いよいよ消費税が切り上がる

藤沢 数希

菅政権が内閣改造を発表した。目玉人事は与謝野馨経済財政担当相である。与謝野氏は自民党時代から消費税増税論者であり財政規律を非常に重視する人物であった。また、元大蔵省主計局主計官である藤井裕久官房副長官も重要な人事である。ふたりとも財務大臣を歴任しており、財務省と太いパイプを持つ。それがいいことか悪いことかは別にして、現在の菅内閣は財務省の支配下にあることは間違いなさそうである。この72歳と78歳の元財務大臣コンビと財務省、そして彼らの手の平の上で必死に首相の役割を演じている菅直人が今後の日本の方向性を決定づけると、筆者は考えている。


この新内閣の目的はただひとつである。消費税増税だ。それは財務省の長年の願いである。先月に発表された平成23年度税制改正大綱からは、政府の増税に対する並々ならず気迫が感じられた。増税の本丸はもちろん国際的にも非常に低率が維持されている消費税だ。これを少しでもやりやすくするために高額所得者狙い撃ち増税を先に実施し、来るべき消費税増税に備えて国民感情に阿ていたのである。

筆者は増税するなら消費税しかありえないと常々主張してきた。その点で、消費税率を引き上げることは否定しない。しかしそもそも現在のように景気が悪い時に増税をするのは経済政策の原則には反している。景気が悪いときは減税をして、景気刺激をするのがセオリーだ。また今後は個人が受け取る年金などは減っていくだろう。しかしこれも非常におかしな話だ。なぜなら税金とは、政府から提供されるサービスに対してその対価を払うということだからである。ここでなるべく政府からのサービスを少なくして、そのかわり税金を安くしようという小さな政府と、逆に社会福祉などを手厚くし、そのかわり税金を高くしようという大きな政府が考えられる。本来はそういうトレードオフのはずだ。しかし我々日本国民が直面しているのは、増税で税金をどんどん増やしながら、社会保障などの国からのサービスを削減していくという大きな政府の税金を払い、小さな政府のサービスを受けるという現実である。これはアベコベではないか。

なぜこのようなことになってしまったのだろうか? 理由はふたつある。急速に進む少子高齢化と過去のマクロ経済政策の失敗だ。年金で暮らす高齢者の数が増えて、税金を払う労働者の数が減っていけば苦しくなるのはあまりにも当然だろう。日本は世界が経験したことがない急速な少子高齢化に直面している。しかし大きな理由は後者のほうだ。日本の政治家たちはこのような少子高齢化は完全に予測できたにもかかわらず、赤字国債を発行して、気前よく支持団体にばらまき続けた。赤字国債というのは未来の税金の先食いに他ならない。先に食われた税金をこれから現役の労働者が払っていくというだけの話である。こういった過去のツケをこれから毎年毎年支払っていかないといけないのだ。よって今後は増税され、その上で政府から受け取るサービスも減らされていく。

このような増税、低福祉という暗い未来を回避する方法は、個人レベルでは海外移住しかないだろう。政府レベルではふたつの方法がある。まっとうな方は移民政策である。アジアから移民を積極的に受け入れ人口ピラミッドを正常化するのである。もうひとつの方法は、政府が借金を踏み倒すことである。国債をデフォルトさせるか、日銀によるマネタイゼーションでインフレを引き起こすのだ。この場合、過去のマクロ経済政策の失敗は、日本円を保有している国民の財産が消滅するという形で辻褄が合わされることになる。この方法では、一時的に日本の金融システムを破壊するという、大きなリスクを国民が背負い込まなければいけない。

しかし菅内閣は増税により過去の経済政策の失敗を少しずつ解消していくという財務省主導のプランを実行していく強い意志を示した。どうやら我々は高い税金を払い、低福祉に甘んじなければいけないようである。そしてはやくもそんな消費税の抜け穴をめぐって、政治家と業界団体の醜い取引がはじまっている

参考資料
ケインズの乗数理論(Theory of Multiplier)がどうしようもなくしょぼいことのサルでもわかる説明、金融日記
なぜ増税は消費税でなければいけないのか? アゴラ
続・なぜ増税は消費税でなければいけないのか? アゴラ
ぶっちゃけた話、日本はもう移民政策しかないんじゃないだろうか? 金融日記

