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11月3日の米中間選挙まで1か月を切った。今回の選挙で、AI(人工知能)は初めて「暮らしの争点」になっている。
ロイターとイプソスが10月5日までの6日間に行った全国調査では、登録有権者の84%がAIを「米国の労働者への脅威」と答えた。不法移民を脅威とみる人は60%にとどまる。移民よりAIが怖い、というのが今の米国の有権者である。

図1 「米国の労働者への脅威」とみる登録有権者の割合
出典:ロイター/イプソス調査(9月30日〜10月5日)
日本ではあまり報じられていないが、争点は三つに整理できる。
- 規制の権限を連邦と州のどちらが握るか
- データセンターと電気料金
- 選挙に流れ込むAIマネー
である。
首脳会談でも動かなかった支持率
9月23日から25日、習近平国家主席が訪米し、ワシントンで米中首脳会談が開かれた。投票日の約6週間前にあたる。
しかし支持率は動いていない。会談後に行われたロイター/イプソスの調査(9月30日〜10月5日)では、支持32%、不支持65%。支持率は前回調査から変わらず、過去最低の水準にとどまった。
会談前のエコノミスト誌とユーガブの調査(9月18〜21日)は支持35%、不支持62%、クイニピアック大学の調査(9月24〜27日)は支持34%、不支持61%で、下院選の政党支持は民主党51%、共和党39%と12ポイント開いた。

表1 首脳会談前後のトランプ大統領の支持率(米中首脳会談は9月23〜25日)
注:調査ごとに対象と方法が異なる(ロイター/イプソスは成人全体、ほかは登録有権者)。
出典:各調査の公表資料および報道
会談の目玉の一つがAIだった。両国はAIのリスクと便益を話し合う対話の枠組みと、AI関連の事故に備える連絡チャンネルの設置で合意した。ホワイトハウスはAIを「スーパーインテリジェンス(SI)」と呼び、次回会合は11月までに開くという。「AIホットライン」と呼ぶ報道もある。
ただ、これは国家間の危機管理であって、有権者が求めている国内のルールではない。
有権者は「開発競争より安全」を選んでいる
世論ははっきりしている。主な調査を並べるとこうなる。

表2 AIをめぐる主な世論調査
出典:各調査の公表資料および報道
注目すべきは、共和党支持層でも6割が規制強化を支持している点である。トランプ大統領のAI政策を評価する人は25%、評価しない人は58%だった(クイニピアック)。

図2 党派別にみた規制への支持
出典:クイニピアック大学(9月29日公表、左の二つ)、ロイター/イプソス(9月30日〜10月5日、右)
大統領は、AIが人類の脅威になるという警告を「でっち上げ」と呼び、規制はAI企業を破綻に追い込む、中国とのAI競争に負けるわけにはいかない、と主張している。直近では、エヌビディア、スペースX、オープンAI、アンソロピック、メタ、グーグルの6社と自主的な安全原則で合意したと発表した。独立した監査人による検証を含むが、守らなかった場合の罰則はない。
議会はAIの歯止めを定める法律で合意できないまま、選挙後まで休会に入った。世論と政権の間に、これだけの距離がある。
ルールを決めるのは連邦か、州か
第一の争点は、誰がAIのルールを決めるかである。連邦議会が動かない間に、州が先に動いた。ニューヨーク大学の集計によれば、2026年前半だけで29州が109本のAI関連法を成立させている。
政権と業界は、州ごとにばらばらな規制は開発の足かせになるとして、連邦法で州法を無効にする「先取り(プリエンプション)」を求めてきた。経緯は次のとおりである。

表3 州法の「先取り」をめぐる経緯
出典:各紙報道、法律事務所の解説
この草案には、42州の200人を超える州議会議員が党派を超えて反対の書簡を出した。連邦の代替ルールがないまま州の保護だけを外すのか、という批判である。草案のうち最先端モデルの監督を定める部分は、7月に「フロンティア法案」として下院に提出されたが、委員会に付託されたまま審議は進んでいない。
大統領令には州法を無効にする力はない。先取りの権限は議会にある。つまり、11月の選挙で決まる議会の構成が、そのまま米国のAI規制の形を決めることになる。
民主党も一枚岩ではない。フロンティア法案の共同提出者は民主党のトラハン下院議員だが、党内には州法の先取りへの反対が強い。同じ民主党のカサール下院議員は、AI企業に課税して公的な雇用を生み出す法案を出し、無所属のサンダース上院議員とともに超知能AIの開発禁止も掲げる。共通しているのは、企業の自主規制に任せる政権の路線を拒む点だけだ。
データセンターと電気料金
第二の争点は、有権者の財布に直結するデータセンターである。AIを動かす巨大施設が電力と水を大量に使い、家庭の電気料金を押し上げているという不満が全米に広がった。ブルッキングス研究所によれば、電気料金が年25%以上上がった地域もある。
この争点の特徴は、党派の線で割れないことだ。

