ラジオの生き残りをかけた検討会が始まる

山田 肇

総務省が「放送ネットワークの強靱化に関する検討会」を組織し、今日2月27日に初会合が行われるそうだ。報道発表によると、低地・水辺に立地する中波(AMラジオ)送信所の防災対策と、AMラジオの難聴対策を検討するそうだ。

これだけでは趣旨がつかめなかったが、読売新聞記事を読んで合点が行った。ラジオのデジタル化にはNHK・民放ともに及び腰で、また難聴に対処するためAM局にはFMへの移行を考えているところもある。そこで、ラジオ放送の今後の在り方について検討するというのだ。


デジタルラジオ受信機が普及する見通しが立たない以上、デジタル化を放棄するのは正しい決断だ。一方、現行のラジオ受信機は毎年国内市場に150万台前後が出荷され、そのほかにも家庭や自動車のオーディオで受信可能なので、インストールベースは大きい。AM・FMならほとんどの世帯にリーチできるから、総務省が重要視する「災害情報等を国民に適切に提供」するのにも役立つ。

AM局がFMに移る際に問題となるのは、基幹放送普及計画で規定される放送対象地域の規定である。AMでは関東、近畿、中京広域圏での放送が可能だが、FMでは都道府県域に限定される。したがって、東京のAM局がFM化すると、今のルールのままだと、千葉・埼玉・神奈川などの市場を失うことになる。しかし、「災害情報等を国民に適切に提供」するのがラジオ放送に残された使命というのであれば、放送対象地域は狭いほうがよい。その地域にとって切実な災害情報がより多く提供されるからだ。数日前に栃木県で地震が起きたが、東京のAM局から関東圏全域に関連情報を送るよりも、宇都宮から県内向けに送信するほうが栃木県民には頼りになるということだ。

放送持株会社制度を適用すれば、東京のAM局を分割して、同一資本の下に、東京・千葉・埼玉・神奈川などそれぞれにFM局を設置できる。TBSラジオ東京、TBSラジオ千葉、といった具合に。ただし、今の放送持株会社はテレビとラジオを傘下に収めているので、それとの整合という問題は残るが。

ラジオ放送の市場は縮小を続けている。新たな使命で生き残りを図ろうとするのであれば、基幹放送普及計画や放送持株会社制度を含め、今までの規制の在り方も見直す必要がある。検討会が議論を深めることを期待したい。

山田肇 -東洋大学経済学部-