「ものつくり敗戦」で盛り上がりそうな雰囲気のところですが、ちょっと別の話題です(前の池田さんの記事に関しては、カルチャーを変えなくてはダメだという話だから、構造改革どころが、文化大革命が必要だということになるので、慄然とするということです)。
日本の輸出依存度は小さいのに世界金融危機の影響が大きいことを疑問とする向きが、どうも少なくないようだ。しかし、そうした疑問の背景となっている「輸出依存度が小さいと外需の変化の影響を受けにくい」というような見方は、単に「平均概念」と「限界概念」を混同しているだけのようにしか思われない。
確かに、平均値としてみた日本の輸出依存度は、G7の中ではアメリカの次に低い(2007年時点では、G7平均が22%であるのに対して、日本は16%)。しかし、外需の変化の影響を考える場合には、平均レベルではなく、その変分の大きさをみる必要がある。今回の場合であれば、2000年代の初頭に10%程だった輸出依存度が16%まで上昇して、また元に戻るような変化が生じたのだから変分の絶対値は大きい。大きい変化が生じたのだから、影響が大きいのは当たり前である。
「平均値が低いと変分が小さくなる」というような関係は元からないのに、あたかもそうであるかのような混同が少なくないのだろう。「平均概念」と「限界概念」は、経済学の初歩段階で習う区別だともいえるけれども、なかなか正確に理解し、運用することは難しい。例えば、このマンキューの記事の内容などは、プロの経済学者でもついうっかり間違ってしまいかねないと思われる。しかし、輸出依存度が平均概念だというくらいは間違えないで、<水準>と<振れ>の話は区別してほしい。
コメント
素朴な疑問ですが。日本のGNPがG(t)として、輸出依存度を対GNPに対しての比としてE(t)とします。E(t)の変化?E(t) はG(t)に影響しませんが、?E(t)/G(t) はG(t)に影響しますね。G(t)が大きいと?E(t)は小さいのではないかというのが、”区別”できない人の思いではないかと思いますが。
前記コメントで文字化けあり。修正。? は delta に。
あと1つの修正。
「?E(t)は小さい」は「deltaE(t) の影響は小さい」に。
字化けのせいとかもあってよく理解できないところもあるのですが、
Y:GDP、E:輸出額とすると、
ΔY=α×ΔE
ΔY/Y=α×ΔE/Y
で、成長率(ΔY/Y)に関係するのは、ΔE/Yであって、輸出依存度(E/Y)ではないということだけです。なお、αは、乗数の大きさだとします。
たぶん書かれているのもそういうことだと思います。
kazikoe さん
解説ありがとうございます。
ちょっとだけ疑問ですが、「輸出依存率の変化」がkazikeoさんの話には入っていないような。
E/Y=k を輸出依存率としますね。E=kYから
ΔE=Δk・Y+ΔY・k となって、これから,
ΔE/(Yk)=Δk/k+ΔY/Yとなり、
ΔY/Y=ΔE/E -Δk/k となりますね。そうすると、成長率は、
2つのfactorに影響されますね。こちらの議論が間違っている
かな(笑
導出されているのは、定義的な恒等関係で、GDPの成長率が輸出の成長率よりも大き(小さ)ければ、輸出依存度は下(上)がることになるという式です。輸出依存度が下(上)がっているときには、輸出の成長率よりもGDPの成長率はその分だけ大き(小さ)くなっているはずだと言い換えてもいいです。ただ、繰り返しますが、これは定義から当然のことなので、ここから何らかの因果関係を言おうとするなら、追加的な仮説等が必要になります。--池尾和人