中小企業を追い込んでいるのは「リーマンショック」ではない - 池田信夫

池田 信夫

きのうの「アゴラ起業塾」で木村剛氏は、中小企業への貸し渋りが深刻化している現状を訴えました。次の図は木村氏のスライドから借りたものですが、銀行の中小企業向け融資が減少に転じたのは2年前ですから、これは「リーマンショック」とは無関係です。では原因は何でしょうか?
アゴラ起業塾


その大きな原因は、2007年10月に成立した貸金業法です。次の図(これも木村氏に借りたもの)のように、2007年を境に貸出件数は激減して今年は2年前の1/3になり、倒産件数は2割増えました。
アゴラ
こうした資金を借りるのは多重債務のギャンブラーではなく、資金繰りに困った中小企業です。消費者金融については、浪費癖をコントロールできない債務者には金を止めるしかないという論理も成り立ちますが、中小企業が浪費のために資金を借りることはありえない。こうした資金のほとんどはつなぎ資金で、手形が落ちる半年先には返済できるものも多い。

特に最近、増えているのは、昨年のアーバンコーポレーションのような黒字倒産です。経常利益が600億円もありながら、「**銀行が手を引いた」というだけで、他の銀行もいっせいに手を引く横並びの融資行動は日本の銀行の特徴ですが、こういうとき最後の安全弁になっていたノンバンクがなくなたっため、solvent but illiquidな企業の倒産が増えているのです。

もちろんつなぎ資金を借りても最終的には倒産する企業もあるでしょうが、自力で何とかしようとする企業の資金調達の道をわざわざ絶つ必要はないはずです。そういう企業は結局、闇金融に行くしかない。木村氏によれば、これまでの闇金は金利29.2%のノンバンクとの競争があったので、50%とか100%とか常識的な金利に抑えていたのが、今は競争がなくなったので、年利1000%以上という業者がざらにあるそうです。もちろん、こんな業者に引っかかったら確実に倒産です。

池尾さんのおっしゃるように、消費者金融については行為規制で取り締まることが困難なので、金利規制も一つの手段でしょう。しかし事業者向け融資についてまで一律に20%(100万円以上は15%)という非現実的な上限金利を設けることは、中小企業向け金融市場を崩壊させ、消費者保護とは関係のない「官製不況」を増幅するだけです。消費者金融と事業金融の規制を別にするとか、せめて景気が回復するまで施行期日(2010年6月)を延期することはできないものでしょうか。

コメント

  1. eco_and_sport より:

    日ごろは池尾氏・池田氏の論考に気づきを頂いており感謝を申し上げます。本件に関して私は過去の池尾氏の論考に同意します。

    まず貸出件数下落の原因ですが、2007年8月はサブプライムローン問題が発覚した月であったと思います。グラフはそれに起因したものと考えます。

    つぎに改正貸金業法は最良な方法ではないかもしれませんが、優良顧客を育むための法案であると考えます。

    事業向け融資や投資の現状に課題があることは同意見ですが、市場は企業と顧客が共に成長しなければ衰退するのではないでしょうか。
    市場の創造とは企業と顧客の双方の教育だと理解しています。それはファイナンス理論に裏打ちされます。

    日本の顧客市場の改善が産業を下支えすることは述べるまでもないことですが、その中で顧客の金融基盤は育むべき第一の対象だと考えます。

    事業向けはおっしゃる通り課題です。
    今回のモラトリアムにより期待できる効果や影響について論考をリクエストさせて頂きたいと思います。

  2. eco_and_sport より:

    訂正いたします。貸出件数下落ではなく下降です。失礼いたしました。

  3. kazikeo より:

    事業者向けと消費者向けが截然と区別できるようであったら、問題は簡単です。経済統計で個人部門というのが個人企業を含んでいるように、個人企業の場合に事業と生活が渾然一体となっていて仕分けが出来ないというのが通例です。区別するいい方法があるなら教えて下さい。消費者金融を資金繰りに使う可能性があるのは、個人零細企業です(旧・国民生活金融公庫の世界)。

    中小企業とはっきり分かるもの(旧・中小企業金融公庫の世界)に対しては、リーマンショック以降はかなり手厚い政策的支援措置が導入されていますが、確かに倒産件数は減っていません。かつての特別保証制度のような(実質無審査の)ばらまきをやれば倒産件数を減らせますが、今回のセーフティネット保証制度では一応審査を入れているせいか、倒産件数の減少という形での結果は出ていません。
    --池尾

  4. kazikeo より:

    なお、木村剛さんが経営に関わっている(取締役会長兼代表執行役の)日本振興銀行は、貸金業者向けの卸売り金融を(最近はかなり中心的な)ビジネスとしています。この意味で、木村さんは貸金業界と利害関係があります。別に、利害関係があると意見が必ず中立的でなくなるというような偏狭なことをいうつもりはありませんが、利害関係のあるテーマについて意見を述べる(あるいは、それを紹介する)場合には、その旨を情報開示した上で行うというのが望ましいと考えます(「李下で冠を正さず」という趣旨です)。
    --池尾

