ジャパンレッドが生まれた山深き里・岡山県吹屋を歩く

ジャパンレッドという色をご存じでしょうか。やや茶色がかった鉄錆を思わせる赤褐色。日本では和名のベンガラ色といったほうが通りがいいと思います。三酸化二鉄(Fe2O3)を含んだ岩石から採取される顔料であり、インドとバングラデシュに跨るベンガル地方から輸入されていたためこの名がつきました。

そんなベンガラを漆喰壁などに活用した建物が数多く残る集落が、日本にあります。それが岡山県西部、高梁市成羽町にある吹屋集落です。かつて銅山で栄えた吹屋は、高梁市中心部からも離れた山間部に位置し、細い山道を進んだ先に現れる秘境のような場所です。銅の精錬過程で生まれたベンガラは、建物の木材を塗装したり、漆喰に練り込んだりして利用されました。

こうして造られた町並みは、ベンガラ特有の赤褐色に彩られています。山あいに静かに佇む集落全体が「ジャパンレッド」に包まれたような景観を生み出し、多くの観光客を魅了しています。

また、吹屋で生産されたベンガラは、輪島塗をはじめとする漆器や、伊万里焼などの陶磁器の着色にも用いられました。その鮮やかな赤色は海外にも伝わり、西洋人が抱く日本のイメージカラーとして強い印象を残したといわれています。こうした歴史的背景から、ベンガラ色は「ジャパンレッド」として知られるようになり、吹屋はその発祥の地として全国的な知名度を高めています。

吹屋集落の家は壁だけでなく、屋根もベンガラ色です。こちらは島根県西部を主な産地とする石州瓦。瓦に塗る出雲の石を原料とする釉薬が鉄を含むことからこちらも赤褐色になります。屋根から壁から全部ベンガラ色の建物。そんな建物が並ぶ街並みは全国を探してもここしかなく、独特の光景です。

のれんもベンガラ色。

郵便局もベンガラ色。建物の前に置かれている郵便ポストは郵便制度ができたときに置かれたもののレプリカですが、今もポストとして機能しています。

映画の一コマのような風景。

こうしてみると古い宿場町のようで、にぎわいを見せた江戸時代の宿場町のような様相ですが、細い山道を通った後に忽然と現れる集落です。かつては銅の産出地であり、仕事があったため山深い場所にありながらこれだけしっかりした町が形成されてきました。

鉱山とベンガラ生産で大いに栄えた吹屋には、もちろん学校もありました。それが旧吹屋小学校です。集落の外れにある小高い場所に建ち、ひときわ存在感を放っています。明治33年に建てられた木造校舎は、平成24年に閉校となるまで実際に使用されていました。日本最後の現役木造校舎ともいわれたこの建物は、岡山県の建築技師・江川三郎八によって設計されたものです。

江川三郎八は、以前私が訪ねた岡山県真庭市の旧遷喬尋常小学校の設計者としても知られています。彼が手掛けた「江川式」と呼ばれる建築様式は、西洋建築の意匠を木造で表現したもので、岡山県内各地に現存しています。重厚でありながら繊細な美しさを備えたこれらの建築物は、時代を超えて多くの人々を魅了し続けています。

513 【岡山】懐かしさに思わず胸が熱くなる 真庭・旧遷喬尋常小学校|ミヤコカエデ(Miyako Kaede)
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校舎の前にプールが広がる、他ではあまり見られないレイアウト。

閉校当時迄使われていた教室。

校舎は老朽化した部分をリニューアルしていますので、建築当時そのままの古さでそのまま残っているわけではありません。ただ、最後まで使われていた教室などは、閉校当時のままの姿で残されており、今も生徒が登校してそのまま授業を受けていたとしても違和感を感じさせません。

演台は結構年季が入っていました。

2階の中央に講堂を置くのが江川式の学校のスタイル。空間に開放感と立体感を与える織り上げ天井が特徴的です。

ここに通っていたわけでもないですし、私が通っていた小学校はマンモス校で昭和中期にはよくあるコンクリートの無味乾燥な校舎でしたが、なぜだかたまらなく懐かしい気持ちになります。令和の子どもたちはこんな古い校舎で学習していることはないんでしょうが、そんな子たちが大人になったときも懐かしさを感じ、胸を熱くさせる。そんな旧吹屋小学校であってもらいたいと思いました。

町に戻って来ました。バス停がなかなか渋い。バス停と書かれていなければ木の棒です。備中高梁駅からここまでバスで来ることもできますが、日に何本もないので結局車に頼ることになってしまいます。ただ集落は割と細長いので地域を巡回するバスが出ています。

こちらは「トトロのバス停」。傘をさしてバス停の隣に立てば、サツキとメイの気分…?さっきの本物のバス停よりもバス停らしいですが、あくまで偽物のバス停なので、いくら待っていてもバスは来ませんのでご注意を。

ジャパンレッド発祥の地、吹屋。山中にひっそりと佇む集落は、その名にたがわぬ屋根も壁も暖簾までベンガラ色で満ちた集落でした。ぜひ一度、山道を乗り越えた先に広がるジャパンレッドの秘境を訪ねてこの町を歩いて見てほしいと思います。


編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2026年9月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。

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