前日銀総裁の回顧録に「自己弁護。恥を知れ」と財務省OBが一喝

中村 仁

黒田東彦・前日銀総裁が回顧録『独白―デフレとの闘い 異次元緩和の10年と物価安定の真実』(光文社)を出版しました。日本は金融緩和、円安、異常な国債残高の後遺症に苦しみ、金融正常化にはあと何十年かかるかも分からない。それだけに、どのような自己総括をしたのか。

アベノミクスや異次元金融緩和は「壮大な実験」のつもりが、戦後金融史に残る「壮大な失敗」に終わりました。「当初、考えていたようには全くいかなかった」との反省を聞きたいところです。

やっと日銀が目標達成を宣言

10月の都内の消費者物価は2.6%、物価を引き下げている財政支援分を加算すれば、3%台半ばのインフレです。当初の物価目標の2%を超え、2、3年になります。日銀はやっと30日、「物価上昇率が目標の2%に達した」との見解を公表しました。もっと早く達成宣言をすべきでした。

米国からの外圧があり、高市政権もリフレ政策の転換を迫られ、宣言した結果でもありましょう。今後どうなるか。「負の遺産」が大きすぎ、暗中模索の暗闇から抜け出せまい。

黒田氏は反省するどころか、自らの金融政策に肯定的な回顧録を書きました。先日、黒田氏の先輩であった財務省OBとこの回顧録を話題にしました。「自己弁護が多すぎる。日銀総裁として主導した異次元緩和策を反省などしていない。恥を知れ、黒田」と一喝しました。

アベノミクスは正しかった

その晩、YouTubeを見ると、回顧録を巡り、経済学者の斎藤幸平・東大准教授(マルクス経済学)と黒田氏の対談が配信されていました。黒田氏には自己弁護の発言が多く、首をかしげることしばしばでした。要約すると、次のようになります。

  1. 私が総裁に就任する前に、政府・日銀の合意(共同声明。2013年1月)で「速やかに消費者物価上昇率を2%にする」目標がすでに決まっていた。あらゆる手段を使い、それをどう実現するかが私の任務だった。
  2. やってみると、金融政策だけでは実現は無理だった。30年もデフレが続いていたので、すぐには国民、企業のマインド(心理状態)を転換させられなかった。公約の「2年程度で物価上昇率2%」を実現できなかった。
  3. 賃金・物価の好循環(デフレ脱出)が始まったのは、米国によるウクライナ戦争による2024年くらいからだった。
  4. そこに至ったのは、アベノミクスによる景気回復、企業収益の回復という下地があったからで、その意味ではアベノミクスは正しかった。
  5. 円高の方針も正しかった。その円高修正=円安の水準はいろいろな要因で決まり、異次元緩和だけで行き過ぎた円安になったのではない。1ドル=130円くらいで止まればよかったと思う。
  6. 国債の発行残高が巨額になったといっても、圧倒的部分はアベノミクス以前からのものだ。アベノミクスだけのせいにするのは誤解だ。

反論はいろいろあります。まず黒田氏は「物価は貨幣的な現象であり、流動性を供給(通貨供給量=ベースマネーのこと)すれば、必ず2%の物価上昇は実現できる」との論者でした。以前、財務省国際金融局の上司が黒田氏に「そんな単純なことで物価水準が決まるわけはない」と指摘したと語っていました。

総裁就任直後の記者会見で「2年、2%、2倍(通貨供給量)」と大書したボードを持ち出し、実現への自信を見せていたではありませんか。「目標は私が総裁に就任する前に決まっていた」は、見通しの誤りの責任は自分にはないというつもりのように聞こえてきます。

デフレマインドはサプライズでも不変

デフレマインドの払拭についても、次々に政策面でサプライズを演出し、それによって心理を劇的に変えられると本人は考えていたのでしょう。これも本人の判断の誤りです。それを認めない。退任した後になって「無理だった」と言われてもね。在任中に気が付くべきでした。

行き過ぎた円安はどうでしょうか。異次元緩和による超低金利を長く続けたため、外国投資家、投資機関が超低利で円を調達し、その資金をドルに交換して、対外投資(円安・ドル高要因)してきた結果でしょう。半ば意図して政府・日銀が円安を招いてきた。

「アベノミクス以前からの国債発行残高が圧倒的に多い」についても、安倍政権以前からの残高(30数年分)は全体の7割、アベノミクス以降の残高は3割(10年分)です。アベノミクス以降に急増したのであり、発行額の半分を日銀が保有する仕掛けを作った結果です。しかも、発行残高が急増したのに国債の利払い費は増えていない。アベノミクスの超低金利の結果です。財政ファイナンス(日銀の購入)といえます。

効果が出るまで緩和を強化しようとした錯覚

アベノミクス、異次元緩和の大きな誤りは、「空前の規模の実験、政策転換なのに、政策の効果を検証しないまま、効果が出るまで緩和を強化する」と妄信したことです。3年程度で検証し、効果がないなら異次元緩和を拡充するのではなく、縮小すべきだったのです。

そう指摘する専門家、識者は少なくありませんでした。「聞く耳を持たず」を続けたことを黒田氏は反省すべきです。

安倍政権、日銀に影響を与えたリフレ派は経済学会ではごく少数派で、元日銀理事は「カルト集団みたいなものだ」と一蹴しています。経済学会でも異端にすぎない少数派を招き入れ、金融財政政策を迷路に追い込んでしまったのか。黒田氏はそこを振り返るべきでした。


編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2026年10月30日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。

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