  5. hogeihantai より:

    >事業者向けと消費者向けが截然と区別できるようであったら、問題は簡単です。

    中小企業の振り出し手形、廻し手形の裏書きは会社の代表者としてでなく、社長個人の裏書きを要求されることが多いのです。その場合、債務は法人の有限責任でなく個人の無限責任となります。金融機関からの融資も実質的には法人への融資でなく個人への融資というのが殆どです。

  6. livedoa555 より:

    中小企業への貸し渋りが深刻化している原因の一つに連帯保証人の問題が影響しているのではないでしょうか。

    安定収入を得られる職業人口が減り、不安定雇用が増加し、貧富の格差が増大する背景にあって、金融機関側にとって連帯保証人として条件を満たす人が減少しているのではないかと思います。(根拠となるデータを持ち合わせていなので、個人的な推測で述べさせていただいています)

    人間関係を担保にする保証人制度に依存した融資はモラルにも反することである、という意味からも改めるべきです。

    連帯保証人制度を禁止し、借手の返済能力を正確に審査する努力を求めなければ金融機関の姿勢は変わらないと思われます。

  7. disequilibrium より:

    現実に即して考えれば、中小企業にしろ大企業にしろ、ある企業がシェアを占めている分野で、他の企業に代替が利かないというのは極めて稀(というかそれは独占です)で、特に中小企業の場合、コスト競争力や資金力の無い企業は、好況期には仕事がきても、不況期には仕事が激減するか、全く来なくなるということは十分ありえるというか、それが一般的なケースではないでしょうか。

    そのようなケースに対しては、高利率の短期融資はほとんど無意味で、不況が収束し、需要が回復するまで事業を存続し、競争力を維持するための「低利や無利子の融資」でなければ倒産を防げないと思います。

  8. disequilibrium より:

    (続きです)
    問題はそれだけでなく、そのような競争力や資金力に劣る企業が、不況を収束したときに同等の競争力を保持している保証はどこにもなく、また、業種によっては不況が一時的なものではない可能性すらあります。
    そのような事業存続の保証がどこにもなく、銀行もさじを投げた企業に対しては、ノンバンクが貸し出すにしても、個人保証を要求するのは当然のことではないでしょうか。

    その場合、もっぱら個人とノンバンクの関係が問題になり、多重債務の問題などが深刻だったので、貸金業法改正となったのではないでしょうか。

    特に、今回の不況は100年に一度の大きなものらしいので、高利率の短期融資は、ほとんど効力を発揮しないと考えるのが自然だと思います。

  9. hogeihantai より:

    disequilibriumさんへ

    商社金融というものをご存知ですか?メーカーAが直接、Bの客先へ売ると、Bの支払い手形のサイトが(例えば)6ヶ月と非常に長いので、Aは商社Cを経由してBに売ります。CはAに(例えば)3ヶ月のサイトの手形で支払うのです。Cは与信の手数料として(例えば)10%のマージンをAの販売価格に上乗せてBへ売るわけです。これが商社金融と呼ばれています。

    この場合、Bは商社のマージンが上乗せされた高い価格で買うのではなく、Aが商社のマージンの分だけ安く売るのです。上の例では10%の金利が(手形サイトの差の)3ヶ月で掛かるので実質年金利は40%にもなるのです。これは中小企業では普通に行われている取引なのです。町金融の金利20-25%が高いと思いますか?

    CREDIT CARDの手数料でも零細飲食店では5%の手数料をCARD会社に支払います。年利に直せば違法ともいえる与信行為ですよ。

  10. disequilibrium より:

    >9. hogeihantaiさん

    私は商社金融については詳しく知らないので(少し調べましたが、具体的な数字は見つけられなかった)、hogeihantaiさんの挙げられた数字で考えさせていただきますが、

    この場合、商社金融と町金融を比較するなら、その例のような取引で、商社Cを介さずに、Bが町金融から融資を受け、Aへの支払いを早めるという想定が必要になると思います。AはBからの支払いを受けられないというリスクは負えないので、Aが町金融から融資を受けてBからの支払猶予期間中に不足資金に充当するという想定はありえない。

    この場合、Bに発生する金利負担は3ヵ月分の4.7%から5.7%となりますが、AはBからの支払いを受けられないリスクを負えないので、AとBの取引成立と同時にBはAへ代金を支払う必要があり、その場合、6ヵ月分の9.5%から11.8%の金利負担が発生する。
    この数字は、10%とされる商社金融手数料より低い場合もあるが、高い場合もある。としか言えませんが。

    AがCからの3ヶ月手形の支払いを受けられないリスクもありますが、そのリスクは通常無視すると考えられるので、数字には含めていません。(支払いを受けられなければ、連鎖倒産するでしょうけど)

