NHKがGoogleに番組販売を開始する意味

2010年12月28日 10:53

仄聞する所、NHKがGoogleに番組販売を開始するのだそうだ。情報通信産業は成長が期待される数少ない分野であり、その成長の為にはコンテンツのネット解放とそれに連動する電波帯域割当再調整がマストと考える私に取っては無論朗報である。
しかしながら、Googleはまるでギリシャ神話に登場するミダス王が手に触れる物全てを黄金に変えてしまう様に、手がける案件を悉くポップでメジャーなサービスに変えてしまう魔法の手を持つ一方、破壊的イノベーションを継続させ、彼らが主張する、あるべき未来を形作ると同時に古い世界を焼き尽くしてしまう、破壊の大魔王でもある。それ故、NHKに留まらず、民放、スカパーを中核とする衛星放送業界、ケーブルテレビ、放送を広告媒体として取り扱う電通等広告代理店そしてテレビ受信機を製造する家電メーカーに多大な影響を与える筈だ。阿鼻叫喚のシーンもあるかも知れない。此れから述べるのはそんな未来予想図である。


今回の提携に関し詳細な情報が無いので推測するしか無いのであるが、Googleは購入した番組を一旦分類しメタデーターにタグ打ちしクラウドに格納すると思う。一方、視聴者に対してはアプリを無料公開し彼らのスマホにダウンロードさせる事でごつくて、重くて、使い辛いテレビ付属のリモコンでは無く普段使い慣れたスマホで操作可能とする筈である。iOSにも無論対応するだろう。

此れには三つの意味があり、それぞれ重要である。一つ目はリモコンとしての操作性の良さで此れはテレビリモコンが従来の機械的な物からアプリに取って代られる事を意味する。今後リモコンに限らずメデイアに拘わる多くのDeviceがアプリに取って代られるであろう事を黙示している。

次に、Twitter等Socialへの対応である。スマホはテレビのリモコンのみならずTwitterにも使えると言うのは間違いでそもそもTwitter用のDeviceである。此の意味する所は同じ番組をシェアする明確なクラスター(葡萄の一房)の誕生であり個人は葡萄の一粒であると言う事実。嘗てテレビ局の前にあったマスが消滅し代って様々なクラスターが出現したのである。従って、従来のマスありきの広告手法は使え無くなる筈である。

最後は、リモコンであるスマホそれ自体が受信機である事。伝送路の観点から言えば当然無線通信用の帯域を増やさねばならない事自明。一方、Googleは誰(どの端末)が何時、どの番組視聴したかのデーターを手にする訳で嗜好と行動パターンを理解した上でのアドバイスを位置情報も把握して通知可能である。
此の意味する所は、従来のマス広告がビル屋上の看板とするならば、Googleの場合は新宿や渋谷の街を歩いてる若者を手を引き行きたがってる飲食店に連れて行き50%割引にしたり、靴屋迄連れてゆき50%割引の靴を紹介してあげる事である。此れでは従来のマス広告が対抗出来る訳ない。

民放が苦しそうなのは判ったが、NHKは果たして無傷で済むのだろうか?
今回と類似のビジネスモデルとしてゼンリンデータコム(以後ゼンリンと表記)の対Google地図データの販売を検証してみたい。

ゼンリンは地図データをGoogleに販売すると同時に地図データーの上に乗せたWeb上での有料サービスで無料サービスを提供するGoogleと激しく競合している。Googleの無料サービスの地図データーは全てゼンリンからの調達と言うのが従来の垂直統合型商流に慣れた人間には多少理解し辛い所あるかも知れない。

ゼンリンに取ってGoogleは無論最大顧客である。それ以外にも地図と言う地味でどちらかと言えば陳腐で有触れた商品をGoogleが扱ってくれた事でメジャーで人気の商品にしてくれた大恩人である。一方、既に述べたがゼンリンの商品とほぼ同じサービスを無料で提供する「悪魔」でもある。

従って、ゼンリンは有料商品である自社商品を無料のGoogle商品と明確に差別化しユーザーに対しそのメッセージを出し続ける必要がある。価格設定に就いても何分無料サービスとの競合なので頭の痛い所だろう。想像するに、サービスであれ、コンテンツであれ有料サービスである限り、Googleとの競合は壁打ちテニスの様な物で強い球を打たねば市場で淘汰されてしまうし、強く打てばそれだけ強い球が返って来る訳である。参加者はゼンリンの様に歯を食い縛り返球に追いつき、強い球を打ち返し続けるしかない。

私の疑問は今回NHKがGoogleに番組販売を開始するに辺りこれ等を果たして真剣に検討したのか?と言う事である。
もっと露骨に言えばクラウド経由、何時でも、何処でも、端末を選ばずNHKの番組視聴が可能な環境下で電波帯域に紐ずく「受信料」成るものが今迄同様徴収出来るのか?と言う疑問である。個人的直観で恐縮であるがゼンリンの有料サービス同様Googleサービスとの差別化を図った上での視聴契約締結に基づく視聴料の徴収が妥当なのではと思うが。無論、価格設定は何処まで差別化出来るかに拠るがNHK希望より一桁少ないと予測する。もしNHKがこういった予測もせずに今回の番組販売を決めたとしたら余りに能天気だと思う。無論、天下のNHKだから何か腹案あるのであろう。

15年前と変わる事無くデジタル多チャンネルと称し、何らコンテンツを整理する事無くチャンネルを垂れ流すスカパーと此のプラットフォームに乗る衛星放送各社は苦難の局面を迎える事に成るだろう。弱いチャンネルは淘汰され、強いチャンネルはゼンリン同様Googleとの提携に活路を求めるのではと思う。そこにあるものは壁打ちテニスの終わりの無い苦行なのだが。

ケーブルテレビは更に苦しいのではと思う。NTT東西のフレッツを仮想敵に見立て経営計画立てたのが良くなかった様である。Googleから観ればFTTHとHFCの差異等どうでも良い話の筈。ケーブルテレビに取って最大の敵は無線通信であり
スマホをポータルに見たい番組を家庭のテレビであれ、スマホであれ自在に視聴出来る仕組みである筈だ。更にスマホ経由twitterに繋がりクラスターを形成しながら視聴者拡大されればケーブルテレビは指加えて観てるしか無いのではと思う。かと言って無為に過ごせば3年で山奥の炭焼き小屋に成ってしまう。今が正念場である事は事実である。

家電メーカーは取敢えずはYouTube搭載をDefaultにすれば何ら問題無い。寧ろ販促に有効であろう。将来のGoogleテレビは別の話として。

山口巖(ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役)

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