鳥取市の都市ガス会社「鳥取ガス」で、奇妙な社長交代が起きた。会社側によると、児嶋太一前社長が2023年から2026年8月にかけ、法人カードを私的に使用したり、自身や妻の名義の会社に資金を送金したりするなど、グループ企業の資金少なくとも約14億円を流用していたという。
その結果、取締役会は児嶋氏を社長から解任した。ここまでは巨額の不正疑惑が発覚した企業では珍しくない。驚くのはその次である。後任社長に就任したのは、児嶋前社長の実の姉、佐藤陽子氏だった。

佐藤陽子新社長(テレビ朝日)
約14億円が動いても止まらない「監視体制」
鳥取ガスの説明では、児嶋氏は会社名義のクレジットカードを使い、ブランド品などの購入に約3.1億円を支出したほか、会社の預金10.8億円以上を個人口座などに送金したとされる。
問題となった資金は少なくとも約14億円。このうち約10億円は返金されているというが、今後の調査で詳しい事実関係は明らかにされるだろう。
しかし、それ以前に素朴な疑問がある。14億円もの資金が動く間、会社の経理や監査、取締役会はいったい何をしていたのだろうか。
「一族経営のおごり」を家族が改革できるのか
さらに興味深いのは、佐藤新社長自身が今回の問題について、「長年の一族経営によるおごりと甘え」があったと説明していることだ。
鳥取ガスは児島一族が1918年から6代にわたって経営している同族経営である。そのおごりと甘えが問題なら、改革の第一歩が、弟から姉への社長交代というのはおかしい。弟を姉に替えただけでは、「同族経営2.0」になるだけだ。
これに対して児嶋前社長側は声明を出し、新経営陣の主張について「一方的な事実認識と法的評価」に基づくものだとして争う姿勢を示している。問題となった送金についても、佐藤社長が関与したと主張している。
会社なのか一族なのか
同族経営には長所もある。短期的な株価に左右されず、長期的な経営ができる。経営者と会社の利害が一致しやすい。意思決定も速い。
他方で最大の弱点は「会社」と「家」の境界線が消えやすいことだ。会社の金なのか、一族の金なのか。取締役会なのか、家族会議なのか。人事なのか、家督相続なのか。その区別が曖昧になると、企業統治は弱くなる。
鳥取ガスは単なる一族の商店ではない。地域の生活を支える都市ガス会社である。社会インフラを担う企業で、「弟を解任したので姉が社長になります」では、利用者や取引先の不安は消えない。本当のガバナンス改革とは、誰が社長になっても勝手なことができない会社にすることである。







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