一部に増税オールスターズと囁かれている菅内閣だが、当然のように「増税の前にやることがある」との批判が浴びせられている。当時、副総理兼財務相であった菅氏自らも「逆立ちしても鼻血も出ないほど、完全に無駄をなくしたといえるまで来たとき、必要であれば(消費税増税)措置をとる」と国会で熱弁していたのはつい最近の話である。そんな民主党政権は、政府のリストラを全く行うことなく増税を断行しようと意気込んでいるようだ。筆者も消費税の増税はいずれにしても避けられないと考えているが、それでも増税する前に、経済成長が止まり、政府債務だけが積み上がっていく、この日本という国家を大掃除してもらいたいと切に願っている。そこで今回は菅内閣に増税する前にぜひともやってもらいたいことをみっつ述べたい。
1.一票の格差をなくす
さんざん多くの識者に指摘されていることである。前回の参院選では、人口900万人の神奈川県民が選出した議員は3人、一方で人口が60万人しかいない鳥取県は1人の議員を当選させた。つまり鳥取県民が一人一票持っているとするならば、神奈川県民は一人0.2票しか持っていないのである。これが民主主義といえるのだろうか。このように人口が少ない県が多大な政治力を行使しうる、県単位で行われる現在の参議院の選挙制度に問題があるのは誰の目にも明らかだ。裁判でもこれらの一票の格差は憲法違反であるという判決が次々とでている。
解決策は簡単で、選挙区を県単位で分けずに一票の重みがほぼ同じになるように地域ブロックを分けるだけなのだ。増税の前にはやくこの簡単な問題を解決してほしい。
2.TPP参加
菅首相は年初に「本年を、明治の開国、戦後の開国に続く、『平成の開国』元年にする」と宣言した。筆者は大変素晴らしいことだと思う。最近の相撲の八百長スキャンダルを見ていても「国技」として聖域化し国に守られ、市場での競争から隔離されているものは腐敗するのである。それは日本の農業も同じだ。様々な補助金と規制により農業を聖域化してきた日本は、創意工夫をしていいものを安く供給しようとする健全な農家をつぶし、都会のサラリーマンよりも年収の多い兼業コメ農家を増やし続けてきた。TPPに参加して、全ての農産物の関税を即刻ゼロにしてもらいたい。
3.公務員のリストラ
民主党はマニュフェストで総人件費2割削減を約束していた。しかしこの約束は完全に破られることになった。当たり前だが、これは政府にあまり無駄がなかったということではない。膨大な数の公益法人や国にぶら下がっている半民半官の民間企業、そしてそれらに天下りする官僚たち。明らかな膨大な無駄が存在している。しかし多くの国民にとって税金が無駄というのがコインの表側だとしたら、コインの裏側は一部の団体にとって手放すことができない利益なのである。結局、民主党政権はそういった利益団体に屈したということだ。
最近では学生の就職先の人気ナンバー1が公務員だそうである。なるほど絶対首になることがなく、その上で給料が高かったら当然である。これの解決策も非常に簡単だ。リスクの少ない公務員の給与を民間企業の平均給与より下にするだけだ。または民間企業と同じように、必要がなくなった仕事は大胆にリストラすることだ。公務員の多くの仕事は単純な定型業務である。優秀な学生は民間企業で付加価値を生み出す仕事をするべきだ。むしろ公務員のような単純な事務作業は、障害者などのハンディキャップを負っている人たちに積極的にゆずるべきなのだ。
筆者は、国家のグランドデザインを議論して、もっと効率的なリストラクチャリングをするべきだと思っているが、それができないのなら公務員の給料を約束通り一律2割カットしてもらいたい。
以上。
参考資料
日本の選挙制度改革:農家の基盤崩し、英エコノミスト誌
いよいよ消費税が切り上がる、アゴラ
若者が搾取される理由、アゴラ
農業と安全保障に関する私見、アゴラ
コメント
どれも重要で早くやってほしいですね。しかし菅内閣は3月末までに潰れてしまいそうです。で、たぶん次に政権を取るのは自民党ですが、谷垣では期待ゼロです。何もできずに菅内閣を笑えないぐらいに支持率はあっという間に落ちてしまうでしょう。ということは、石破内閣が誕生するかもしれませんが、財政に行き詰って焼き切れると想像します。何しろ高齢者の既得権を奪い取る気はさらさらないようですから。で、みんなの党がキャスティングボートを握って日銀法改正、名目成長率4%で社会保障問題解決なんて言い出すでしょう。そうなったら金がばら撒かれて巨大バブルが形成され、そして遅れて物価が上昇し、バブル放置で最悪ハイパーインフレになってしまうか、バブル崩壊で世界恐慌を起こすかもしれません。いずれにしても改革が遅れれば遅れるほど取り返しのつかないことになるでしょう。
と、個人的に勝手な想像をしております。
>公務員のような単純な事務作業は、障害者などのハンディキャップを負っている人たちに積極的にゆずるべきなのだ。
この一文にハッっとさせられた。たしかにその通り。
私は、成長戦略を徹底的に進めて、支出を大幅に削った上でなければ、認めません。支出の中で大きな割合を占めている部分は、社会保障です。この老人優遇・若者虐待社会の元凶になっているのも、老人バラマキ用の社会保障です。この部分にメスを入れなければ、断じて、増税を許さない。
次に、必要な事は、成長戦略です。ゾンビ企業を叩きつぶし、硬直的な労働市場を潰し、対内直接投資や企業買収等のように資本市場を改革し、企業の新陳代謝を進めて欲しい。これを、やらないで、増税は、断じて許さない。
