弁護士は多ければ多いほどよい - 池田信夫

池田 信夫

「アゴラ」は本来、論争の場としてつくったのですが、どうも一方の意見ばかり出てくるので、あえて反論します。岡田克敏さんの意見は、マスコミ批判と司法試験の問題がごちゃごちゃになっています。前者は日弁連の新会長と無関係なので、ここでは後者だけを論じます。


弁護士は多いほどよく、免許は必要ない。その理由は簡単です。本人訴訟が免許なしでできるのに、代理人に免許が必要なのは論理的におかしい。「濫訴を防ぐ」という目的なら、本人訴訟も免許なしで行なうことを禁じるべきです。「弁護士の仕事は依頼者との情報格差が大きいため、依頼者が仕事を評価することは困難」だというのは免許の理由にはならない。フリードマンが指摘したように、資格認定で十分。弁護士も普通のサービス業と同様に消費者が市場で選べばよく、弁護士が多いほど競争によってサービスの質も上がる。

どんな職業にも競争はあります。コンピュータ・プログラマも失業する人がたくさんいますが、「プログラマ免許」をつくって合格者を1500人にしろという人はいない。そういう主張をするのは、宇都宮氏のように需要と供給を無視して商品を「配給」すべきだと考える社会主義者だけです。彼のような人物が会長になる日弁連も、市場原理を知らない集団だと世間に宣伝しているわけです。

同じことは税理士にもいえます。本人が税務申告できるのに、なぜ代理人に免許が必要なのか。その理由は簡単です。税理士が国税庁OBの天下り先になっているからです。職業免許の大部分は、こうしたギルドの現代版です。外科医など生命にかかわる職業以外の免許はすべて廃止し、資格認定にすべきです。

コメント

  1. taru77 より:

     これには反対です。岡田さんの意見のうち、弁護士たちが自分でパイを増やそうとするインセンティブに触れられていない。弁護士たちは「コンプライアンス」「企業の社会的責任」などを訴え、法律を守ることが即ち「善」であるという社会気運を醸成しようと躍起になっているし、法律を強化することで仕事を増やそうとするインセンティブがあり、実際にその方向に向かっています。
     現状では、彼らの人数が増えたところで「競争」などは起こらず、法律を強化しよう、法律を守らない行為(本人の許諾がある私権の侵害を含む)を許さない社会にしていこう、という「パイの拡大」が起こるだけです。そしてそれが、池田さんの嫌いな「大きな政府」を招く。
     岡田さんは理想的な競争環境が整っていない状態で、法曹人口だけを「規制緩和」してもそのような弊害が起こるだけだということを言っているのであって、法曹の人数抑制が理想的な法曹資格制度のあり方だと言っているのではありません。理想や理論と現実を混同してはいけません。池田さんにしては珍しく、完全に的外れな反論だと思います。

  2. jonias より:

    橋下徹氏も、同様のことを述べていますね。

    【橋下日記】(11日)「司法試験合格者を減らす案には大反対」
    http://sankei.jp.msn.com/politics/local/100311/lcl1003112046010-n1.htm

  3. https://me.yahoo.co.jp/a/u540mrdbVIb5etvNTFCFUJ40iuo-#576de より:

     タイトルが良いですね。ラーメン屋だってタクシーだって多

    ければ多いほど消費者にとってはメリットが大きい。
     しかし岡田さんのご主張は、池田さんは見ていないだろうけ

    ど某弁護士のエントリーそのもので、マスコミ批判はオマケ程

    度でしょう。
     職業免許(いわゆる業務独占資格)は拡大の一途をたどって

    おり、官製資格商法と化しているのが現実です。
     池田さんが「職業免許の廃止」を主張された以降も、この流

    れはむしろ加速しておりますし、これを止めるのは容易ではあ

    りません。
     なぜなら既に資格を持っている方が反対するからです。
     個人タクシーの免許緩和を求める第二種運転免許保持者が、

    二種免許を廃止し一種免許にも旅客運送を認める事には大反対

    するでしょうな。
     こういった庶民の弱みにつけ込んで私腹を肥やそうとする連

    中が私は許せません。
     かといって、投票行動しか武器が無いし、その行使先が見つ

    からないのが現実で、とても歯がゆいです。

    (800文字制限に引っ掛かりかなり端折りましたが、800バイト制限が現実?)

