弁護士は競争環境に馴染むか - 岡田克敏

岡田 克敏

 池田先生、ご意見をいただきありがとうございます。
私の前記事の主旨はマスコミ批判ですが、マスコミの認識の一面性を説明した部分が長くなり(ちょっと力が入りすぎました)、そのように受けとられたかもしれません。


 職業は自由に選べるべきであり、自由な参入によって競争が機能する社会の方が効率的であるということには一般論として賛成です。そして利用者にとっても利益は大きいと思います。また業界を保護するのが存在理由と思われるような免許制度も多いと感じます。

 しかし医師や弁護士は依頼者の生命・財産に大きな影響与える立場であり、選んだ医師や弁護士が不適切であれば、取り返しのつかない結果になる可能性があります。つまり命や財産を失うこともあり得るという結果の重大性です。

 また競争によって不適切な医師・弁護士が排除され適切な者が残るためには、依頼者側が彼らを評価・選別できることが必要です。とくに一般の人が弁護士に依頼することは一生に一度あるかないかでしょうから、適切な選別は困難です。したがって依頼者による淘汰を受けにくいと思うわけです。

 また依頼した結果がよかったのか悪かったのかという評価も専門的な知識のない素人には簡単ではありません。症例や事件の内容が個々に異なることも評価を難しくします。これらも淘汰を妨げる要因になると考えられます。

 これらのことを考慮すると公正な市場形成を期待することは難しいのではないかと思います。

 そこで依頼者に代わって第三者によって一定レベルの技術・知識を備えていると認定することがやはり必要かと思われます。ただ最低レベルの技術・知識は保証できても、倫理面まではチェックのしようがないので、限定的なのは仕方がありません。

 特定の集団が市場を独占し、競争制限が起きることの弊害は当然あると私も思います。意見が異なるのは市場原理に委ねる場合、十分に公正な市場環境が期待できるか、というところだと思います。

 税理士については概ね同感です。医師や弁護士ほど重大な結果を招くことは一般にないと思われるからです。また一部解釈の違いなど微妙な部分もありますが、依頼者による仕事の評価は比較的容易です。

 ところで池田先生は「免許」と「資格認定」とを区別されています。文脈から判断すると「資格認定」はより簡単なものというように受けとれますが、具体的にはどのようなものを想定されているのかわかりませんでした。

コメント

  1. j_izayoi より:

    免許:本来であれば可能な行為を一般的に禁止し、特定の要件をクリアした人にのみ、
       その禁止を解除すること。 ex)運転免許

    資格認定:誰でも自由に行為可能だが、専門知識があることを保証する制度。
       ex)TOEIC

    池田先生のエントリを読んで、このような違いだと考えました。
    僕も法律職は資格認定で十分ではないかと思っております。

    普通の人であれば認定資格のある人間に依頼するでしょう。
    その場合、資格を更新制にしたり、法テラスのような組織で認定者を紹介すれば、
    ある程度の質を保つことは可能ではないでしょうか。

  2. https://me.yahoo.co.jp/a/u540mrdbVIb5etvNTFCFUJ40iuo-#576de より:

     岡田さんにアドバイスさせていただきます。
     経済学のシグナリング、スクリーニングという用語をお調べになった方が良いでしょう。
     また池田さんが使い分けている用語である「免許」と「資格」については、今回の文脈だけでなく池田さんのBlogの過去ログを見るべきです。
     職業免許の廃止は一貫して主張されていますし、沢山付いたコメントも必読です。
     殆どの読者の方は「免許=業務独占資格」、「資格=名称独占資格」と解釈していると思いますよ。
     他にシグナリングとして検定試験や、TOEICの様に合否ではなく数値で示すものもあります。
     業務独占資格で無くても、何らかのシグナリングは可能であり、消費者が品質と価格を見定めトレードオフすれば良いだけですね。

  3. Yute the Beaute より:

    結論から先に言ってしまえば、馴染みます。

    ちょうど私の留学中にイングランドではCourts and Legal Services Act 1990が施行され、法曹界における諸業種の独占(事務弁護士による不動産関連の仕事や、法廷弁護士による法廷弁論など)が撤廃され、原則として法曹サービス利用者にとって不利な慣習や独占状態を不法としました。