最後に、大前研一氏の持論でもある「容積率」の緩和を進めて、土地の有効活用を進めて、土地の効率性を高めて欲しい(http://president.jp.reuters.com/article/2010/11/15/4B4B4A56-EE0D-11DF-99A1-8EC83E99CD51.php)
私は、この三つを実行しないで、増税は、許さない。
高齢者や貧困対策において、ボランティアやNPOに頼らなければならない現実は公務員が不足している証左ではないでしょうか。
公務員の世界は、人員配置に大きな偏りがあるのです。暇で楽な仕事に多数の人員を配置し、多忙で人手が足らない仕事には少ない人員しか配置されないのです。高齢者対策等では、本来は一人一人の事情をじっくり聞いて支援すべきなのですが、人員的にもとてもそのような余裕はありません。
特に市町村役場の公務員は、市民の相談にいつでも適切に対応すために、ある程度の暇は必要なのです。公務員のリストラは人員削減ではなく、給与削減で行うべきです。それと、公務員住宅は廃止すべきです。これは、現物支給としての隠れた給与だというばかりではなく、住宅問題について、公務員に一般市民と同じ感覚を持ってもらうために、ぜひ必要なことです。
TPPの件で、兼業農家は儲かると書かれていますが、何処の兼業農家の話なんでしょう。
うちの実家は米の兼業農家で周りに比べて比較的大規模でやってますが、昨年は不作で大赤字ですよ。豊作でも家計の少し足しになる程度しか儲かりません。
米作るには、高い機材そろえる必要もありますし、肥料、農薬代もかかります、サラリーマン超える年収ってもしかして経費考慮してないんでは?
知り合いの農家でも儲かってウハウハなんて人は一人もいません。
私の知らない世界の農家はそんなに儲かっているんでしょうかね。不思議です。
選挙区を割り直すのはハードルが高いですし人口が移動すればまた不公平が拡大します。僕はより容易な修正として国会での議員の持ち票を一票ではなく有権者数とすることを推薦します。これであればハードルが低いし人口の変化に追従しやすい。
連投失礼。
あとTPP賛成論者は戦略性の欠如批判に応える必要があるのでないかと思います。
http://www.hmacky.net/2011/01/post-2886.php
http://www.hmacky.net/2011/01/tpp.php
http://www.hmacky.net/2011/01/post-2887.php
問題はどれも実現することができないし、消費税にしても上げることができないことです。
それは、決断する人がいないということ。これにつきます。どの項目もやらなければならないことなのでしょうが、実行しようとすれば、必ず反対する人が出ます。それでも実行した人は概ね不幸が待っています
当事者にしてみれば既得権が奪われそうになれば反対するでしょう。それは当然です。もちろんマスコミが正論を報道するでしょうが、マスコミ自身も既得権が奪われそうになればどんな手を使っても妨害しようとするのはアゴラの読者ならよくご存知かと思います
つまりは何もできない。時間だけが過ぎていく。とりあえず選挙をする。こうなるのではないでしょうか。
面と向かって増税だというと、みんないい気はしませんからね。インセンティブの組み換えとかなんとかいった方向でやるべきですけども、たとえばベーシックインカムを平行して検討するとか。もちろん公的扶助とか年金受給者などの、すでになんらかの給付の対象に与っている方には、その給付額と相殺するような形で。そんな感じでなら現役世代に回りそうですからね。なにか、そういった健康で無地息災であって、福祉サービスなどの給付にかからないことでもらえる給付とか、そういう成功報酬みたいなものもあっていいんじゃないかと思うんですけどね。もちろん福祉サービスを受ける人もその財源に当てられるわけなので損はしませんし。過剰な福祉サービスなどを受けないことでいくらかの現金がもらえるならば、というインセンティブがはたかないですかね?
公務員の人件費の2割削減が無理なら、公務員の給料の2割を日本国債で渡したらどうでしょう。そうすればストックオプションみたいに日本国債の価値を高めるように働くインセンティブになると思います。
公務員人件費抑制は、絶対に、人数でなく年俸の引き下げでやるべき。
そうしないと少数の公務労働貴族が温存される一方、公務請負の法人などで非正規労働の擬似公務員ばかり増え、税金の対価としてのサービスが低下してしまう。(これらは人件費にカウントされない。)
市町村職員の場合は、年俸を3割カットしても、転勤がないので共働きを奨励すれば、人材の域外流失を止められる。カット分で1割の人員増をはかれば、介護・福祉・教育のマンパワーを増やし、地方の雇用吸収力も維持することができるだろう。
しかし、国のトップに立つキャリアだけは、少数化しつつ、現在の数倍の報酬を与えて高度化すべきだろう。採用にあたっては中途採用を原則とし、MBAや修士・博士号の取得、民間・海外経験を条件とするなどして、民間との交流を促進することも、省益縦割りを防ぐ上で重要だ。
全く同感。
特に「一票の格差」は諸悪の根源だと思います。これを今まで放っておいた司法には情けない思いです。
それと最近、増税止むなしの風潮が出始めていることに強く危惧の念を抱きます。現状では増税は断固反対すべきでしょう。
増税もまた問題の先送りなのです。