コメント

  1. OK より:

    もう一つあるじゃないですか。
    小さな政府を目指し、不公平を無くせば良いんですよ。
    公務員を1/100以下にし民間にサービスを任せる、宗教法人に対する課税、海外ODAの恒久的全面凍結、まだまだ、無駄は沢山あります。
    このように無駄が多いままで増税していけば、増税分は無駄な支出が食いつぶして赤字は減りません。
    無駄を徹底的に無くしてから、税の公平性を見直す為の消費税増税なら考えられますけど。
    ちなみに、不景気下での消費税増税は、消費税の増収分を企業法人税の減収が相殺し、下手をすれば税収は減るかもしれませんね。
    たばこ税の増税の結果どうなったかを見れば、有り得ない事ではないでしょう。

  2. tetuko_trail より:

    消費税上げるとしたら、今しかないと思います・・・やっと国民が福祉・年金・少子化の問題に意識を持ちはじめた今なら・・・ギリギリセーフ! なんて事になってくれなかなぁ~ 管政権、それで終わりでしょう・・・思いっきり上げたらいい。

  3. genjituhakibisiinnda より:

    今上げなきゃいつ上げます?、もう今後上げる機会なんて恐らく無いのじゃないですか?(あの小泉の時でさえ上げれなかったんですよ)

    で、消費税を引き上げたら間違いなく景気も悪化するでしょうね 

    我国は恐ろしい事を一気になんて誰も恐ろしくて出来ないですよ 今出来る事をチマチマやるしかないんです そして結局、どうしようもなくなって止むに止まれず・・・って姿が見え見えですよ
     
    もう我々は覚悟を決めないといけない時期に来たんです

    こんなのは皆最初から分かっていた事だし、政治家も悪いが、メディアも評論家も、そして国民も皆分かっていなきゃいけない事だった

    今まで政治家は立場上分かるが(それでも無責任過ぎた)メディアでも評論家でも、どれだけ厳しい事を言ってきた人がいる?

    皆、結局怖がって勝手な一方的な意見を言い、 未だに 「こうすれば我国は良くなる」と 無責任に言い続けている者がいっぱいいるではないか!

    今となってはこの国は何をするにも常にデメリットが付きまとう その中で評論家を始めとした各評論家が厳しい選択を国民や視聴者に向かって問うような姿勢をして行かなければ行けないのに

    ただ現政権を非難し その政権とは反対の政策の事を責任の無い立場で勝手な政策論を言っているに過ぎない

    どのような考えがあっても良いが、厳しさを含めたデメリットも言わないから現実論とはならないのだ!

    我国の将来はかなり厳しい事も見える状況下になって来ているのに、未だに景気が良くなるとかぬかしている無責任論者は最も現実を把握しようとしない愚か者とか言いようが無い

    今我国がしなきゃいけない事は 最悪を想定して、少しでも混乱や不平等による民衆の暴動等の無秩序な世の中にならないようにする事である

  4. rising629 より:

    >>1
    >公務員を1/100以下にし民間にサービスを任せる
    行政サービスを民間に任せたところで、所詮業務委託にすぎないのだから、税金から委託料と手数料が支払われることになるわけで、結局、税支出は変わりません。
    薬剤許認可などを完全に廃止してしまえば人は不要ですが、そうなると薬の中にトリカブト毒やサリンが混じってても誰も見抜けず、オウムのような組織でも製薬会社を作る自由を得てテロの温床にだってなり得ます。
    また、公教育を全廃して教育機関は全て私学、ということになると、公務員の数は大幅に減らせるでしょうが、高等教育どころか義務教育すら成り立たなくなり、私学の高い学費を払えない人は諦めなさい、て話になりますよね。日本がギニアやベナンになり得ます。
    自由競争にする、改革をするならするで、それに伴う傷にはちゃんと手当てをしないとダメですよ、と言っているのです。

  5. hariwo より:

    毎年、1兆円程度社会保障費がのびているということですが、
    例えば、医療費が増えるということは、病院や老人ホームに対して払うお金が増えてるということですよね。
    失業保険や生活保護についても、お金が消えてなくなるのではなくて、だれかの家計に入っていくだけですよね。
    病院・老人ホームで働く人や、製薬会社に働く人、医療機器会社で働く人、そういった人達が毎年1兆円分多く給料をもらえるようになるということになりませんか。
    給料をもらえば所得税がかかるし、食料品を買えば消費税もかかる。
    食料品が売れれば、食料品を作る人も給料をもらい、税金を納める(以下ループ・・・)
    考えてみると、1兆円分まるまる損しているんじゃなくて、
    まわりまわって国庫に戻ってきている分もあるはずなんですが、税金が足りない足りない、増税だ増税だという論調になる。国庫に戻ってきていない分があるとすれば、
    ・海外から物を買って、お金が流出した。
    ・たんす預金になった。
    ・消費されず貯金された。
    →貯金については、銀行にお金を貸して、銀行が企業や個人に投資するからこれは除外される?
    いったい誰がお金の流れをとめているのでしょうか?藤沢さんの意見が聞きたいです。

  6. 消費税にはまだ15%くらい上げる余地があり、国には徴税権があり、これら二つを担保に低金利で国債が積み上がってきたのだと思います。これらの担保のうち、15%の余地は揺るぎない信用度の担保ですが、問題は後者です。国の徴税権は時の政府が国会を通して議決できて発動できるので、政府の信用度が鍵を握っているということです。ところで、形式的に無駄を削るパフォーマンスを見せ、わかりきった財政危機をことさら煽り、国民を恐怖に陥れて消費税を上げさせようと画策する政府と、根本的に構造改革して税を効率よく使える仕組み作りを行った上で、これだけ足りません、消費税を上げさせてくださいと頼む政府と、どちらの政府が消費税を上げることができるでしょうか。日本人は嘘つきや騙し討ちや姑息な真似を忌み嫌う民族です。また誠実な人には協力を惜しまない民族です。答えは明らかでしょう。

  7. agora_inoue より:

     公務員数を100分の1にするのは簡単なことです。行政機関を片っ端から行政法人(エージェンシー)に組織替えすればよい。すでに国立大学は「大学法人」となっており、教職員は非公務員化されています。
     しかし、それで行政が低コストになるかどうかは、全然別の話です。
     外部性や自然独占のために民営化しようのないサービスも多いのです。交通網整備や消防や防衛や警察や公衆衛生をどうやって民営化するのでしょうか。

  8. hogeihantai より:

    >>海外からものを買って、お金が流出した。

    ドルは流出しても、円貨は流出しません。円建てで輸入しても海外に流出した円貨は日本でしか運用できないので結局日本にもどってきます。政府の支出を増やしても非効率な使われ方しかされず、乗数効果が一以下で経済成長にあまり寄与しない。従って個人も企業も所得が増えず国の税収も増えず公的債務のみが増えていく。

    >>6

    国が自由に増税できるとは言えません。ギリシャは歳出カットと増税を同時にやりましたが、これができたのは赤字縮小がIMFとECBの援助の条件となっていたからです。ギリシャの野党や与党の一部でも増税には反対が強かった。日本でも消費税を15%に増やす事は政治的に困難で、これができるのはIMFに援助を要請した後になる可能性が高い。金利が急騰し多くの銀行が経営危機になる前に10%以上の増税をする事は困難かもしれません。何故なら国民の殆どが貴方の様に現状を危機的とは認識していないからです。

  9. >> 8
    政治家の役割とは国民を代表して現状の困難の打破を誠心誠意試みる姿を見せることだと思います。その姿が国民の心に響けば、結果を受け入れることはそれほど困難には思えません。民主党は公約通り、まずは鼻血が出るほど努力しろと言いたいわけです。その結果を持って次期総選挙で国民に信を問えということです。
    私など日本の財政など心配する余裕はなく、私の目の前の生活の危機感で溢れております。私の事業は今の5%の消費税でも苦しくて10%になったら潰れて路頭に迷いますが、それでも政治家が本当に頑張ってくれたのなら、その時はその時と割り切れる気もするのです。
    しかし、今の公務員様の裕福な生活と手厚い待遇を目の前で毎日見せつけられて、血色の良いメタボヅラで「日本の財政が危機的だ」なんて言われても、本当に青くなる顔を見てみたくなる自分が怖いです。

  10. hariwo より:

    >>8
    質量保存の法則といっていいのかわかりませんが、海外から物を買えば、それと等価のなにかを失うはずです。円貨は流出しないのかもしれませんが為替相場・・・、その話は置いておきましょう。
    税金がどんなに非効率な使われ方をしても、誰かのふところにはいって消費し納税されるはずです。しかし、実際に税収が減っている・・・。
    ・お金をふところに入れた人のタンス預金がつみあがっているから
    ・金をふところに入れた人の銀行の預金が増えたが、銀行が融資先を見つけられず豚積みされているから
    ・企業の内部留保になっているから
    ・年金やらで将来はらうためのお金を大量に確保し積み上げているから
    いずれにしろ、結局誰かがお金の流れをとめているとしか考えられません。
    じゃあどうやってお金を動かすか、流れをとめないか、その方法を考えたときに消費税を増やすという答えはでてこないと思います。
    インフレを起こして、現金を持ち続けることのメリットを減らすしかないのではないでしょうか。

  11. きき、きんとーれ より:

    4があまりにも不勉強なので指摘を。
    規制の撤廃をあまりにも悪く考えすぎています。多くの人に受け入れられるモノを作らないと、企業は生きていけないのですよ?

    >薬剤許認可などを完全に廃止してしまえば人は不要ですが、そうなると薬の中にトリカブト毒やサリンが混じってても誰も見抜けず、オウムのような組織でも製薬会社を作る自由を得てテロの温床にだってなり得ます。

    そんなことして製薬会社としてやっていけるのかどうか、0.1秒考えたらわかります。毒を売るのか、良薬を売るのか。どちらが企業として存続していけるのか、0.1秒考えてからモノを言って下さい。
    んで、実際にそんな会社が出て死人が出てもそんな会社すぐに淘汰されます。
    そのために死人が出てもいいのかですって?そもそも出ないでしょう。薬剤許認可を政府があっせんすることによって製薬会社が決して毒を売らないことになる理由を教えてくだしあ

    >また、公教育を全廃して教育機関は全て私学、ということになると、公務員の数は大幅に減らせるでしょうが、高等教育どころか義務教育すら成り立たなくなり、私学の高い学費を払えない人は諦めなさい、て話になりますよね。
    >私学の高い学費
    1の考え方だと、税金が少なくなる上に、私学の学費が下がるので、あなたが思っているほど学費を払えない人は出ません。

    ていうか何かいちいち細かいこととか反論してきそうですが、俺が言ってることが理解できないくらい頭悪いなら、あなたは市場から淘汰されるでしょう。

  12. きき、きんとーれ より:

    7へ

    >交通網整備や消防や防衛や警察や公衆衛生をどうやって民営化するのでしょうか。

    んなモンを民営化したらアカンに決まってるやろw公衆衛生はよくわからんけど。
    何を民営化しなアカンのか勉強せずにモノ言ってんちゃうぞ。マジで出直してこいや。イヤマジデ

    >すでに国立大学は「大学法人」となっており、教職員は非公務員化されています。

    いや国立大学がそうなってても、って話なんじゃない?ちょ、言いたいこと言いにくいけど、もうちょっと勉強してw
    国立大学「職員」が民営化されてようが、それが日本のトータルの教育コストの何%占めてんの?細かいことつついてるだけにいかにもみたいなツラしてんちゃうで?

  13. プライマリーバランスというわけのわからんカタカナ用語の本質は、公務員の人件費(約40兆円)を全額税収だけで賄えるようにすることだそうです。道路や建物などは資産として残るので国債(借金)で賄うのは平気だが、自分らの給料が借金から出ているのでは安心できないというわけです。そこで「日本の財政(=自分らの給料)が危ない」ということで消費税増税やむなしという世論を煽っているのです。しかし、上司をド突いても解雇されない身分の公務員様のために、1円単位で勝負している末端の小売や、消費税のしわ寄せをもろにかぶる中小零細の下請けの人々が、おいそれと消費税増税を許すはずはありません。去年の夏の参院選の前に菅首相が漏らした消費税発言にNOを突きつけた国民の多さを忘れてはいけません。「日本の財政破綻」というどこか遠くの近未来の話と「自分の生活破綻」という目の前の直近の危機を比較して、消費税増税やむなしなどと悠長なことを言っている人は、実は余裕があって危機感が足りないのです。おそらく消費税を増税すると倒産して納税者から生活保護に落ちて税で面倒を見てもらう人が激増するでしょう。

  14. きき、きんとーれ より:

    >13

    まさにその通りやと思います。