EV充電方式をめぐる争いとメディアの無理解

山田 肇

「競争力への影響は」「欧米が日本に対抗する理由は」「日本が世界規格を押えて成功した事例は」「世界規格を押えるにはどうすべきか」。5月22日に電気自動車(EV)の充電規格CHAdeMO(チャデモ)協議会の志賀会長(日産)が「欧米方式と対立するのではなく、併存するように努力したい」と語って以来、メディアから次々問い合わせの電話が来る。

日本経済新聞は『EV充電規格争い、日本の勝算は?――設置実績では先行』、朝日新聞は『EV充電、狙う主導権 日本・チャデモ、実用化で先行 米独・コンボ、独自型で対抗』と見出しを付けた。産経新聞も『EV向け急速充電規格 日本「対立の米独説得」「互換性確保」』と、メディアの関心は高い。しかし、これは重要な争いなのだろうか。

充電方式がEVの市場競争要素だと、僕は思わない。走行距離を延ばす駆動制御、ITS(高度道路交通システム)と連携した走行支援など、競争すべき要素は他にたくさんある。他方、充電はEV普及の前提だから、世界中で同じ方式が利用できるように、自動車メーカは協調したほうがよい。


そもそも、産業にとって重要なのは市場の獲得であって、規格を押えることではない。

この程度の理屈も理解できないのだろうか。一年ほど前にそんな実情をメディア関係者に嘆いたところ、「メディアは万能ではないから教えるしかない」という返事があった。それはその通りだが、僕には「教えてもらえる」という甘えがメディアの側にあるような気がしてならない。

せっかく教えても利用されないときもある。HD-DVDがブルーレイに敗れ市場から撤退した際、「ブロードバンド化でディスクは時代遅れになるから、早期撤退を評価する」とコメントしたところ、いっさい取り上げられなかった。「HD-DVDをすでに購入した人々への責任」と、企業の都合で消費者が迷惑を被ったという趣旨の記事になっていた。

メディアには著しい思い込みがある。「日本型はすばらしい」もそうだし、「消費者は弱者」もそうだ。金持ちのオーディオビジュアルマニアしか、市場投入直後のHD-DVDなど購入したはずもないのに。

日本経済新聞によると、チャデモの充電ステーションは世界中に1400カ所だという。一か所につき百万円の改修費がかかったとしても、総額は14億円に過ぎない。すでに販売したEVの改修だって高が知れている。志賀会長のいう「併存」ではなく、欧米に折れても大した影響は出ない。

IEEEにおける無線LAN標準化をケースとして、活動の実態と経営との関係について専門家が解説するセミナーを5月30日に開催する。僕に電話をかけてきたメディアの方々は是非参加してください。

山田肇 -東洋大学経済学部-