    法曹界の人間や、当時法曹を目指していた我々学生にとってはいささかありがたくない改革でしたが、「象牙の塔」の外を眺めれば、所詮我々は少数派でした。

    あれ以来イギリスの法曹の質が低下したという話は聞きません。

    Legal Services Ombudsman制度など、この先例には学ぶべき点が多いと思います。改革に30年かかったということも含めて。

    矢澤 豊

  4. Yute the Beaute より:

    なおご参考までに、おおざっぱな数字を申し上げます。

    私と同期で法廷弁護士を目指して修習所に入学した学生は約1,200人でした。入学に際しては大学卒業時の成績を基準として、ふるいがかけられます。修習所を卒業出来たのは、この内、約80%でしたが、実地研修(pupillage)の場を得れたのは、約800人。前期・後期と分かれる1年間にわたる実地研修で、後期が開始した時点で生存者は約400人。実地研修を無事終えて、事務所(Chambersとよばれる)に席を得て開業できたのは、またこの半数の200人ほど。その後4・5年するうちにこれが半数ほどになっています。

    あまりに「サバイバー」なキャリアです。

    現在では法廷弁護士修習所が一カ所だけではないので(以前の法学院による独占状態は、違法との見解を受けて)、競争はますます激しく、最近の実地研修の申し込みは10倍から20倍の競争率という話をききます。

    イギリスの弁護士から見れば、日本の修習生がうらやましいのは間違いありません。しかしイギリスの一般の人が、日本人より質の悪い法曹サービスを受けているという話は聞きませんね。

    矢澤 豊

  5. p6zrx より:

    「一般の人が弁護士に依頼することは一生に一度あるかないかでしょうから、適切な選別は困難です。」人が法律問題に直面するのは日常茶飯事のことでしょう。それにもかかわらず、このように思われているのは、実は弁護士費用が高いために敷居が高くなっているだけではないですか。日常直面する大小の法律問題について気軽に安価で専門家に相談できるようになれば、一般の人の弁護士選別眼も洗練されていくと思われます。
    「第三者によって一定レベルの技術・知識を備えていると認定することがやはり必要かと思われます。ただ最低レベルの技術・知識は保証できても・・・」今の司法試験は実務を行うための「最低レベル」の知識を試しているのでしょうか。ほとんどの外国では、より簡単な試験で資格が付与されていますが、実務の機能に大きな支障があるとの話は聞いたことがありません。

  6. jnuxcom より:

    特別な職業だから?

    タクシー運転手・バス運転手・介護ヘルパーは生命に大きな影響与える職業です。
    税理士・不動産営業職・証券保険営業職は財産に大きな影響与える職業です。
    農業・漁業は、人間で最も大切な食料を通じて生命に大きな影響与える職業です。
    教師は、教育という将来の日本にとって最も重要役目を担う職業です。
    新聞・放送局は、民主主義で最も大切な言論の自由を扱う重要な職業です。
    スポーツ選手・芸能人は、国民に喜びと感動を与える、非常に重要な職業です。

    自分たちは特別な職業だから、自由競争には馴染まない、規制や補助金で保護しろ!
    他業種が自由競争で、料金が安くなりサービスが向上するのは賛成だが、自分が競争するのは絶対反対!

    「特別な職業だから特別扱いしなさい」には反対ですが「公正なルールが実施されないと(繰返し取引しない商品)や(情報格差のある商品)の自由市場では、詐欺師・ペテン師が得する社会になる」には同意いたします。
    考えるべきは、正直者が得するルール(良い医者・弁護士が消費者に分かる)を考えることであって、自由市場・競争を否定することではないと思っています。

  7. susumu_2009 より:

    岡田さんのご説明は、情報非対称性のある市場における認定資格の必要性を指摘するものですが、その点については池田さんのご意見も同じと思います。ただ独占排他の免許の必要性まではなかなか説明できませんし、客観的にみてやはり不要なのでしょう。

