世代間デジタル・デバイド - 池田信夫

「よきにつけ悪しきにつけ、もっとも危険なものは既得権ではなく理念である」というのは、ケインズの『一般理論』の最後をしめくくる有名な言葉だが、私は理念より危険なものがあると思う。それは無知である。


記者クラブも、前にも書いたように経営の重荷になっているのに、それを知らない老人経営者が独占を守ろうと政治工作をしている。新聞業界が激しいキャンペーンで守っている再販・宅配制度も、毎日や産経などにとっては重荷になっている。出版業界でも、委託販売でリスクを負わない小売店が過剰発注するため、40%を超える返品によって零細な出版社の経営が立ちゆかなくなっている。

長期雇用や年功序列などの「日本的雇用慣行」も、今は既得権のようにみえるが、今の40代以下にとってはリスク要因になる。いくら雇用を守っても、企業そのものが消滅したら、雇用は守られない。JALの例にみられるように、年金さえ大幅に削減されるかもしれない。そうなったら、年功序列や天下りを当てにして会社や役所に奉仕した人生は報われない。

しかし50代以上の経営者は、こういう実態を知らない。その典型がNHKだ。先日もあるパーティで後輩に会って「最近どう?」ときいたら、「あの経営陣では、何を報告してもわかってもらえなくて・・・」と嘆いていた。会長はビール会社の元社長だし、理事もディレクターや政治部の記者が多く、キーボードにさわったことがない人もいる。そういう人はネット配信は「技術的な問題」だと思っているので、技術担当の理事にまかせてしまう。他方、テレビ技術者は「ネットなんて放送じゃない」とバカにしているから、なるべく本業のじゃまにならないように最小限にネット配信をやる。

私の印象では、こういう世代間デジタル・デバイドともいうべき亀裂が、役所と企業とを問わず世代横断的に走っていると思う。その境目は現在の50歳ぐらいで、私などはデバイドされているほうだろうが、失うものがないので、わりあい客観的に見ることができる(と思う)。私と同年代の経営者や官僚になると、部下から「一次情報」が上がってくるので、外部のメディアの客観的な情報より都合のいい身内の情報を信じる確証バイアスが強い。

こういうバイアスはある程度はどこの国でも見られるが、日本で特にその傾向が強いのは、年功序列によって団塊世代のアナログ老人がいつまでも経営者や官庁の幹部に居座っているためだろう。これは残念ながら、今から教育しても無駄で、彼らが退場するのを待つしかないが、それにはまだ時間がかかる。ビジネスマンは手遅れにならないうちに、つぶしのきくスキルを身につけて転職するか起業するなど、人生のオプションを広げておいたほうが安全だろう。

コメント

  1. somuoyaji より:

    返本により経営が危ういのは、人も金も乏しく取次店にも袖にされ小部数しか刷れないような零細出版社ではないでしょう。自転車操業そのものなのは、過剰な点数を過剰な部数出版し、書店特に大書店から大量受注し取次店の協力により金を回していく、そして結局はその大部分が戻ってくるような出版社。まあそれでも一発当たれば。
    仮にこの規模の出版社が返本に対するペナルティを設定したとしても立場を考えれば有力な書店には適用しにくいと思われます。なお、書店には入荷時点で請求が発生するので現行の委託制度は実質的には返品条件付買取です。だから書店は請求額を減らすために早めに返本をすることになります。