    AがBを確実に信用できるという想定が抜けていますが、現実的ではないので除外しています。

  11. hogeihantai より:

    disequilibriumさんへ

    メーカーや商社で営業の経験が有る方だったら、私が述べたことは常識になってますので、この説明を最後とします。

    Bが町金融から金を借りてAへの支払いを早めるということは、Aが非力な中小企業(殆どの日本の中小企業に当てはまる)であれば有り得ません。同じ手形のサイトで取引を行うメカー(Aの同業者)は他にもあるからです。現金でしか物を売らないという強気のメーカーは独占的な技術力を持つごく少数の会社に限られます。

    補足になりますが、メーカーが商社を介して売るもう一つの理由は最終顧客の信用力が低く手形が不渡りになる懸念があるからです。これも商社の与信機能といえます。

  12. disequilibrium より:

    >11. hogeihantai

    ありえないとか言われても、単純比較できないものを、比較しろと言われたから比較できるように、わざわざ様々な想定をしてまで比較したのに、それはあんまりじゃないですか。

    結局何が言いたいのですか?

  13. livedoa555 より:

    競争力や資金力に劣る企業への融資に際し、個人保証を求めることが妥当である場合でさえ、借り手以外の第三者に保証を求める連帯保証は倫理的に問題があります。

    連帯保証は、たとえ本人に支払い能力があっても、保証人に弁済を要求することを法的に認めています。

    自己責任原則からの逸脱を法的に保障する制度を見直さない限り、健全な金融市場は育たないでしょう。

  14. hogeihantai より:

    そんなに怒らないで下さい。

    >この場合、Bに発生する金利負担は3ヶ月分の4.7%から5.7%となりますが、

    どこからこういう数字が出てくるのですか?

    私が言いたいのは町金融より、合法的に行われている商社金融の方が実質金利は遥かに高い。従って30%位の金利を違法とするのはおかしいということです。私は池田さんの仰ってることに賛成だという事です。

    尚、商社のマージンは10%と述べましたが、これは金額にもよりますが、少ないほうですよ。

  15. disequilibrium より:

    >14. hogeihantaiさん

    その数字は消費者金融の金利を3ヶ月に換算した数字です。

    私がした想定でもそうですけど、町金融と商社金融では単純比較できない部分があります。
    私のした想定は全く無視でしょうか?

    ご教授いただきたいのですが、商社金融の取引でも、個人保証は求められるのでしょうか?
    もしそうでないのなら、その分が貸し倒れリスクとして金利に上乗せされているだけと見ることもできますし、個人保証に及ぶかどうかで、金利の規制ラインも変わってくると思います。

    いずれにしても、商社金融で債務者となるのはAから商品を受け取ったBであり、商品を受け取っている分だけ支払い能力が高いと見ることができます。それも単純比較できない要因ではないでしょうか。

  16. hogeihantai より:

    商社金融とはAとCの間に生じるもので、Bは全く関係ありません。商社金融では手形の振出人であるCがAの債務者となります。但し、現金と引き換えに商品がCからAに渡される場合はCは債務者となりません。

    この様に、商社金融の債務者は商社となるので、AがCに個人保証を求めることはありません。

    3ヶ月換算の金利が4.7-5.7%の金利は法定利息以下だから問題とされません。年利50%程度のものが違法とされるので池田さんも私も問題だといっているのです。

  17. hidekih_hpo より:

    みなさん当然ご存じのことかと思いますが、ここで行っている高利の融資は、ほんとうに緊急避難的に使われるのです。ですから、高利でも手を出すし、企業が救われるという背景があります。木村さんご自身がおっしゃっていたように、資金繰りは中小企業、零細企業経営の最大の苦労です。とうぢても、一時的に資金につまることがあります。このとき、100万円の年利50%金利でも、緊急事態を回避できれば経営を存続できます。さすがに中小零細でも、100万円は必要資金量の10分の1とか、100分の1でありましょう。ですから、大企業からはずっと高いのは事実でしょうが、平均してならせば通常の調達金利となり、営業利益率を下回るので、事業継続可能となるわけです。

  18. nagisawa_kano より:

    中小企業は資金が借りにくいといいますが、公的融資制度を知っていれば、そもそも銀行にさえお世話になる必要はないのです。
     http://www.city.ota.tokyo.jp/sangyo/yuushi_assen/ippan/index.html
     http://www.city.ota.tokyo.jp/sangyo/yuushi_assen/kyoka/index.html
    自治体で利子補給をしてくれるので、本人負担は年0.2%以下で調達できるのです(負担なしケースもあり)。中小企業は恵まれていますよね。

    貸し渋りはこういう制度を利用できない(=保証協会に断られるようなカツカツの)札付き案件なのですが、こういう層にまともに貸した新銀行東京は不良債権比率17.08%と、目玉が飛び出るような目に遭いました。そういう層に貸すとすると高利を取らざるを得ないのです。

    しかし、亀井大臣が本気で「銀行の貸し渋り対策」を推し進めると、我々の銀行も「新銀行東京」化するという事ですよね…。