    数を増やすことは可能でしょうが、資格の性格まで変えるのは世界的なスタンダードを変えることになるので現実的には相当難しいでしょうね。

  8. 池田信夫 より:

    「免許」と「資格」の違いを理解していない人が多いが、上のコメントでも指摘されているように、私は資格認定の必要性は否定していない。無免許営業を禁止する合理的な理由がないといっているのです。

    それに弁護士は代理人にすぎない。依頼人が気に入らなければ解任すればよいし、判決を出すのは裁判官です。医学にたとえれば、弁護士は医師ではなく看護師のようなもので、そのサービスが法的な結果を決めるわけではない。

  9. ikuside5 より:

    医師にも言えることだと思いますが、職業人としてバリバリにキャリアを積んでカリスマ的な存在になっていく人もいれば、顧客の身近なところで相談員的に待機していてくれる人もいればいいわけで、同じ職業でもいろんな営業形態があればいいと思うのですが、結局は顧客ニーズがすべてだと思うので。
    その上で資格の運用に関しては、注意しないと事実上の免許制度みたいになってしまうことはあるかとは思いますので最後のところの御懸念?はよくわかりますが。

  10. kakusei39 より:

    裁判の結果はオープンなのですから、必要性があれば弁護士等の代理人の能力を示す実績データのサイトを作るのは可能だと思います。

    それを見て、誰を弁護士にするかを決めれば良いだけだと思うのですが。

    誰に弁護を頼むかは重要ですね。また、弁護士の得意分野がありますから選択する時は、要注意です。

  11. c_rick より:

    両氏の議論を興味深く拝読しております。
    今後も様々なテーマについてこのような議論が行われてほしいと思います。

  12. courante1 より:

    皆さん、いろいろと親切にご教示をいただき、ありがとうございました。資格認定の意味はよくわかりました。
    それによって一定のレベルを維持することができれば、情報非対称性のある市場における私の懸念は解消されます。独占の必要性はありません。この点については池田先生に対して、私の誤解がありましたが、納得できました。

    またイギリスの事情などを紹介していただき、大変興味深く拝見しました。

    時間をとっていただき、感謝します。

  13. sincosintan より:

    ?生命・財産に関わる大事なことだから、弁護士には独占的免許が必要:
    → これは10年前の金融危機の際に「銀行は大事なおカネを預ける会社だから潰すのは絶対ダメだ」と主張していた人たち(旧大蔵省など)と同じ論理。長銀や拓銀、山一證券が潰れても、結局「日本発の金融危機」になることはありませんでした。その後、セーフティネットの整備が進んで、今では預金の全額保護も無いし、経営が悪ければ銀行も潰れます。「基本的には競争原理に任せ、綻びは最小限の法的手当てでカバー」する。これが一番いいです。
    ?弁護士の仕事を素人(依頼者)が評価することは難しい:
    → 心配無用です。弁護士のあらゆる作業項目や顧客対応、料金、訴訟の勝敗数を整理して評価する「弁護士格付け会社」がすぐに立ち上がり、インターネット上で有料のデータベースを公開することになると思いますよ。現状ある「消費者は弱者だから保護すべき」という論理は(たとえそれが善意であっても)守旧派に利用されやすいから要注意です。

  14. jij999 より:

    ドイツとかイギリスとかアメリカの弁護士は、タクシーやトラックのドライバーで生計をたてている人もいるぐらいです。

    日本でも、増やしたらambulance chaserとか医療訴訟オタク弁護士が現れるかもしれないけど、今でも十分へんなのはいっぱいいますよね。そういう個別的な問題は個別な法規で対処すればよいでしょう。

  15. mkuji より:

    「情報非対称性があるから依頼者は弁護士の仕事を評価できない」について

    弁護士の数が増えれば他の弁護士(数人)にセカンドオピニオンをしてもらって、今頼んでる弁護士の仕事を評価できるでしょう。

    依頼する前にも、数人の弁護士から相見積りをとって費用や仕事内容を比較してどの弁護士にするか選択すればよい。

    そういうのは、弁護士の数が多くならないとできませんよね。