対中貿易を考えた時の通貨の流れ - 小谷 まなぶ

小谷 まなぶ

 私は、国際貿易を行っている都合上、常に為替の変動について、非常に興味を持っています。その中で、日本と中国との取引を行なうにあたり、お金の流れがどうなっているか話をしたいと思います。
 中国の基軸通貨は、アメリカドルです。対中国取引で通常使われる通貨は、アメリカドルになります。
  


 例えば、日本の企業が、中国の企業から商品を購入したいとします。その支払いは、日本の銀行から、電信送金で、アメリカのニューヨークの銀行に送られ、日本円をアメリカドルにして中国の銀行にドル送金されます。海外送金に関しては、アメリカの中継銀行を通して、中国に送金されるようになっています。
 日本は、中国から物を買うのに、直接、日本円では買えないことになっています。それは、日本円は、中国から見て基軸通関になっていないからです。中国との取引を実施するにあたり、常に、日本円⇔アメリカドル⇒人民元という流れで、両替をして支払いを行なっています。

  
 現在、米ドルと人民元の交換レートは、USD1=6.8人民元 というレートで安定していますが、万一、米ドルが、対人民元に対して、大きく下落することがあれば、日中間貿易で、日本の経済に関係なく米ドルの変動によって、取引の為替レートが大きく変わってしまいます。今、日本と中国の貿易取引額は、アメリカとの取引を抜いて、第一位の貿易相手国になっています。日本にとって安定的な国際貿易をおこなうためにも、日本円と中国人民元が、直接両替ができ、取引できる環境の整備というのが大切ではないかと思います。
 
 対アジア政策を考えている日本ですが、通貨ということで、アメリカから離れられないということではないでしょうか?

 

コメント

  1. jinshang より:

    貿易決済の実際をよく知らないのでご教示いただきたいと思います。
    財務省の統計資料には「貿易取引通貨別比率」というのがあって、それによると、日本の対アジア輸出の47.9%、対アジア輸入の27.7%は円建てで取引されているとのことです(恐らく海外現法と日本の本社間の親子取引が中心だと思います)。
    http://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/tuuka.files/tuuka21fh.pdf

    「円建て取引」の意味は、売買(輸出入)契約の当事者同士がモノの値段を円で決めるということだと思います。日本企業は取引の相手さえ同意すれば、円建てを選択することにより為替リスクを負わなくて済むことになります。
    小谷さんがコラムで言っておられることは、恐らく「そうして円建てで契約しても、実際の決済送金はドル両替を経由して行われるのだ」ということだと思います。そういう理解でよろしいのでしょうか。

  2. bobby2009 より:

    >その支払いは、日本の銀行から、電信送金で、アメリカのニューヨークの銀行に送られ、日本円をアメリカドルにして中国の銀行にドル送金されます。

    日本の対中取引には、国内から直に中国側と取引する方法の他に、香港にある日系企業経由での対中取引があります。華南にある日系工場との取引は基本的に香港経由でお金が流れます。

    中国と香港(日系企業)との決済は、これまではUSDが主体のようでしたが、最近は実験的に人民元での直接決済を始めました。香港の他にシンガポールとの決済でも実験を行っているようです。

    【国際貿易における人民元の試験的決済開始3ヶ月で深セン取引量を独占】
    http://www.nacglobal.net/2009/10/rmb-settlement-shenzhen-dominate-volume/

  3. jinshang より:

    bobby2009さん

    早速のお答えありがとうございます。
    やはり、円建てによる輸出入でも、そのための送金はドルを経由してしか行えないのですね。

    ただ、そうすると、「人民元の直接決済」の方はどうなっているのでしょう?これは、私の整理の仕方に従えば「人民元建ての輸出入」の話なのでしょうか、それとも「人民元はドルの両替を経由しないで、ダイレクトに他通貨との両替が出来る」という話なのでしょうか。
    香港・マカオは人民元流通圏みたいなものだから、少し特殊かもしれませんが、シンガポールとの間での「人民元直接決済」というのが、ドル両替を間に挟まないで決済が出来るということだとすると、日本が30年間かかっても成し遂げられなかった通貨の国際化を、中国はあっと言う間に実現してみせたということになるのでしょうか。

  4. 小谷 まなぶ@中国・上海 より:

    > jingshan さんへ
    >bobby さんへ

    コメント有難うございます。
    円建てで契約書を作っても、決済は、ドルの換算レートで人民元と両替されます。
     日本の企業は、円建での契約書をつくりたがりますが、それは、日本円の変動が大きいので、日本側の為替リスクを減らしたい考えが強いからです。しかし、実際に、中国に支払う際には、中国政府の管理する役所、外貨管理局での支払いレートは、人民元とドルとのレートでの換算です。
     結局は、日本円⇒ドル⇒人民元という流れで為替相場は決定しています。
     bobby2009さんが、書いている通り、人民元での試験的国際貿易の決算を行っています。
     それは、華僑の多い国が対象ですので、対日貿易では、やはり、ドル決算でおこなっています。私のクライアントで、シンガポールの企業がないので、人民元決算での取引をためしたことがないですが、通貨の為替リスクというのが、貿易会社にとっては、非常に怖い部分でもあります。
     何れにしろ、日本が基軸通貨になれていない事実、ドルに依存しなければ、中国から物が買えないという事実があると思います。
     年間、20兆円以上あるという対中貿易で、ドル依存での貿易では、少し悲しい気がします。