して待とうと思います。

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