
(前回:今、奥歯どうなってる?)
冷静に整理してみる。
筋膜というのは、筋肉を包み、全身をつなぐ薄い膜のネットワークだそうだ。状態がよければ、体は軽く動く。すべりが悪くなると、動くたびに張る、こわばる、重だるい。そこまではわかる。
で、すべりを悪くする原因の1つが、水分不足だという。
「おヘソに戻る 〜一級建築士が見つけた重心の科学〜」(松下いづみ 著)みらいパブリッシング
松下いづみさんは、このタイプを「筋膜はりつけ族さん」と呼ぶ。コーヒーやお茶は飲むのに、水は少ない。忙しくて「あとで飲もう」が続く。
……俺のことか。
今日、机の上を見た。コーヒーの空き缶が2本。お茶のペットボトルが1本。水は、ない。冷蔵庫にはある。立てば取れる。取りに行かない。なぜか。忙しいから、ではない。忙しがっているからだ。
本には、このタイプは体の声より予定を優先しやすく、とくに水分をとらないくせが常態化した「忙しがり屋」さんに多い、と書いてある。忙しがり屋。うまいことを言う。腹が立つ。著者にではない。図星を指された自分にだ。
水分が足りない状態が続くと、筋膜のすべりが悪くなり、動くたびにひっかかる。そのひっかかりが、コリ、張り、重だるさとして残る。だから体全体が重い。朝から固い。ほぐしてもまた戻る。
ほぐしても戻る。これだ。これがいちばん許せない。マッサージに金を払って、その場は楽になって、翌朝には元どおり。払った金はどこへ行った。いや、店は悪くない。水を飲まない俺が悪い。わかっている。わかっているから、よけいに腹が立つ。
しかも、軽い脱水でも集中力や判断力は落ちやすいという。忙しいから水を後回しにする。水が足りないから頭が回らない。頭が回らないから仕事が終わらない。で、また水を後回しにする。誰が設計したんだ、この仕組み。俺か。
おまけに水分不足は、食いしばりも強めやすい。お口まわりの力みにつながる。奥歯の話とここでつながってくるとは、思わなかった。
……いや、冷静になろう。
本が勧めるのは、水をちゃんと“水”として入れることだ。コーヒーやお茶ではなく、透明な水を、ちょこちょこ飲む。まとめて飲むより「仕事の前に一口」。お風呂などで筋膜ピックを入れると、体のすべりも戻りやすくなる。皮下脂肪も一緒につまめれば、はりつきや水分不足はないと思っていい、とも書いてある。
それでも、少量ずつの水分補給は日常生活の大事な習慣だ、と本は念を押す。
正論だ。ぐうの音も出ない。
で、俺はいま、これを書き終えて冷蔵庫の前に立っている。立ってはいる。
※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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