東京ディズニーシーが、なんと12万円のカチューシャを発売します。
1万2000円ではありません。12万円です。ちょっとしたブランドバッグが買える価格です。

25周年記念のカチューシャ(12万円)。
さまざまな大きさのストーンが散りばめられており見る角度によって違う輝き方が楽しめます(公式HP)
東京ディズニーシーは10月8日、開園25周年を記念した特別グッズを発表しました。11月25日から発売されるカチューシャには、スワロフスキー・クリスタルがふんだんに使用されています。
ほかにも6万円のミッキーとミニーのぬいぐるみセット、3万円のネックレス、2万5000円のキーチェーンなどが登場します。
ねとらぼの10月8日付記事によると、SNSでは価格に驚く声が相次いでいます。
しかし、本当に注目すべきなのは、カチューシャが12万円もすることではありません。ディズニーが入園者数を大きく増やさなくても、1人当たりの売上を増やす経営へと重点を移していることです。
入園者数は横ばいでも売上高は過去最高
オリエンタルランドの決算を見ると、この戦略がよくわかります。
2026年3月期の連結売上高は約7045億円と過去最高を記録しました。しかし、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーの年間入園者数は2753万人で、前年度の2756万人から0.1%減少しています。
それなのに、なぜ売上が増えたのでしょうか。
理由の一つが客単価の上昇です。
2つのテーマパークのゲスト1人当たり売上高は、前年度の1万7833円から1万8403円へと3.2%増加しました。この数字にはアトラクション・ショー収入、商品販売収入、飲食販売収入が含まれます。
なお、連結売上高にはホテル事業なども含まれるため、すべてがテーマパーク内での消費によるものではありません。
つまり、より多くの人を集めるだけでなく、訪れた人により多くのお金を使ってもらうことが、成長を支えているのです。
12万円のカチューシャも、この高付加価値化を象徴する商品の一つといえるでしょう。ただし、今回の限定商品が実際に客単価をどれだけ押し上げるかは、まだわかりません。
家族4人で遊びに行くといくらかかる?
こうした経営戦略には合理性があります。しかし、一般家庭にとってはディズニーの負担が重くなっていることも事実です。
例えば、10月11日の東京ディズニーシーの1デーパスポートは、大人1人1万2400円です。
大人2人だけで2万4800円。ここに子どものチケット代、交通費、食事代、お土産代を加えれば、家族4人で相当な出費になります。
さらに人気アトラクションを短い待ち時間で楽しめる有料サービス「ディズニー・プレミアアクセス」もあります。
「アナとエルサのフローズンジャーニー」は1人1回2500円。家族4人なら1万円です。
もちろん、有料サービスを利用しなければアトラクションに乗れないわけではありません。ただ、限られた時間で効率よく楽しみたい家族ほど、追加料金を払いたくなる仕組みになっています。
子どもの誕生日に少し奮発して遊びに行く場所だったディズニーが、家計と相談しなければなかなか行けない場所になりつつあるのではないでしょうか。
インバウンドが変える価格設定
この高価格化を考えるうえで、無視できないのが外国人観光客の存在です。
オリエンタルランドの「ファクトブック2026」によると、2026年3月期の海外ゲストは推計約416万人で、全入園者の15.1%を占めています。
2019年3月期の9.6%と比べれば、海外ゲストの存在感はかなり大きくなりました。ただし、前年度の15.3%からはわずかに低下しており、一貫して増加し続けているわけではありません。
円安によって、外貨を持つ観光客にとって日本の商品やサービスは相対的に割安になります。
日本人には1万円を超えるチケットが大きな負担でも、所得の高い国から訪れる観光客には、比較的受け入れやすい価格かもしれません。
重要なのは、日本国内にある施設でも、その価格が日本人の所得水準だけで決まるわけではなくなっているということです。
これは都心のホテルや高級飲食店でも見られる現象です。
もっとも、12万円のカチューシャが外国人富裕層向けに企画されたという事実は確認できません。海外ゲストの増加が、すべての価格引き上げの原因だと断定することもできません。
それでも、世界中から顧客を集められるブランドには、高価格の商品を販売する余地が生まれやすいのです。
「夢の国」は誰のためにあるのか
とはいえ、オリエンタルランドを一方的に批判するのも公平ではありません。
アトラクションの建設、設備の維持管理、従業員の賃上げなどには巨額の費用が必要です。
実際、同社の2026年3月期は売上高が過去最高となった一方、営業利益は約1684億円と前年度の約1721億円から減少しました。人件費や諸経費の増加が利益を圧迫しています。
12万円のカチューシャも、購入を強制される商品ではありません。25周年限定の特別な記念品です。
同じ記念グッズには4500円のキーチェーンや6000円のチャームセットも用意されています。高額商品だけに切り替えるわけではないのです。
熱心なファンや富裕層には特別な商品を販売し、一般客には手頃な価格帯の商品も残す。企業としては合理的な戦略でしょう。
ただし、高級グッズの販売と、入園して遊ぶための基本的な費用が上昇することは、分けて考える必要があります。
後者が上昇し続ければ、家族でディズニーを楽しむ機会に、所得による格差が広がりかねません。
ディズニーは民間企業であり、すべての人に安い料金を提供する義務があるわけではありません。しかし、子どものころに訪れた思い出が、大人になってからのファンを育てるという側面もあるはずです。
目先の客単価を高めることと、将来の顧客を育てること。その両立が問われています。
12万円のカチューシャを買う人を責める必要はありません。高価な記念品に価値を見いだすのも、個人の自由です。
しかし、その一方で、子どもを連れてディズニーに行くことすら難しい家庭が増えるとしたら、少し寂しい話です。
「夢の国」が高く売れることと、多くの人が夢を見られることは、必ずしも同じではありません。
企業としてのディズニーは、客単価の上昇によって売上を伸ばしています。では、私たちがディズニーに期待してきた「夢」は、その分だけ豊かになっているのでしょうか。
12万円のカチューシャが教えてくれるのは、商品の値段よりも、そんな問いなのかもしれません。







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