「最後の映画スター」とまで呼ばれてきたトム・クルーズに、思わぬ異変が起きた。
クルーズ主演の新作『DIGGER/ディガー』が10月2~4日の北米週末興行ランキングで、まさかの5位に沈んだ。3321館という大規模公開にもかかわらず、週末興行収入はわずか800万ドル。海外73市場でも1200万ドルで、世界全体の初動は2000万ドルにとどまった。

DIGGER 公式サイトより
クルーズ主演作の北米初動としては、2007年の『大いなる陰謀』の約670万ドル以来、実に19年ぶりの低水準である。
「トム・クルーズなら客が来る」が通用しなかった
問題は、この映画が小規模な実験作ではないことだ。監督は『バードマン』『レヴェナント:蘇えりし者』のアレハンドロ・G・イニャリトゥ。クルーズのほか、リズ・アーメッド、ジェシー・プレモンス、サンドラ・ヒュラー、ジョン・グッドマンらが出演する豪華作品である。
しかも製作費は推定1億2500万ドルから、報道によっては1億6000万~1億8000万ドル。興行関係者からは、この規模なら北米初動で少なくとも4000万ドル程度は欲しかったとの見方も出ている。
それが800万ドルだった。世界初動2000万ドルという数字は、製作費だけを考えてもかなり厳しい。映画館側との収益分配や広告宣伝費まで考えれば、「ヒットするかどうか」という段階ではなく、「どこまで損失を小さくできるか」という話になりつつある。一部では最終的な損失が1億5000万ドル規模になるとの試算まで出ている。
『ミッション:インポッシブル』ではないクルーズ
もっとも、これを単純に「トム・クルーズ人気の終わり」と見るのも早計だ。近年のクルーズは『トップガン マーヴェリック』や『ミッション:インポッシブル』シリーズで、「本人が危険なスタントをする映画スター」というブランドを完成させた。観客が見たいのは、飛行機から飛び降り、バイクで崖から飛び出し、走るトム・クルーズなのである。
ところが『DIGGER』は政治的影響力を持つ石油王を主人公にしたブラックコメディーで、オリジナル脚本。シリーズ物でもアクション大作でもない。しかもR指定で、批評家の評価も割れ、CinemaScoreも芳しくなかった。つまり、「トム・クルーズ」という名前だけをポスターに大きく載せれば数千万人が映画館に押しかける時代ではなくなったということだ。
1位はアン・ハサウェイ主演『Verity』
そのことを象徴するのが、同じ週末の1位だった『Verity』である。アン・ハサウェイ、ダコタ・ジョンソン主演の同作は北米で約3260万ドル。『DIGGER』の約4倍を稼いだ。世界初動も6260万ドルだった。映画館に客がいないわけではない。
客はいる。ただし、「有名俳優+有名監督+巨額予算」というハリウッドの古い成功方程式だけでは、その客を動かせなくなっているのである。これはハリウッドにとってとても怖い話だ。
「映画スター」に180億円を賭ける時代の終わりか
ストリーミングの普及後、観客が映画館まで足を運ぶハードルは上がった。家で数週間待てば新作が見られる時代に、2000円近い料金を払い、2時間以上スクリーンの前に座ってもらうには、「映画館でなければならない理由」が必要になる。
『トップガン マーヴェリック』にはそれがあった。『ミッション:インポッシブル』にもある。しかし、「トム・クルーズが名監督の風変わりな作品に出ています」だけでは、1億数千万ドルの投資を回収するほどの観客は来なかった。これはトム・クルーズ個人の失敗というより、スターの知名度を担保にして巨額製作費を投入するハリウッド型ビジネスの限界を示している。
皮肉なことに、『DIGGER』とは「掘る人」という意味だ。今回、トム・クルーズとワーナーが掘ってしまったのは、映画史に残る巨大な穴なのかもしれない。







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