表4 データセンターをめぐる各州の動き
出典:各紙報道
ロイター/イプソスの調査では、データセンター建設の制限を支持する有権者は56%。共和党支持層でも43%にのぼる。
これに対しトランプ大統領は、「AIとデータセンターに対する病的な陰謀がある」とSNSに投稿し、建設推進の姿勢を崩していない。
ここに利益相反の問題が重なる。ワシントン・ポストは9月、大統領の資産報告と企業発表を分析し、大統領一族の事業と投資がAIブームの恩恵を受ける産業と深く結びついていると報じた。長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏がパートナーを務める投資会社「1789キャピタル」は、データセンターなどのデジタルインフラを含む12億ドルのファンドを組成している。ホワイトハウスは、大統領の投資は独立した運用者が管理しており利益相反はないと反論している。
事実関係の評価は分かれるにせよ、規制に反対する大統領の一族がその産業に投資しているという構図は、野党にとって格好の攻撃材料になっている。
選挙に流れ込むAIマネー
第三の争点は、AI業界そのものが選挙の当事者になっていることである。2024年に暗号資産業界が使った手法、つまり巨額のスーパーPAC(政治資金団体)で規制派の候補を落とすやり方を、AI業界が踏襲した。
業界は二つに割れている。

表5 二つに割れたAI業界のスーパーPAC
出典:各紙報道
このほかメタは、AI業界に好意的な州レベルの政治家を後押しするため、州の選挙に6500万ドルを投じる計画である。

図3 選挙に流れ込むAIマネーの規模
注:調達額、拠出額、支出額を並べたもので、互いに重なる部分があり合計はできない。
出典:ニューヨーク・タイムズ集計ほか各紙報道
象徴的だったのが、6月のニューヨーク州第12選挙区の民主党予備選である。州のAI安全法(RAISE法)を共同で起草したボアズ州議会議員をめぐり、両陣営が合わせて約2700万ドルを投じた。下院予備選として史上2番目の規模である。ボアズ氏は35%対39%の僅差で敗れたが、勝ったラッシャー氏もAI規制を支持する立場である。業界マネーは一人を落としたが、規制派を議会から締め出すことはできなかった。
ニューヨーク・タイムズの集計では、両陣営の支出はこれまでに5570万ドル。そのうち5260万ドルは結果の見えている選挙区の予備選に使われ、95本の広告のうちデータセンターに触れたものは1本もない。業界は、有権者が最も怒っている争点を避けて戦っている。
左右のポピュリストが同じ舞台に立った
AIは党派の地図も塗り替えつつある。9月15日、ワシントンの集会で、左派のサンダース上院議員と、トランプ氏の元首席戦略官バノン氏が続けて登壇し、そろってAI業界を批判した。
サンダース氏は超知能AIの開発を禁じる法案を準備し、バノン氏は中国との技術・人材の遮断を訴える。処方箋は違うが、巨大テック企業に任せてはおけないという認識は同じである。
共和党は、規制緩和を掲げる大統領とテック業界、それに不信を強める支持基盤の間で割れている。民主党は規制では一致するが、中身はまとまらない。AI企業のトップ自身が開発の減速を呼びかけ、大統領がそれを退ける、という倒錯した場面も生まれた。
日本が読み取るべきこと
米国の中間選挙は、日本にとって対岸の火事ではない。私は三つの点に注目している。
一つ目は、AIが「技術政策」から「生活の政治」に移ったことである。有権者を動かしているのは、人類存亡のリスクといった抽象論よりも、電気料金と雇用だ。日本でもデータセンターの立地が各地で進んでいる。電力と水の負担を誰が負うのか、地元に何が残るのかを、事業者と自治体が先に示さなければ、同じ反発が起きる。
二つ目は、自主規制の限界である。米政権が主要6社と結んだ安全原則には罰則がなく、有権者の57%は政権がリスクを軽視しているとみている。一方で、米国の成人の86%が、AI企業に対する独立した安全基準を支持している(クイニピアック)。日本は2025年に成立したAI推進法で、罰則を置かない緩やかな枠組みを選んだ。その方向を維持するのであれば、第三者による監査や、AIマネジメントシステムの国際規格(ISO/IEC 42001)にもとづく認証など、自主的な取り組みを外から検証できる仕組みが欠かせない。
三つ目は、米中がAIの事故に備える連絡チャンネルを二国間で作り始めたことである。安全に関する国際ルールが、米中の間だけで形づくられる可能性が出てきた。日本は、同盟国として、また信頼できるAIの担い手として、その議論の席に着く準備を急ぐ必要がある。
11月3日に選ばれる議会は、州法の先取りを認めるのか、連邦の安全基準を作るのかを決めることになる。米国で事業を行う日本企業にとっては、守るべきルールが州ごとに残るのか、一本化されるのかが変わる。選挙の結果そのものと並んで、AIという争点がどの選挙区で、どちらに票を動かしたのかを見ておきたい。







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