活字文化の担い手「新聞配達員」を救え! - 北村隆司

北村 隆司

新聞協会を先頭にした著作権関係者の、政官学を挙げての抵抗にあった「公正取引委員会」が、消費者の利益を守る立場を忘れて「再販適用除外制度の見直し」をお蔵入りさせてしまった事は記憶に新しい処です。

この問題を巡っての新聞協会の珍論の傑作は、「新聞の宅配」が活字文化を守ると言う論議でした。この珍論にも拘らず、技術進歩に押された新聞業会の苦戦が始まっていますが、民主党の官僚記者会見禁止で取材体制の見直しが迫られるなど、旧秩序は取材現場でも崩れ出した事は喜ばしい限りです。


そんな矢先、知人の安富東大教授から「新聞配達をやめよ:新聞業界の大胆なビジネスモデルの転換の必要性」と言う興味深いメールが送られて来ました。

これまで、新聞業界の便利な道具としか思っていなかった「新聞配達」を、全く違った角度から観察した内容に興味を持った私は、安富先生のお許しを得てこのメールを「アゴラ」上で御紹介したいと思います。

「昨夜は暴風雨が日本中で吹き荒れた。明け方、激しい嵐の音に驚いて目覚めると、驚いたことに新聞配達のバイクの音がした。外は猛烈な雨風であり、こんなときにバイクで走り回るのは危険きわまりない、と心配した。朝起きてニュースを見ると、和歌山県で新聞配達員の方が台風の倒木と衝突して亡くなられたという記事が出ていた。台風の早朝に新聞を配達させるのは、とんでもなく非人道的な話である。
ネットを検索してみると、新聞配達員の事故死のニュースが多いのに驚いた。
「入間で死亡ひき逃げ 新聞配達バイク、72歳男性死亡」二〇〇九年二月二日。

「新聞配達の女性はねられ死亡 広島」二〇〇八年四月二五日。

「三重で新聞配達の中2ひかれ死亡 トラック運転手を逮捕」二〇〇八年十二月二六日。

「新聞配達中に保冷車と衝突 配達員の男性死亡」二〇〇八年十月三一日。

「ひき逃げ 新聞配達員が死亡…6キロ引きずられ? 大阪」二〇〇八年一一月一六日
そこで安全衛生情報センターの死亡災害データベースを見ると、「新聞販売業」の死亡事故は

平成15年 50件

平成16年 54件

平成17年 60件

平成18年 45件

と推移している。このうち大半は新聞配達中の事故である。平成16年の業種別死亡災害は「商業」が145件であるから、三分の一以上を新聞販売業が占めている。これは死亡事故だけの話であって、これ以外に多くの怪我人が出ている。新聞販売業が含まれる「小売業」の労働時間あたりの死傷事故度数は2.76であるが、これは全産業の1.78を大幅に上回る。また、配達員が人に怪我を負わせるケースもあるだろう。人の命と引き換えにしてまで、新聞を家で読みたい人がどれほどいるのか、真剣に検討せねばならない。
これ以外にもバイクで行われる新聞配達は、大気汚染と温暖化ガス発生を引き起こしている点にも注意すべきである。住宅街を走り回るバイクは、朝の清浄な空気を著しく汚染する。
情報通信は急激にデジタル化が進んでおり、紙媒体はインターネットに押され続けている。新聞各社がこれ以上、無理のある紙媒体の全家庭への配達という百年前のビジネスモデルに固執することは、新聞業界の斜陽化をもたらすのみならず、大気を汚染し、低賃金で過酷な条件で働く販売員の方々の命を奪い続けることを意味する。彼らの雇用は、業界各紙が大胆なビジネスモデルの転換に挑戦し、情報通信界にイノベーションを起こすことを通じて、確保されるべきである。」
このデータが間違いでなければ、新聞協会は「活字文化の担い手」の最前線で苦闘する「新聞配達員」の、安全と命を守る対策を講ずる義務があります。厚生労働省も、担当の記者クラブに遠慮せず、速やかに危険な職場環境を改善する措置を取るべきでしょう。

ニューヨークにて 北村隆司

コメント

  1. ゆうき より:

    朝4-5時くらいに外にでると新聞配達に遭遇します。配達してる人をみると、うちの近所では高齢者が多いようです。手押し車のような専用の台車をおして、一軒一軒配達しています。雨天でなければ、たいへんな仕事でもなさそうなので、朝の軽い運動をかねて賃金ももえられるいいバイトなのかなと思っていました。

    しかし、この話をきいて認識をあらためました。たしかに台風の日でも新聞は配達されますもんね。