  4. mukaihidemasa より:

    ふと思い浮かんだのは、特許薬品とジェネリックの関係でした。

    過払い返還などは、弁護士と司法書士の独占すべき内容の仕事ではありません。

    サムライ業の独占業務も事業仕分けの対象でしょうか。

    本来だれにでもできる仕事でも、独占権がなくとも、稼げるビジネスモデルを作るのがいいのかもしれないが、これが難しいということでしょうか。

  5. 弁護士が“正義を守る”“弱者を守る”という人でないと,どういうことになるでしょう。弁護士の行動原理の中心に経済的合理性を置いて,お金を追求しないと淘汰されていく状態に置くと,法治国家が根底から崩れ落ちるでしょう。“暴力”が社会の紛争解決の第1の手段として復活するでしょう。たとえば“顔の効く”そのスジの人間が,法律以前に弱者を黙らせ泣き寝入りさせる世界です。またそのような人間が,ダンピングされた弁護士資格を取れば,まさに“鬼に金棒”で好き放題です。現在,青びょうたんの弁護士が弱者の代理人として,危ない金融の事務所に立ち入って仕事ができるのは,正義感を持った人間のみに法律という“武器”の使用が限定されているからです。

  6. ikuside5 より:

    弁護士の増員によって日本が極端な訴訟社会になって大変なことになるという意見には、あんまり説得力は感じられませんね。そもそも法治国家なわけですしそれならそれで結構なことではないですか?それにすでに訴訟ビジネスのようなことは多方面で弁護士の介入がなくとも起こっているわけですし。ですので、自由化につながる改正には全く賛成ですね。自由化することで教育課程における学ぶ側の負担コストも削減できるのではないですか?いいことだらけのような気がします。

  7. eacat より:

    普通の能力をお持ちのかたであれば誰でも出来る相続放棄の簡単な手続きに何故10万円もの金額が要求されるのか?。これに全てが現れているでしょう。

    簡単な事はネットに掲示されているのですが、いざそれを実行しようとすれば、役所が独占してきた形式の壁に直ぐ突き当たります。これを一つづつクリヤして行くのは結構メンドクサイもの。だが理解さえすれば、本当に誰でにもできる簡単な事。

     一部の仲間にしか解らないように、あえて形式を隠しメンドクサクしているとしか思えないこの仔細情報を、誰の目にも触れられるようにしさえすれば、こんな事に10万円もの金額を支払う必要などない。

     新しい技術であれば、それはブラックボックス化しても構わないだろう。しかし、法は全ての国民共有のもの。わざと難しい単語を使い、国民に理解しづらいものにしているのは、親しい仲間達と隠語で喋り合いその利益を独占しているようなもの。
     訴訟はあくまで個人が行うもので、補佐するのが弁護士の役目だろう。寿司屋でもあるまいに、相談料時価とは何んだと言いたい。

     

  8. sil より:

    >>彼のような人物が会長になる日弁連も、市場原理を知らない集団だと世間に宣伝しているわけです。

    市場原理を知っているからこそ、所属ギルドの利益を最大化するために合理的に行動しているんですよね。だからここは「職業倫理にそむき自分たちの利益のみを追求する集団と世間に宣伝している」ではないでしょうか。専門職ギルドが自らの利益を保護し最大化するのはむしろ当然で、そのことで彼らを責めるのは筋違いと思います。

  9. ruminant より:

    「本人訴訟が免許なしでできるのに、代理人に免許が必要なのは論理的におかしい。」というのは,あまり納得できません。なぜなら,日本で訴訟(を含む法律事務の)代理人に資格を要求しているのは,紛争処理からいわゆる事件屋を排除するためだからです。また,合理的な範囲での裁判所の負担軽減のためでもあります(本人訴訟の相手だけでも相当の負担になっています)。

    ですから,訴訟代理人の資格を限定することには,論理的におかしいところはなく,十分な合理性があります。その意味では,「資格認定制度にせよ」というのは,極論であって現実的でありません。個人的には,法曹資格者をさらに増員した上で,先生もおっしゃるように本人訴訟を禁止するのがよいのではないかと思います。

  10. https://me.yahoo.co.jp/a/u540mrdbVIb5etvNTFCFUJ40iuo-#576de より:

     3のコメントを書いたものです。変な改行が入り大変失礼しました。
     皆さんのコメントを見て、世の中捨てたものではないなという印象です。
     silさんのコメント(No.8)は「ナイス!!」と拍手をしてしまいました。
     でも「彼らを責めるのは筋違い」かも知れませんが、誤った主張を発信しているのも事実です。
     責めるのでは無く、間違いを正すということならどうでしょう?
     ruminantさんのコメント(No.9)は確かに私も同じように感じた時期もあります。示談交渉に暴力団の介入を許す事になりかねませんからね。
     過払い返還訴訟以前の弁護士の主な仕事は交通事故の示談だったはずです。(今でも主流かもしれないが)
     では、弁護士と事件屋の区別はなんでしょうか?
     弁護士なら懲戒請求できるから自制が働くという論理もありますが、橋下知事の件で懲戒請求に歯止めがかかってしまいましたから意味なしですね。